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リサイクル

作者: 目262

 中東、油田地帯。

 某石油メジャーの会長は不機嫌だった。原油安による業績不振の対策を検討しなければならないのに、幹部の一人が緊急事態だと、中東の古い油田に呼び出したのだ。

 現場に到着した彼は、ヘリポートで当の幹部とお抱えの地質学者の出迎えを受けると、そのまま広い会議室に案内された。自分たち以外の人間を退出させて、幹部が早口で説明する。

「数日前、原油の埋蔵量を調査するために新開発した水中用ドローンを油田に潜らせたのですが、このような映像が記録されていました。ご確認を」

 彼が指差す百インチを超えるモニターに、ビデオが流される。

 薄暗い中、黒い湖のような場所にカメラが浮かんでいる。カメラは定期的に水平回転と垂直回転を交互に繰り返しており、その動きと連動してサーチライトの白い光がカメラの写界を照らしている。遙か上方は漆黒の岩盤で覆われており、そこが巨大な地下空洞であると思わせる。遠景に浮かび上がる島のような影をカメラが捉え、拡大ズームする。

 高く聳える尖塔を無数に生やしたその島の表面には茶色い石造りの巨大な建物が延々と屹立し、四角や丸い窓が無数の口を空けていた。

 両目を大きく見開きながら黙って見つめる会長に幹部が小声で囁く。

「この機械には小型の空中ドローンが内蔵されています。それを飛ばして撮影した映像がこの後に続きます」

 画面が切り替わり、下方を写したカメラがゆっくりと上昇する。サーチライトの光の中、イルカのような形の水中ドローンが映し出され、見る間に小さくなる。ある程度の高度を保ったままカメラは島の方に移動していった。

 近頃よく見る大都市の空中撮影と同じ映像が流れていく。建ち並ぶ無数の高層ビル、隙間を縫うように伸びる幅広の道路、広場とそこに聳える尖塔。違うのは長い間原油と泥に浸かっていたせいで色彩が黒と茶色のみであることと、一切の生き物がいないことだけだ。カメラが前方を映し出すとそのような光景が延々と光の届く限り続いていた。

「たぶん原油に浸かっている部分にも同じものがあるでしょう。ぱっと見でも数千万人から数億人規模の大都市です。どの位のレベルの文明なのか、何故こんな地底にあるのかは今後の調査でわかってくるでしょう。そのための機材は……」

 興奮気味に話す地質学者を会長は手で制した。

「この映像は破棄しろ。今後ドローンを使った調査は禁止だ。君たち関係者全員に一生遊べる額のボーナスを出すから、この事は墓の中まで持っていけ」

 彼の言葉に地質学者は面食らった。

「数億年前の超古代文明の遺跡ですよ?世紀の大発見です!歴史に我が社の名前が残る事は、大きな利益になる筈です」

 会長は大げさに頭を左右に振ってみせた。

「君も知っているだろう。原油は生物の成れの果てなんだよ。君の話が本当なら、我々が今までここから吸い上げてきたモノの正体は何かね?世界中の油田にここと同じモノが埋まっているとしたら、今まで通り石油が売れると思うかい?脱石油化の流れと併せて今の時期、これを公表したら我が社は潰れるよ」

 沈黙する幹部と地質学者を交互に見ながら会長は言った。

「それより君たち、葬式は土葬にしろよ。カネの亡者の我々でも、数億年後は人様の役に立つ事が解ったんだ」

 会長は会議室が禁煙にも関わらず、タバコに火を点けて、自嘲気味に唇の端を吊り上げた。

「もっとも、我々を吸い上げる奴等も、同じようなカネの亡者だろうがね」

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