フクシュウとチョコレート1-7
この作品はフィクションです。
「………なるほど、ね。ありがとう。だいたいわかったわ。」
彼女から、男の名前、住所、容姿などを聞き、メモにまとめた。
もっとも、相手は詐欺師。名前は偽名だろうし、教えられた住所にも、もういないだろう。下手をすれば、容姿も変わっているかもしれない。
でも、少しでも多くの情報を知ることが大切。
「じゃ、最後に確認ね。最優先事項は、騙し取られた800万を取り戻すこと。間違いない?」
「………はい。」
「おっけー。あとおまけで、二度とあなたやあなたの家族に近寄らないようにする、ってのもできるけど、やっとく?」
「………お願いします。」
「おっけーおっけー。じゃ、おまけでやっとく。で、あとは報酬なんだけど…」
「………。」
「あれがいいや。ミストモルテンの濃厚チョコブラウニー。」
「………え?」
「ん?」
「………あ、いえ………。」
「どした?」
「………いえ、その………、お金、じゃ、ないん、ですか?」
「何が?」
「その…報酬。」
「お金じゃないわよ。チョコ。」
「…チョコ。」
「そう。チョコ。」
「………。」
「あ、ちなみに、壷チョコレートは契約のためだから。いわゆる前金みたいなものだからね?あれは報酬には含まれないわよ?」
「………はぁ。」
ポカンとした表情の彼女。まぁ、それも仕方ないと言える。報酬、と言えば、普通はお金を連想するものだ。
しかし!
私にとって、お金よりも大事な物!それが!チョコ!チョコレートなのだ!
故に、報酬にチョコレートを要求することに、なんの不自然も不可思議も不確定要素も無いのだ。
「あ、でも油断しないでね?。ミストモルテンの濃厚チョコブラウニーって人気商品だから、多分半日待たずに売り切れると思うし。お金用意するより、下手したら難しいかもよ?」
「………、頑張ります。」
「よし。頑張って開店前から並んで、無事にゲットしてきてちょーだい。」
「は、はい。」
「じゃあ最後に、連絡先を教えて?メールとかは小まめに見る方?もしそうなら、メールの方が面倒くさくなくていいんだけど。」
「は、はい。…あの、メモか何か…」
「はい。」
私が差し出したメモ帳に、アドレスを書き込む彼女。
「………はい。」
「…おっけー。じゃ、仕事完了したら、ここに連絡事項入れるわ。あ、うちのメルアドは、これね。」
服修屋の名刺を渡す。
「このアドレスから、服の修繕完了しました。って感じでメール入れるから。そしたらまた来て。あ!濃厚チョコブラウニー忘れずにね!」
「は、はい。」
「じゃ、結果をお楽しみに~。」
彼女を笑顔で見送って、店の扉を閉める。そして、
「………、」
私は電話をかけた。仕事が入った以上、行動は迅速に、なのだ。
「………あ、もしもし?後輩くん?私私。とりあえず来て、店に。15時には、しまもっちゃんがコート取りに来るから、それまでに来て。私ちょっと野暮用で出なきゃなんないから。とりあえず、しまもっちゃんだけクリアすれば後は閉店にしといていいからさ。じゃあそういうことで。」
ぴっ
これでよし。店番は確保できた。
電話の向こうで、苦情だか愚痴だか説教だか、そんなような言葉を後輩くんがのたまっているのが聞こえたが、いつものことだから知ったこっちゃない。
しまもっちゃんのスーツと、あと私の優しさで、後輩くん用におやつの塩昆布を準備すると、私は、とある場所へと向かった。
チョコレート食べすぎ注意!