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流石にそれは、専門外です

 

 一先ず、この場所で効果を試すのは危険ではないかと言われましたので、皆揃って屋敷の庭に出ます。庭はよく手入れされた花の多い美しい場所で、数名の使用人が休憩を取っていました。

 私は例の糸が編みこまれた羽織を着、すぐにでも検証が出来る態勢でございます。ヒストリア殿は少々不安そうな趣ですが、反してルルーシュ殿は楽しみで落ち着かない様子です。


「では、魔法を撃つなり剣で斬りかかるなり、お好きにどうぞ」


 私は降参のポーズを取り、笑みを浮かべて皆さんが動くのを待ちました。側仕えの方が剣を構え始めます。攻撃する気満々ですね。


「さすらい様、本当に大丈夫ですか? その…さすらい様が不良品を売りつけるという事などないというのは分かっていますが…」

「心配ご無用。昔使用していた物ですので」


 すると、突然私の周りに丸い青白い結界が張られ、背後に少し気配を感じました。振り返ると、領主殿がこちらに手を向けているのが見えます。どうやら不意打ちに魔法を撃ってきたようです。

 成る程、領主殿は魔法がお得意なようで。とても残念そうな顔をして、目を細めてこちらを睨んでおります。


「さすらい、当たっても大怪我程度で済む魔法を撃ったつもりだったんだが」

「”大怪我程度”って…。領主殿、結界が効かなかったらどうするおつもりだったんですか」

「さすらいなら大丈夫」


 何ですかその根拠のない期待は。流石に私でも大魔法を諸に喰らったら怪我くらいしますよ。普通の上級魔法程度ならば平気ですが。


「凄いよさすらい! 今のが結界なの?」


 ルルーシュ殿が目を輝かせます。男の子ですからね、魔法に興味を持つのは必然的でしょう。


「ルルーシュ殿も、お買い上げになりますか?」

「買う! 欲しい!」


 ルルーシュ殿が私の羽織を引っ張って楽しそうに笑っていると、またもや突然結界が張られました。

 今度は剣のようです。斬りかかってきた側仕えの方が驚いた表情をしております。


「ちょっとー領主殿ー、一応ルルーシュ殿がいるんですけどー」

「その結界は…着用している者以外も守れるのかい?」

「予め結界の範囲に入っていれば、ですけど」

「敵が入るという可能性は?」

「その場合、勝手に弾き出されるので」


 そう言った途端、領主殿とヒストリア殿の顔色が変わりました。その目は、さながら獲物を見つけた獣のようです。

 ルルーシュ殿などさておき、二人して私に詰め寄ってきました。


「さすらい、提示した額の倍だす。その代わり、全部買おう」

「待ってください、さすらい様、我々にも売ってくださいますよね? 殿下はこれから、お命を狙われる事が増えてくるのです」

「領主殿、そういう事でしたら全てお買い上げいただきましょう。ヒストリア殿、王都についたら作ります故、それまでは私のこれを」


 私は自分の羽織を脱ぎ、ルルーシュ殿に被せました。病気で塞ぎがちだったルルーシュ殿は、平均の十歳の子供より一回り小さいです。可哀想に、病気の影響で成長が遅かったのですね。

「魔性疾患」は、体内を蝕む病。同時に体力と栄養分も吸い取られます。長生きするものではございませんが…あの薬のおかげで、ルルーシュ殿は普通の子供のように飛び回っております。体力はまだまだ同年代には及ばないでしょうが、それもこれから何とかしていけるでしょう。


「では領主殿、商談といきましょうか」


 *


 その後、客間で一対一で商談を行い、無事に糸を十束程お買い上げいただきました。いやはや、意外にもお金は持っている様子で。それとなく少々法外な値段を提示してみた所、二つ返事で払ってくださいました。

 え、ちゃんとした値段でやれと? 嫌ですよ、私の懐に入った時点で、もうそのお金は私のものです。


 側仕えの方に「どのように作るのか」と聞かれましたが、企業秘密と答えさせていただきました。流石に公表する事は出来ません。

 作り方としては、染まりやすい糸を用意して私の魔力に一週間程浸す、という至極簡単なものです。ただ、何故だか私の魔力でしかこのような効果を発揮いたしませんので、作り方を教えた所でどうって事ございませんがね。


「さすらい、勉強って、しなきゃいけないと思う?」

「ルルーシュ殿は一応王子ですし」


 庭で寛いでおりますと、ルルーシュ殿が声をかけてきました。斜め後ろでは、ヒストリア殿は大変困ったお顔をしております。


「病気もお治りになったので、殿下は今まで以上にたくさんの事を学ばなければなりませんよ。…と、先ほど申した所、私にもそのような質問を」

「嫌ならば無理にする事はないと思います」

「だよねー」

「ですが、苦労なさるのはルルーシュ殿ですよ? 将来公務をなさる事もあるでしょう。そんな時、毎度毎度、側仕えやヒストリア殿に支えられていてはなりません。最終的に、良い様に利用されるのがオチです」


 特に、今まで皆に度外視されていたルルーシュ殿が、突然病気を治されたのです。敵が増える事で、王権争いをしているであろう他のご兄弟方がどう動くか…。


「さぁ、頑張るのだルルーシュよー」

「さすらい殿、そのような心無い言葉は止めてください。ふむ…何か殿下のやる気を彷彿させるような物はないでしょうか?」

「…将来的に私に利が降るのでしたら、特別に謙譲いたしますが」

「宜しいのですか?!」

「えぇ。ただし、ルルーシュ殿が国王陛下になられたら、国内での商売の利益をs」

「そういう話は、殿下のいない場所でいたしましょうね」


 商業も学ばせた方がルルーシュ殿のためになると思いますけどね。

 え、お前が教えるのは詐欺の方法だって? いやだなぁ、私、商人ですよ? 何処ぞの薬剤師のような事を申さないでください。


「勉強が楽になる?」

「なりませんよ別に。楽に勉強したって何も身につきませんし、私はそれをお手伝いする気もございませんよ」

「さすらい様…」

「人間、楽な方にならばいくらでも転がれるのです。ルルーシュ殿も、頑張ってみましょう」

「…うん、頑張る!」


 ニッコリと眩しい程可愛らしい笑みを浮かべ、ルルーシュ殿はヒストリア殿にも「頑張る!」と言いました。

 あ、ヒストリア殿の頬が緩んだ。後で願掛け(笑)をしたお守りでも売りつけましょう。


「ねぇさすらい、さすらいは頭が良さそうだけど、どうやって勉強したの?」

「私ですか? 私は暗記系でしたら、魔法具を用いて強制的に記憶に植え付けましたよ。後は元々の性格ですね。ほら、私性格悪いじゃないですか、だから商売が上手いんです」

「さすらい様…自分で言いますか…というか、アンタが道具使って楽してんじゃないの!」

「私、楽な方にならばいくらでも転がれますから」

「悪い人間の鑑のような奴だわ。殿下、さすらい様のようにはなってはなりませんよ」

「はーい」


 あれ、おかしいですね…命の恩人のはずなんですけど。

 まぁ魔法具といっても、この世界の物ではございませんがね。私の元いた世界の、すーぱーえきさいてぃんぐな道具です。

 それにしても、何だか、ヒストリア殿の視線が何か汚物を見るような、そんな見下したものになっています。私、何かしたでしょうか。


 *


「さすらい様、お部屋にご案内いたします」


 しばらく一人でボーッと空を見上げていると、領主殿の側仕えの一人が私の元へとやってきました。青い髪色をした彼は、先ほどの私の糸に、一番最初に苦言を申し出てきた者です。

 何だか不本意そうな顔はしておりますが、恐らく主の命令なのでしょう。


「それはお気遣いどうも。私、宿でも構わないんですがね」

「私は領主様の側仕え筆頭である、トターナル・エタスです。では、どうぞ」


 華麗にスルーされました。

 私は彼にあまり好かれていないようですね、さっきから一度も目を合わせてくれません。王子の連れ相手に無礼な。私は気にしませんが、他の方ならば不快に思うでしょう。このような方が側仕え筆頭とは、教育能力と人事係を疑います。

 いや…確か貴族は、自分で側仕えを選ぶんでしたね。領主殿は物に関しては目利きのようですが、人を見る目がないのかも…おっと失礼。一応カモーーもといお客様ですからね、こういった事はあまり考えないようにしないと。


 私はエタス殿の背中を追い、再び屋敷の中に入りました。

 少し前とは打って変わり、夕食の時間が近いからか、使用人の方々が忙しそうに行き来しています。今宵は王子とその乳母に騎士、有能な・・・商人兼医者が客人として来訪しているのです、いつも通りという訳にはいかないでしょう。


「さすらい様、私は、まだ貴方の事を信用していませんから」

「結構ですよ。商人としては、信じてもらう方がありがたいですが…領主殿との取引はもう終わったので」

「貴方の見慣れぬ格好、異国のようなその風貌、そして私の知らぬ不思議な糸…怪しいと思ってしまうのが必然的です」

「王子の連れなんですがねぇ」


 少し嫌味ったらしく言うと、エタス殿に思い切り顔をしかめられました。そんなに嫌な顔をしなくても良いのに、私、少し悲しいです。


「さすらい様…一つ頼みがございます」

「おや、信用していないのではありませんでした?」


 すると、エタス殿の足が止まります。既に人気のない場所に来てしまいました、彼の声は私にはしか聞こえないでしょう。


「私が信用していないのは、”商人としての”さすらい様です。何か詐欺師っぽいんで」

「今日それを言われたのは二回目です」

「殿下が仰っておりました。さすらい様は、『どんな事でも出来る』と。お金ならば幾らでも払います。ですからさすらい様、私に、『死者を蘇らせる薬』を売ってくださいませんか?」

「…流石にそれは、専門外です」


 というか、何言ってくれちゃってるんですか、ルルーシュ殿。


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