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さすらいぱわぁです

 


「ねぇお姉ちゃん、俺等と一緒に魔物討伐しな〜い?」

「そうそう、こんな男か女か分からない奴放っておいて、俺等と一狩りしようぜ」


 裏道を通って帰ろうとしたら、ナンパに遭いました。

 当たり前ですが、私ではなく、ローナ殿が。


 いやはや、異界にもナンパがあったのですね。私の元いた世界とあまり変わりません。しかし、異界式ナンパは、どうやら随分と原始的な様子。

 何ですか「一狩り」って。何でナンパなのに魔物狩らなきゃいけないんですか。魔物討伐って定番のデートでしたっけ? あれ?


「ねぇさすらい、行こ」

「え、ローナ殿、行かれないんですか? 意外と楽しいかもしれませんよ」


 中々危険なデートかもしれませんが、それこそが所謂「吊り橋効果」なのかもしれませんね。魔物討伐という命に関わる事を男女が行う…女性を守る事で株も上がる…冒険者や騎士の方々は喜びそうです。私は絶対しませんけど。

 ローナ殿は一人暮らしのようなので、何処かで金ヅルを引っ掛けておいた方が良いと思うのですよ。ナンパをしてきた二人組は見た目からして冒険者のようですし、中々良い素材の服も着ております、これは稼いでますね。

 これを機にゴールインしてしまえば、ローナ殿は好きな仕事が出来そうですね。状態の良い素材を売ってくださるローナ殿の店に余裕が出来ると、こちらとしては嬉しいですし。


 ですが、竹を割ったような性格のローナ殿は私に呆れ顔を向け、キッパリと冒険者二人組に告げます。


「この人と恋人同士なんで。他を当たってください」


 ローナ殿は私の片腕を掴み、二人組に敵意を向けました。勝手に恋人にしないでください。

 彼女の言い方が頭に来たのか、彼等は逆上してしまいました。


「あ゛ぁ?! 調子乗ってんじゃねェぞ」

「こんなひ弱な奴が恋人で良いのか? 捨てちまいな、せいぜい可愛がってやるよ」

「だ、誰がアンタみたいな奴と!」


 ひ弱と言われてしまいました。さて、矛先が完全に私に向く前に帰ろう…と足を動かしましたが、ローナ殿はその場に立って私の腕を掴んだまま、全く動こうとしません。


「さすらいは弱くないもの! そんじょそこらの冒険者なんかになんて、絶対に負けないもの!」「ほぉ? こいつがか? ハッタリも良いトコだぜ」

「そうですよローナ殿、私弱いから。超弱いから。デコピンしたら宇宙の果てまで飛んでいっちゃう程弱いから」

「何よ、一人旅出来るくらいの強さは持ち合わせてるって言ったじゃない!」


 こやつ、覚えておったか。

 しかしながら、現役冒険者とはあまり関わりたくありません。このままローナ殿を生贄にして屋敷に戻っても良いですが、それはそれで後味が悪い気がします。見捨てた後、ローナ殿が強姦された挙句殺されたりでもしたら、流石に良心が傷つきます。

 ふむ、それならばーー


「ローナ殿、ローナ殿に武器を授けます。かつて魔王を倒したとされる勇者の剣『ヘクス・ラリバー』です!」


 徐に懐から剣を取り出し、ローナ殿に手渡します。青白く力を秘めた光を放つ剣は、パッと見なら勇者の剣に見えます。でもこれ、本当は普通の剣に色々と添付しただけの偽物です。エクス・カリバーもヘクス・ラリバーも関係ございません。


「こ、これは…! って、そういえばさすらいって詐欺師だったよね、という事はこれは偽物か」

「誰が詐欺師ですか。私は商人です」

「いや、詐欺師でしょ。まず見た目から色々と詐欺ってるから」


 それはあれですか、私が女と男両方を似せているとでも言うのですか、失礼ですね。

 しかしながら、女子おなごならば護身用の武器を持っておくべきだと私は思うのです。このように絡まれたり、暴漢に襲われたりなんて事もありえますから。


「ま、その勇者の剣は差し上げるので、後は自分でどうにかしてください」

「は?!」

「強い女子はモテますよ」


 どうせその剣も見た目詐欺なので廃棄処分予定でしたし。

 あ、何か二人組から殺気が溢れ出しました。コレ「何いちゃいちゃしてんだ」的な雰囲気ですよね? 私恋人じゃないですよ。


「テメェ、この女売るのか?」


 下衆な笑みを浮かべ、男の一人は尋ねます。まぁ言い方を変えれば売る事になるんでしょうが。


「どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてください」

「何でよさすらい! 街を案内してあげたじゃない!」

「いや、頼んでませんし。勇者の剣あげたんだから、それでどうにかしなさい。貴殿は愛らしい顔立ちですから、きっとすぐに金持ちの男が群れ寄ってくるでしょう。それで店を拡張しなさい、また遊びに来てやるから」

「勇者の剣って何なの?! 幸福を呼ぶの?!」

「そう、幸福呼んじゃうんです」


 実は、購入体験者の約98.9%の方が効果を実感してるんですハイ。…あ、「幸福を呼び込む剣」って売れそう。適当に”神の御加護を受けた剣です”みたいな事言ったら売れそう。よし、今度作りますか。


 すると、二人組が剣を抜いて私に向けてきました。


「よく見たら、テメェも綺麗な顔してんじゃねェか。奴隷として売ったら少しは儲けになるかもな」


 此処は裏道。人は滅多に通らない。

 悪漢に絡まれる確率がある…逆を言えば、斬ってもバレないという事ですか。ローナ殿はどうでも良いですが、私にまで危害が加わる事になるのは、些か気に喰いませんね。


「ローナ殿なら連れて行っても構いません。だからその剣を下ろしなさい」

「はぁ?! ”私なら”ってどういう事よ!」


 ローナ殿はプンスカと怒っておりますが、私は完全に無視します。このままローナ殿を引き渡せば、後味は悪いですが騒ぎにはならなさそうです。

 え、この私が人間のクズだと? テメェが身代わりになりやがれと? いやいや、私は嫌ですよ。売るのは好きですけど売られるのは断固拒否ですよ。私にメリットがないじゃないですか。

 …かと言って、ローナ殿を引き渡した所で私にメリット等ないですね。ならば、善良は一般市民に剣を向けた冒険者ならば、憲兵団に引き渡す事で褒賞が貰えるかもしれない!


「もう良いです、ローナ殿は下がっていてください」


 彼女を後ろへとやり、私は一歩前に踏み出して左目にかかった髪を耳にかけます。隠されていた左目が露わにされ、二人組に向けられました。

 剣を取るわけでも、魔法を使うわけでもなく、私はただ両目を見開き小さく微笑むだけ。本当にそれだけだというのに、二人組の顔は見る見るうちに恐怖に染まっていきます。


「さ、さすらい…?」


 ローナ殿の呼びかけも虚しく、二人組は剣を落とし、そのまま地に膝をついて倒れてしまいました。口からは泡を吹き、白目を剥いています。

 突如倒れた二人組に驚いたのか、ローナ殿は飛び上がってしまいました。


「何をしたの?」

「微笑んだだけです」


 とりあえず武器は蹴っ飛ばしておいて、私は懐から取り出した縄で男達の手首を縛りました。この縄は相手の体力と気力を削り取る魔法陣が組み込まれており、何ヶ月か前に他国の騎士団に大量に売った記憶がございます。あまり手間かけて作ったものじゃないので、中々のボロ儲けでしたね。


「微笑んだだけで人が倒れるわけないじゃん!」

「私の笑みがあまりにも美しすぎたんです」

「言い訳が見苦しいわ!」


 私は再び左目を髪で覆い隠し、ローナ殿に向かって微笑みかけます。「ほら、美しいでしょ?」と言わんばかりの視線に彼女は苦笑を浮かべました。

 自分の容姿についてはある程度自負しております。男とも女とも取れぬ中性的な顔立ち。仮に何方の性別でも美しいと持て囃されるでしょう多分。


「よし、街の憲兵団に引き渡しますよ。幾らくらい貰えると思います?」

「さ、さぁ…? ただの冒険者っぽいし、そこまでにはならないと思うけど」

「お金持ってそうな顔ですけどねー」

「奴隷商に人を売って稼いでるんでしょ…」


 奴隷、ですか。

 様々な国を旅してきた中で、全てが奴隷を公認した国とそうでない国の二択でした。奴隷を公認した国では、犯罪を犯した人間なんかは「奴隷堕ち」等と言って奴隷商に引き渡される事もあるそうです。私が半年程前にいた国では、奴隷商がある意味で商業化していましたね。

 残念ながら、私の何でも入る袖は生きたものは管理出来ませんので。奴隷商売に手をつけるのは諦めました。常に身軽でいたいですし。

 この国では奴隷は公認されているのでしょうか…。


「奴隷商? そんなの認められてるわけないじゃん」


 憲兵団の所まで二人組を引き摺りながら質問すると、ローナ殿はそう答えてくれました。


「昔は良かったらしいんだけど、昔王族や貴族が無理矢理奴隷にされそうになった事件があって、それを機に禁止されたの。…え、何、さすらい奴隷稼業始める気?」

「早とちりしないでください、一応聞いただけです」


 流石にバレそうな犯罪を犯してまで商売したりしません。足がつかない程度の詐欺ならばしても構いませんが、奴隷商売は難しいです。私は各地を転々としてるわけですし。

 え、普通主人公ならば奴隷商の所まで行ってぶっ潰してくるモンですって? 面倒くさいです。何で私がそんな事せにゃならんのですか。


「奴隷商潰しに行ったら、褒賞が凄い事になるかもよ?」

「潰すのは簡単ですが、それからが面倒です。お金は稼ぎたいですが、目立ちたくはないのでね。後で逆恨みされても厄介ですし」

「んで、さっきはどうやって倒したわけ?」

「だから、微笑んだんですって。さすらいぱわぁです」

「何よ、さすらいぱわぁって…」


 そう、私の左目には「さすらいぱわぁ」があるんです。だから直接見ちゃダメなんですよ。


 その後、街の憲兵団の所に辿り着きました。


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