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振り回されてる!?  作者: 嘉胡きわみ
4/8

4 疑惑あり

「なあなあ、副長。最近、隊長、冷たくね?」

「あー! あたしもそう思う。用事があるからーって、そそくさとどっか行っちゃうの」

 不満げに唇を尖らせるのは、シュミットとコロネだ。2人ともセスをとても慕っていて、四六時中くっついていたい、と真顔で言うような連中だ。



「──それは、俺も気になっていた……」

 いつもの東屋にいるのは、俺とシュミットとコロネの3人だけ。サリーランは、課題の提出を忘れていたと言って、涙目になって教室へ帰っていった。セスに言われていたのに、すっかり忘れてしまっていたらしい。サリーランは、時々ヌケている。



 穏やかな風に吹かれて、さわさわと枝葉が音を立てた。シュミットとコロネは、テーブルについて、お茶を飲んでいる。シュミットは「サリーのイチゴパイ、ウマすぎ。止まらねえ」と呟いていた。

 俺は箱型ベンチの上に、仰向けに転がっている。頭の下には、セスのクッション。でも、最近彼女はここに来ていないのか、クッションからは彼女の匂いが殆どしなかった。



「え? 副長も知らねーの? 何か、それってヤバくない?」

「ヤバいかも。ねえ、知ってる? コーデュロイの周りが、な~んか怪しいって話」

「……怪しいって何がだ」

 コロネから、じとっとした視線を向けられ、俺はつい逃げ腰になってしまった。何で、責められるような目で見られなきゃいけない?



 単純な腕力じゃ、俺の方がずっと上なんだが、精神的な要素では彼女の方が上。アタシのウサギ耳を甘く見ない事ね! ナーッハッハッハ! とはコロネの口癖。

 口癖の通り、コロネはウサギの獣人で、すばしこさを生かした諜報活動を主な任務としている。今は、Aクラスで上流階級の情報網を築くべく、奮闘中なのを追記しておく。



「あの女さあ、エッシャー以外にも有望株な男の周りをちょろちょろしてるわけ。でもって、その有望株はあの女の気を引こうとして、あれこれがんばってんの。競争意識がそうさせてるってのも、あるんだろうけど──」

 ここで、コロネは、ハンッと鼻を鳴らした。



 コロネ、チャームポイントだって自慢してるつぶらな瞳とやらが、死んでる。その顔、ヤメロ。すごく怖いから。耳がヘタレそうになる。

 視線をずらしてみろ。シュミットなんて、完全に耳がヘタレてるぞ。

「競争、意識って……?」

 シュミットもびくびくしすぎだろ。気持ちは分かるが、テンがウサギに負けてどうする。



「アンタとさ~あ、エルヴィスって実力的には似てるわよね~え?」

「え? あ、あぁ……うん。そうかもな」

 突然出て来た名前は、同じAクラスにいる人間だった。お互い、それなりに気になっているらしい事は、俺も気付いている。

「そのエルヴィスがさ、セスに近づいて来て、気に入られようとしてたらさ、アンタだって、負けてられないって、がんばっちゃうでしょ? 一番の座は副長に譲るとしたってさ」

「ま、まあ……そりゃあ……な。ぽっと出のアイツになんて、負けてらんないし」

 だしょ~? とコロネ。



 どうでもいいが、あんたは時々、変な言葉を使うな。普通は、「だしょ~?」じゃなくて「でしょ~?」なんじゃないか? まあ、コロネだから気にしないが。



「そういう心理が、あの女の周りにいる男共にも働いてるってわけ」

「ナルホドー。他の男ってぇと、アレだよな? 魔法が得意なアディソンと副長とガチで闘える虎のベイカーと……あれ? アディソンってミックスなんだよな? 獣人と人間の」

「らしいね。それから、問題のエッシャーと、成績優秀なメガネのキャッスル。でもって、副長」

「は?! ちょっと待て! 何で、そこに俺の名前が出てくるんだ!?」

 思いもしなかったコロネの発言に、俺は思わず飛び起きていた。



 今、名前が挙げられた男たちのやっている事といったら、まるで幼い子供のようで、失笑しか浮かばないのだが──俺もだと!? 俺も、あんな脳みそ花畑共と同じカテゴリに入れられているって言うのかっ!?

「副長は、ご機嫌取りしてる訳じゃないけど、時々一緒にいるのを見かけるから、取り巻きになったか、なりつつあるんじゃないかって、もっぱらの噂。で、どうなの?」

 ギロン。比喩でも何でもなく、東屋の温度が下がった。なるほど、さっきの視線の訳はこれか。



 しかしだな、ちょっとは押さえろ、コロネ。シュミットが、尻尾を抱えて震えてるぞ。

 この様子だと、答えを間違えれば、確実に、ヤられるな。

 全身で「隊長を捨てるつもりか、あァン?」と語り、殺気を飛ばして来る。お前は本当にウサギか、コロネ。背中にチャックがついていて、中に何か潜んでいたとしても、俺は驚かないぞ。



 コロネの正体はともかく、この扱いは、ショックだ。

 地味にショックだ。

 あんな連中の仲間だと思われているなんて、しばらく立ち直れないかもしれない。

 俺は、腹の底から吐き出したため息と共に、答えた。

「なる訳ないだろう。鷹の女王にかなう女がいると思うか?」



「なら、何で?」

「知らん。知っている顔の女が泣いていたり、それに近い状態でいるなら、声をかけるだろう。普通はな。原因はいじめで、あの女は現状を嘆ているだけで、何も動こうとしていない」

「いじめられる理由が分かってんのに~?」

「エッシャーに迷惑だから、心配はかけたくないんだと。俺は、横で聞いてやっていただけだ」

 同じ立場なだけに、気持ちは分からないでもない。が、ほぼ毎日となると、いい加減うんざりして来る。



「最近は、面倒臭いから、関わり合いになりたくなくて避けてるんだが、避けきれない。何故か俺の行く先々にて、俺の顔を見ると必ず寄って来る。で、勝手にしゃべり出す」

 腐っても向こうは子爵家令嬢。こっちは、しがない騎士でしかない。身分の壁がある以上、あまり邪険にもできない。それを言うと、

「まあ、それもそっかー」

 シュミットが、身分って面倒だよなあ、と呟く。俺も同意見だ。



「もっと現実的な理由を言おうか? 俺はセスの為に、騎士よりも上の身分がほしい。でもな、あの女に取り入ったところで、何のうま味があるって言うんだ?」

 獣人が貴族に取り入って、愛人枠に納まり、地力を付けてのし上がっていく話は珍しいものじゃない。よくある話だし、貴族の男女が夫や妻とは別に愛人を持つのも同じ。その場合は、片方が独身じゃないといけないらしいが。セスが俺を火遊びの相手に考えているんじゃないかと不安になるのは、この話を知っているからだ。



「……何にもないわね。コーデュロイ子爵家って、経済的にちょっと苦しかったはずなのよ。子爵夫妻もぱっとしないし」

 つまり、のし上がるための踏み台にできるほどの力がないわけだ。

「取り入るうま味もない、俺の好みでもない。あの女の機嫌を取る必要がどこにある?」

「ないなあ……」

 シュミットが頷けば、コロネも「ないわねえ」と頷く。



「狼は、基本一夫一妻なんだっけ?」

「そうだ」

 獣人の多くは、事実婚で、多夫多妻制。そして、夫を選ぶ権利は雌の方にある。だから、雌同士が納得すれば夫を共有するし、雌が望めば複数の夫を娶る事もできるのだ。

 だから、セスが他に夫を娶りたいと言えば、俺は強く反対できない。狼の性質を、他種族に押し付ける事は出来ないからだ。そして、つがいにそう言わせるという事は、俺の雄としての魅力が足りないせい、という事になる。



 つまり、セスがエッシャーとの婚姻を望めば、俺は強く反対できない。

 獣人は事実婚だから、例え俺と共に過ごしていても、人間の法に照らし合わせれば、結婚届が出ていない以上、彼女は独身という事になる。

 獣人の俺が、セスは俺のつがいだと訴えても、彼女は人間だから人間の法が適用されるのだ。



「な~んか、イロイロおかしいよね。何て言うのか、ちょっとずつずれてる感じ。副長はさあ、どうなの? コーデュロイの夫になるつもりはないのは分かったけど、エッシャーと隊長の夫になるつもりはあんの?」

「ない」迷う時間すら必要ない。



「エッシャーがセスを何て言ってるか、知ってるだろ? あんな男にセスは勿体ない」

「だよなー。でも、隊長が貴族って身分にある以上、家同士の政略結婚で仕方ないんだって言われたら、副長は引き下がるしかねえんだよな?」

「ぐっ……」痛い所をついて来る。



「でもね~え、マクギャレット男爵家とエッシャー伯爵家って、政治的に結びつく意味ってあんま、ないんだよね。何でも、隊長とエッシャーって、幼馴染らしいよ。親同士、仲が良いんだって」

「え? じゃあさ、どうしても結婚しなきゃならねえって訳じゃないのか」

「その通り!」

 目を丸くするシュミット。コロネは、得意げに胸を張っている。

「エッシャーは長男だから嫁を貰う必要があるけど、それが隊長じゃないとダメな理由は全くないんだよね。マクギャレット男爵家には、ちゃんと跡取りがいるし」



 セシリアは、兄2人と年の離れた妹が1人いる。両親と妹にはまだ会っていないが、2人の兄貴には紹介してもらった。

『俺らにとっちゃあ、可愛い妹だ。でも、家族以外のヤツの目から見ると違うらしいからな。俺らが言う事じゃないかも知れないが、こんなガサツなのでいいのか』

と真面目な顔をして言われたのには、面食らった。何たって、顔を合わせて1分と経たずに、その発言だったから。



 開口一番と言ってもいいくらいの素早い質問に、驚きつつも、彼女は可愛い、世界中の誰よりも魅力的な女性だと思っていると伝えれば、

『セシィは君に任せた。セシィ、絶対に逃がすなよ。お前を可愛いだなんて言ってくれる男、金輪際現れないからな。俺が自信を持って保証する』

 両手をがっしり握られて、頭を下げられた。



 セスは不愉快そうに鼻を鳴らした上で、

『保証されてもな……。しかし、兄よ、私がそんなヘマをすると思っているのか』

 見くびるなと言いたげに、眉をしかめ、兄貴たちに向かって抗議していた。



「とりあえず、俺がコーデュロイの取り巻きだと言う噂は、不本意すぎる。コロネ、悪いがあの女の行動範囲を調べてくれ。多分、俺の行動パターンを把握されている。コーデュロイとは距離を取れば、らしい、程度の噂なんだ。自然消滅するだろ。後は、セスをしっかり引き留めつつ、さっさと騎士位以上の位を手に入れる」

 在学中は厳しいかも知れないが、卒業したら、また魔物討伐の日々に戻る事になるんだ。手柄を上げて、貴族位をつかみ取ってみせる。つかみ取ったら、すぐにプロポーズだな。

コロネ、強い。シュミット、弱い(笑)

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