只野救出作戦 ー11ー
「二人ともに準備に入ってもらいます。今回S級とC級の対戦ですから、トレイターにはハンデが与えられます。武器を手にいれる場面まで先行を許す形にです」
竹中かぐやが司会を進行し、新人アイドルが俺と社長イスカンダルを筐体まで案内する。二人だけだから、離れる事をせず隣に座らされる。近くで見ると威厳があるせいか、体が震えてくる。
そして、そんな相手が握手を求めてきて、それに応じると握り潰されるかと思うぐらい痛い。
「良い勝負をしよう。簡単に負けもらってはアピールのしようがないからな」
「良い勝負をしよう」までは新人アイドルのマイクが拾ったけど、その後の言葉は俺だけに聞こえるぐらいの声。笑顔で言ってるけど、下手なレースは許してくれそうにないし、勝つ事も許してくれそうにない雰囲気だ。
「開始までカウントダウンを皆様で……五……四……」
俺の視界はトレイターを乗った状態。ここと同じ風景が広がり、違うのは人々がいない事ぐらい。どこにトラップがあるかも遠目では分からない。
それと隣には相手のアレクサンダー。大きさはトレイターの十倍。機体は移動要塞という表現が的確かも。西洋の城のような鎧に、足がキャタピラー。本来なら肩や至るところに大砲などが装備されてるんだけど、今回はルール上取り外されている。
その迫力は観戦時とは全然違う。英雄にはいくつかの制限がある。アレクサンダーの場合、あまりの大きさに四機分のコストが加算される。十人が参加可能な場合、アレクサンダーしか出れないわけだ。
「三……二……」
「アレクサンダーか何だから知らないけど、負けるわけにはいかないんだからね!」
観客達のカウントダウンの声が響く中、明日香ちゃんの声が俺の耳に届く。只野さんを取り戻すためにも、仮想エンペラーとして負けるわけにはいかない事を思い出した。
「一……スタート!」
「スミマセン……俺は負けるわけにはいかないんで!」
スタートの声と同時に、俺はに宣戦布告のような言葉をイスカンダルに投げつけた。