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只野救出作戦 ー10ー

「決まりですね。スタッフにも伝えておきます。それでは、気持ちの整理をしながらお待ちください」



竹中かぐやは意味不明な言葉を残して、休憩場に帰ってしまった。着ぐるみのまま舞台に戻るのは駄目だから、そこで着替えるつもりなんだろう。



「私の時には英雄が出てなかったけど、アイドル戦記じゃなくてもアレクサンダーと戦えるのは良い機会だから。仮想エンペラーと思ってもいいかも。それと……勝てたりしたら、アイツを見返せる」



明日香ちゃんが言うアイツとはカストルさんの事だろう。確かに英雄の一人を倒せたら実力を認めてくれるはず。



「よし! 他人を利用してでも勝たないと」



アイドル戦記を初めてから、どんな手を使ってでも勝つという事が染み込んでしまったかもしれない。勿論、アイドル戦記とかゲーム内だけに限るんだけど。



「さぁ! このイベントも次で最終レースとなります。急遽になりますが、最終戦に相応しい特別戦を用意させてもらいました」



舞台には竹中かぐやと新人アイドルの二人が立っていて、他にも二人の男が立っている。



「おいおい……あのおっさん……どこかで見た事あるぞ」



「あ〜TVで見た事あるな。製造業の社長だった気が……スポンサーの挨拶でもするのか」



一人は五十代のおっさん。スーツを着ながらもボディビルダー並の筋肉マンだという事が分かる。それに顎髭を生やし、坊主頭にサングラス。端からみたらヤの人かと勘違いしてしまう。



「紹介します。ニックネームはイスカンダル、会員番号三番、アレクサンダーの所持者である私のファンです」



先程までのレースは誰のファンか、ニックネームを隠していたのに、竹中かぐやは堂々と発表した。



「私は竹中かぐや嬢のファンの一人として立っている。それに最終戦を飾らせてもらえるとは光栄、勝利を届けさせよう」



その言葉に一瞬のどよめき、次に大歓声が響く。有名な社長の一人が竹中かぐやのファンにいるわけだ。アレクサンダーも金に物を言わせて手にいれたのかも。



社長もこの場で竹中かぐやのファンだと発表出来るのも会社にとって良いアピールになると思ったから、舞台に立ったはず。



「続きまして、紹介するのは冴えない彼。ニックネームは彦星、天川織姫のファン会員番号一番。トレイターを操縦する人ですよ」



社長と一緒に立たされ、新人アイドルに紹介されてる男は俺。有名人でもないのに、無理やり連れて来られたんだ。



俺は社長、イスカンダルみたいに何か言う事も出来ず、お辞儀するのが精一杯。そのテンパり具合に舞台前の客から失笑の声が聞こえてくる。恥ずかしくて死にたい気持ちになってくる。



「この二人に舞台に立ってもらったのは他でもありません。一対一のタイマン戦です! しかも、ただのレースじゃないですよ。トラップ盛りだくさんの障害物レース……何ですか? そんなに見つめられると怖いです」



「す……すみません」



新人アイドルの言葉に、思わずガン見してしまった。竹中かぐやからアレクサンダーと勝負する事は聞いたけど、タイマン戦なんて一言も聞いてない。他の機体を弾除けにしたり、色々利用しようと考えていたのが、一瞬にして水の泡になってしまった。



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