夏イベントは海、祭、肝試し ー111ー
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『参加者が城に突入しました。所要時間は六分です。戦闘を開始します』
「案外掛かったようだ。それだけの実力しかなかったようだ。お前達も溜め息もんだ」
テオドラの機体にもマイクが付けられているのか、戦場にダンスマンの声が届く。
戦場は勿論王宮内部であり、社交場でもあるホール。プリンスとプリンセスは壁際に追いやられ、テオドラ以外に二十機のボーンが取り囲んでいる形。その状態から戦闘が開始される。
勝利条件はテオドラの撃破。プリンス達が城から脱出するのはない。敗北条件はプリンスとプリンセス、どちらかが撃破された時。
参加者達が到着するまでの六分間、二機で切り抜けなければならない。それに加えて、この時間の戦闘は参加者達は観戦出来ない。撤退した人達も同じ。
「少しの余興。三分遊んでやるよぅ。それ以上は絶望。返答変えるなら考えよう」
テオドラは動かず、ボーン一機だけがプリンス達に攻撃を仕掛けてきた。それを撃破すると二機、続いて三機と一機ずつ増やしていく。一気に攻めて来る事はせず、テオドラが的確に指示するのではなく、起動させるだけ。ボーン達はCPUの動きしかしてない。言葉通り、ダンスマンは遊んでいるのだ。
「舐めないでよね! アンタ達の仲間になんてならないから。星野さん達が来るまでにテオドラ一機だけにしてやるから」
明日香はダンスマンに筐体の中に入れられる際、仲間になるかの質問をされたのだが、それを断っていた。
「おぉ! 強気な発言、ボーンと爆破する機体、俺も呆然」
プリンスは次々とボーン達を撃破していく。一機ずつ増やしていく形は、明日香には都合が良かった。ボーンは二十機しかいないのだから、最高で五機を相手にするだけで済み、CPUであれば突飛な行動をする事もない。
「そんな簡単に終わると思ったお前に失望、余裕を見せたお前は絶望。兵士は倒され逃亡、この場に登場」
「えっ! ボーンの数が増えて……もしかして、あっち側のボーン達が撃破した数だけ、こっち側に来るって事なの」
残りがテオドラとボーン二機のみになったはずが、テオドラの後ろ側に異次元の扉のような物があり、そこからボーン達が登場してくる。それも一機、三機、十機とランダムに現れた、問答無用に攻撃を仕掛けてくる。
「明日香……これ以上は限界かも」
八雲が搭乗するプリンセスは守りに徹し、攻撃は明日香のプリンスに任せていたのだが、それも限界だった。
明日香が攻撃しながらも、八雲の守りをフォローしていたのだが、敵の数が増える分、手数が足りなくなる。しかも、時間も三分が過ぎようとしてる。参加者達が駆けつけるまで残り半分だが、それはダンスマンの遊びの時間が終わるのを意味する。
「ボーンの数は五十機か。まぁ……よかろう。私に逆らったのだ。狙うのはプリンス。鼻をへし折ってやるのよ」
ダンスマンは突然女王の口調に変化させ、ボーン達も一機ごとに意志を持った行動を取り出した。
鍔迫り合い時、横からの攻撃。一撃で撃破しようとするのではなく、部位破壊。腕や足を狙ってくる。回避時も、その行動を予想しての攻撃。それが怒涛の如く続く。そして、プリンスの片腕が斬られると、連続してもう片方も。
「くそっ! リベリオンだったら」
プリンスに最後の一撃が降り下ろされようとしたのをプリンセスが防いでくれた。その咄嗟の行動が戦闘終了を防いだだけでなく、事態を変化させた。
外部から窓が突然割れ、リベリオンの姿が一瞬見えた。
「あの高さからの侵入は不可能……誰かがシステムを操作したわけ? けど……それも無駄だったようね」
テオドラは割れた窓の方を見ると、ボーン達の動きも止まった。リベリオンが明日香を助けに来て、乗り換えるのかと思いきや、強制退去でもされたかのように突然消えてしまった。
「何で……親父さんが用意したのがリベリオンだって思ったのに……」
プリンスとプリンセスを囲んでいたボーン達が一瞬にして斬られ、次々と爆破していく。それは白の閃光であり、この国の反逆者。
「フェアレーターって……美味しいところを持っていくわね」
親父さんが送り出したのはフェアレーターであり、操縦から見てもカストルさんに間違いないだろう。明日香が声を掛けても返答がないのは搭乗してるのがリベリオンではなく、フェアレーターにマイクが付けられていないから。




