夏イベントは海、祭、肝試し ー74ー
「……運ばれていくのをカメラで追いますか?」
俺が気になったのかもしれないと声を掛けてくれた。それとも夜野さん自身が追ってみたいのか。
「えっと……今は止めておきます。カメラの数って多いですよね。フェイカーさんを捜すのを優先させてからでも」
カメラを切り替えるのに、何十を同時に画面に出して調べる事は出来ず、一つ一つしか無理。そして、カメラの数を示す番号が二桁を超えている。
「……天帝ビルは地下もありますからね。全部を調べるのではなく、当たりをつけてやってるのですが。全部調べていきましょう」
何でそんなのが分かるんだとツッコミは入れず、次々とカメラを切り替えてもらう。その中にはカメラが起動してないのか、部屋が真っ暗なのか、何も映らないのもある。
「……あれ? 気のせいかな」
カメラからカメラの映像に移る時、一瞬だけ映像が黒くなる。その間に何か映った気がする。次の映像が暗闇だった時、その印象がほんの僅かに残った。しかも、それがずっと同じではなく違う形で、一定数を越えると元に戻る。
「何か気になる事が?」
「いえ……続けてください」
夜野さんが何か言ってるようだけど、それも耳に入らなくなるぐらいなってくる。サブリミナル効果というやつなんだろうか。何度も続くのを見てるうちに、文字を続けて言葉にしていた。
「ひ……こ……ぼ……し」
それはアイドル戦記においての俺のニックネームであって、天川織姫にそう呼ばれていた。それを言葉にした後、カメラが映した暗闇の映像が宇宙のように見えて、それに吸い込まれるように意識がブラックアウトした。




