夏イベントは海、祭、肝試し ー44ー
「よ、夜野さん! これはその……怪しい関係とかじゃなくて……朝に戻ってくるんじゃなかったんですか?」
俺は車から外に出て、夜野さんが車に戻れるようにした。聞かれたくない話だし、信じてもらえないと思う。
「いや……運転しなければならないので、少しは眠らないと駄目だと思い、早めに切り上げてもらったんです。何を話していたかは分かりませんが、只野さんには内緒にしておきますよ」
夜野さんは俺とフェイカーさんが何を話していたか追求せず、明日香ちゃんにも内緒にしてくれるらしい。
「夜野氏は周辺を歩いたのなら、ゲームセンターがあったりしませんでしたか?」
話し方からして只野さんが何も動揺を見せる事もなく、ゲームセンターがあるかを尋ねた。
「ゲームセンターですか? もしかして、秘密特訓でもしようとしたわけですね」
時間は深夜零時を少し過ぎたくらい。場所によっては閉店時間は様々だ。只野さんは練習するつもりではなく、夜野さんが勘違いするように話を進めてくれたみたいだ。
「はい。ナイトパレードでは迷惑をかけたので、彦星氏に協力してもらおうと。アスカ嬢は色々と疲れてるはずですから」
確かに明日香ちゃんは疲れてるかもしれない。只野さんの事もあるし、イベントを調べるとか頑張ってくれたんだと思う。
「なるほど……ゲームセンターはありましたが、閉店してましたよ。旅はまだ続くわけですから、ゆっくり休むべきだと思います。運転手の私以外寝ているのは少し悲しいですから」
「あっ……そうですね。そんな事がないようにします。今回の練習はなしって事で」
夜野さんの一言が助け船にもなって、フェイカーさんは宿に戻る事になった。
「私がホテルまで送りましょうか?」
「大丈夫です……あの……私と一度お会いした事がありませんか?」
大丈夫ですと言ったのは只野さんだったけど、その後はフェイカーさんが言っていた。
「……いえ……私はアイドルに疎いほうでして……会った事は一度もないかと。突然どうしたのですか?」
夜野さんが疑問に思うのも当然かもしれない。フェイカーが川本銀河という事は夜野さんも知ったけど、顔見せはしていなかった。明日香ちゃんも素顔を知らなかったんだから。
「すみません……勘違いですね。その人の顔とか思い出せないのに……何か引っ掛かるところがあったもので」
フェイカーさんは頭を下げ、宿には一人で戻っていった。夜野さんはフェイカーさんの姿が見えなくなるまで、ジッと見ていたのは心配しているのか、さっきの言葉が気になっているのかは俺には分からなかった。




