夏イベントは海、祭、肝試し ー9ー
「連れて行って損はさせないわね。エンペラーと戦うにしても仲間が多い方がいいはずだけど」
フェイカーさんの言う事は最もだ。天川織姫はファンを増やす事は滅多にない。只野さんも含めたら、フェイカーさんでようやく六人目。他のC級アイドルは何十倍のファンがいるんだから、仲良くした方が都合がいい。
「し……仕方ないわね。川藤までは連れて行ってあげるわよ。けど、川藤までだからね」
明日香ちゃんも川藤までという事で折れた。ファン数が少ない中で仲間割れは戦闘する時には致命的になる事ぐらい分かってるみたいだ。
「良かった。少し可哀想だったから」
夜野さんもホッとした顔で後ろのドアを開けた。その顔は恨まれずに済んだと思ったのかもしれない。
「ありがとうございます。彦星氏にアスカ嬢、そうなると貴方が親父ですか?」
そこは親父さんとかじゃなくて呼び捨てなんだと突っ込むのは置いといて、俺と明日香ちゃんが一緒にいるわけで、残るはカストルさんか親父さんになるわけだ。年齢から言っても親父さんと思ったのかもしれない。
「いえいえ……私は二人のバイト仲間であって、親ではないんですよ」
夜野さんはフェイカーさんが父親だと勘違いしてると思ってるみたいで、噛み合ってない。
「あの……夜野さん……親父というのは天川織姫のファンの一人のあだ名でして……両親とか聞いたわけじゃないんですよ」
俺は親父さんが勘違いしてる事を説明して、隣に座ったフェイカーさんに尋ねる事があった。
「呼び名はフェイカーさんで構わないんですかね?」
「どちらでも構いません。一応、川本という名前を教えておきます。夜野氏は私をフェイカーとは呼びにくいかもしれませし」
オフ会とかでは本名とか口にしないと思ったけど、そんな事は気にせず川本という名前を口にした。俺達はあだ名ではなく名前で呼んでるから、夜野にとっては川本の方がいいかもしれない。
「私はフェイカーにしとく。掲示板とか戦争時に本名を思わずとか嫌だし」
明日香ちゃんは川本ではなく、フェイカーと呼ぶ方を選んだ。そうなると俺もフェイカーと呼んだ方が良いかもしれない。
「俺もフェイカーと呼ばせてもらいますね。それで、フェイカーさんは天川織姫とは知り合いだったりするんですか?」
俺は天川織姫と会った事があるし、カストルさんもそう言ってる。親父さんに関しては曖昧で、明日香ちゃんや只野さんは会った事がない。五人に共通する事が見当たらない。
「全然です。アイドル戦記をするのも初めてです」
「えっ! 別のアイドルから乗り換えたとかじゃないの? 損はさせないって練習も出来てないのに良く言うわよ」
フェイカーさんは天川織姫の事は知らず、アイドル戦記も初めて。一人だと練習出来ないわけだから、今回のイベントが本番になる。明日香ちゃんが呆れるのも仕方がない。
今考えると、只野さん以外はアイドル戦記に参加するのは初めてのメンバーだ。明日香ちゃんは元アイドルだけど、ファンとして参加するのは初めてなわけだし。そのおかげで新たな機体を手に入れてる。
天川織姫を知ってる俺とカストルさんはトレイターとフェアレーター。同型機ながらも、白黒など正反対の機体。
天川織姫を知らない明日香ちゃんとフェイカーさんは飛行機型であり、同型機のリベリオンとフェイカー。これは本物と偽物なのか、表裏があるのかもしれない。
親父さんに関しては本当に謎だ。旧モブに選ばれたのもそうだけど、これは只野さんのPモブと真逆を意味するにしても、親父さんの方が先にファンになってるわけだし。