コンサート第一幕 ー19ー
☆
俺と蒼さんは駐車場に用がなくなったので、ドーム内に戻る事にした。勿論、忙しい蒼さんとは別行動になったわけなんだけど。
「はぁ……結局はここに戻されるわけだ」
カシオペアのマネージャーに見つかり、筐体のある場所に戻らされた。ファン達の開場が始まったみたいで、ガヤガヤとしてきた。グッズ販売の手伝いをしてたはずなのに、主人公機を操縦してるのが誰なのか知られないための処置みたいだ。
ライブ開始まで二時間を切った。スタッフもバタバタしてるから、話し掛けれるわけもない。今更手伝いますと言っても、何も把握してない状態だと邪魔でしかないと思う。
「……練習するしかないか。勝てないと言われても、可能性はゼロじゃないと思うし」
竹中かぐやに勝てないと言われたけど、マネージャーから対戦相手の情報が入ったので教えてもらえたわけだ。その相手はS級でなければA級でもない。蒼さんや夢椿さんと同じB級アイドルのジェミニ。ランキングではその二人よりも上みたいだけど、それだけで勝てないなんて大袈裟だと思ったからだ。
ここのアイドル戦記の練習はゲームセンターとは違って、仲間と一緒じゃなくても起動出来るようにしてくれてる。影幻さんも二時間前になった事もあって、練習場からいなくなっていた。
練習モードだからって的が出現したり、障害物が出るわけでもない。ゲームセンターと違って、戦場も固定されてる。
「……一人でするなんてチュートリアルぶりか。こんな場所で一人でいると不気味というか……孤独というか」
一機当千みたいに敵が出現したり、曲が流れたりすれば何とも思わないんだけど、本当に何もない。
ただ、耳鳴りがまた聞こえてくる。それだけじゃなく、誰もいるはずがないのに視線を感じる。背中からにじゃないから、現実の方でスタッフが見てるわけじゃない。何もない真正面から見られてる感じだ。そこに銃弾を放っても何かに当たる事はなかった。
けど、耳鳴りが激しくなった気がしてくる。それも雑音に過ぎなかったのが、人の声が混ざってるように聴こえだしてきた。それも距離的に遠かったのが、詰めている感じもしてくる。
「……ゲームの世界に幽霊なんているわけ」
俺はそう思いながらも一人で練習するのを止めた。決して怖くなったからじゃない。一人でどう練習すればいいか分からないからだ。
あの世界で聞こえてきた声が『電脳世界』の歌詞の一部だったのは偶然だと思うけど。