コンサート第一幕 ー16ー
「外に出たって事は、急がないと駄目かもしれないか」
運営の人物がずっといるわけじゃなく、ライブ前の挨拶に来ただけかもしれない。それもメインヒロイン役のポルックスさんだけというのもおかしな話なんだけど。
向かうのは関係者専用の出入口。警備員がいるけど、スタッフのカードがあるので止められる事はないと思うんだけど、その近くまで来ると車が出る音が聴こえてきた。タイミングからして、すでに遅しな感じがあるけど、確認はしておくべきだと駐車場に行ってみる事にする。
そこにポルックスさんの姿がいた。見送りをしたんだと思ってたけど、誰かに絡まれていた。その相手はサングラスやマスク、帽子で顔を隠してる。それなのに警備員達はその人物を取り押さえようとしない。
「あれ……カストルさん? 心配になって来てくれたんですか」
普通に考えたら変質者とか怪しい人物だと思うんだろうけど、カストルさんのいつもの姿なもんだから勘違いしてしまった。
俺の声に二人は動きが止まり、ポルックスさんは怪しい人物の握った手を振り払った。
「星野さんは何でこんな所に? いきなりカストルさんとか言うから、ビックリしましたよ」
ポルックスさんは何もなかったように話し掛けてくる。怪しい人物が誰なのか、ポルックスさんは分かってる感じだ。
「いや……あの人の姿が知り合いに似てて……後、この場所にいるのはポルックスさんが運営の人と一緒にいるのを見たから」
「似た姿って……そこには触れないでおくね。それに私が一緒にいたのは運営の人じゃなくて、所属事務所の社長なんだ。ライブを成功するために激励に来てくれたんだ」
ポルックスさんと一緒にいたのは運営の人じゃなく、ムーンライトの社長だったみたいだ。遠くから見た感じではそれほど年を取った感じじゃなかった。社長自ら来るなんて、本当に期待されてるんだろう。
「なのに……ごめんなさい……私は戻りますね」
ポルックスさんは一度、変質者に裏切られたみたいな表情を見せた後、ドーム内に戻って行ってしまった。みかんちゃんや影幻さんみたいに話を続けるのは雰囲気的に無理で、駐車場に残ってるのは俺と変質者の二人になった。