勝負は何が起きるか分かりません ー4ー
「すまんすまん。あそこまで操縦出来ないとは思わなかったんだ。きちんとしたアドバイスは出来なかったのは先輩として申し訳ないのでな。俺が集めた資料を提供しようと思ったのだよ」
只野さんは俺に本を何冊か渡してくれた。その中を見るとアイドルの情報だけでなく、そのファン達の陣形。武器の使用方法。ゲームのようにすぐに発射とはいかず、少しの時間を用する。それを計算して動かなければならない。アイドル戦記の攻略本を只野さんは独自に作り出したみたいだ。
それも色んな本とかネットからかき集めたんだろう。
「あ、ありがとうございます。出来るなら、初戦前に渡してもらいたかったですけど」
「星野氏、それは違うぞ。最初から攻略本に頼るの愚の骨頂。本来見せるつもりはなかったが、あまりのセンスの無さに仕方なくだ」
只野さんは俺に目を合わせず、PCに今日行われたアイドル戦記の戦争を観戦し、分析していた。
「明日が初のC級に参戦。相手も分かってる事だし、傾向と対策を仲間達に報告するのも会員番号一番、リーダーの務めだからな」
コンビニの仕事では冴えないのに、アイドル戦記に関して只野さんは輝いて見えるし、同じ会員番号一番の俺とは大違いだ。
「えっ! お兄が友達を連れて来たの。そんなの初めてじゃない。オタクっぽかった? それとも普通の人だった?」
只野家に誰か帰ってきたのか、この部屋まで女の声が聞こえてきた。お兄と呼んだって事は只野さんの妹って事になる。本当の妹がいるのに、西園寺アスカをマイシスターに思うって事は仲が悪いのか。まぁ、仲が良い兄妹も珍しいかも。毛嫌いしてるか、無関心が主だと俺は思ってたりする。色々あるのはアニメとか漫画だけだろうって。それとオタクか普通の人か聞いてたようだけど、只野さんのお母さんは俺をどう見たのかも気になるところだ。
そして、只野の部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。この流れからすると、妹さんが俺の事を見に来たに違いない。
「初めまして。妹の明日香って言います。こんな兄ですが、仲良くしてあげてください」
只野さんの了承も得ないまま、妹の明日香はドアを開けると同時に頭を下げてきた。彼女とかなら分かるけど、只野さんはそんなにも友達がいないんだろうか。
「えっ……と」
俺はどう返事していいか分からなかった。別に只野さんとは友達というわけではない気がする。バイト仲間という間柄で、頭を下げられた状況で否定するのも申し訳ないぞ。
「ご、ごめんなさい。いきなり、こんな事されたら迷惑ですもんね」
明日香ちゃんは苦笑いしながら、顔を上げて俺の方を見た。
「あ、あれ? 目の錯覚かな……西園寺アスカに見えるんだけど」
明日香ちゃんの顔を見ると、髪型や雰囲気は全然違うんだけど、西園寺アスカに似ている気がした。声もまるで本人みたいだ。