コンサート第一幕 ー3ー
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「君が星野君? ちょっと来てくれないかな」
「えっ……す、すみません。抜けないと駄目みたいで」
スタッフとは違って、スーツを着た男性が声を掛けてきた。グッズ販売という戦場でてんやわんやしてるのが見えてるのに、この場から抜けろと言ってくるわけだ。他のスタッフの俺を見るというよりも、その男性を見る目が殺気染みてるのが分かり、こっちが申し訳ない気持ちになってくる。
「あっち側は誰かを回すから安心して。彼女達が君に会いたがってるんだよ。それに……頼みたい事もね」
「彼女達って……もしかして、カシオペアのメンバーなんて」
「そうだよ。僕はカシオペアのマネージャーをする事になってね。本当に君みたいな人が来てくれて助かった。彼女達にはエース的なファンがいないし、練習が出来るわけでもなかったから」
「ん……どういう事ですか? エース的なファンとか……まるでアイドル戦記に出撃するみたいじゃないですか。俺は天川織姫のファンだから無理ですよ。ポルックスさんは荷物運びとかの仕事だけで、トレイターに出る事はないって」
「ああ……トレイターで出撃するのはないですね。星野さんには今夜あるアイドル戦記のエキシビションに出て貰いたいんですよ。アニメの主人公機として、操縦もそうですけど指揮なんかも」
マネージャーの話ではこういう事になってるみたいだ。今夜のアイドル戦記は、アニメ記念として二十対二十の特殊な一戦がある。アイドルはスペシャルゲストのカストルで、他はカシオペアの五人が機体と搭乗する。他にも抽選で選ばれた人が十四人が参戦らしい。残りの一人が主人公役の人なんだけど、下手だと格好が悪い事になる。
「それに勝ちが決まってるというわけでもないんだよ。対戦相手の情報もないわけで……この企画を良く思ってない方々がね」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと! 困りますって。責任重大じゃないですか。それも主人公機だなんて、トレイターを操縦するのに手一杯で……作戦なんか無理ですよ」
トレイターも最近になって慣れてきたのに、違う機体の操縦なんて無理に決まってる。作戦なんて考えた事なんてないし。
「またまた……主人公機はトレイターと姿は違えど、同じみたいにしてます。それにアレキサンダーと同等の力を見せてくれたじゃないですか」
あの一戦がそこまでの影響力があるとは思わなかった。ポルックスさんは俺を病院で見つけた時から、参戦させるつもりでいて、惚ける気でいたに違いない。なんせ、トレイターには乗らないのは確かなんだから。




