異世界転生チートハーレム勇者
沢口ゆうすけ(41歳無職)の人生は散々だった。
そもそも、スタート条件が悪いのだ。
生まれた家は極めて貧乏だった上に、体質は不細工で肥満体で不潔感のある天然パーマだった。
よって、子供の頃から周囲から苛められ続けた。
特に異性の態度は冷酷極まりないものであり、ゆうすけがラノベに逃げるのも仕方がない事なのかも知れなかった。
ゆうすけの愛するジャンルは勿論、異世界転生チート物である。
まず、地球から何としても逃れたかった。
そして、この悲惨な自分を捨てたかった。
何より、これだけ不利な条件で戦わされたのだから、次は何としても優位条件の人生を歩みたかった。
ならば、異世界で、転生で、チートするしかないじゃないか。
今日も沢口ゆうすけは三日月に祈る。
「我に七生報我を与え給えッ!!」
不審者として連行される事100回。
遂に天はゆうすけの願いを聞き届けた。
取調室で反省文を書かされていた沢口ゆうすけは、突如として謎の光に包まれる。
「ゆうすけや。 オマエの願いは天に届きました。」
「おお! 苦節41年ッ!! この日を待っておりました!」
「異世界にチート転生したいそうですね。」
「はいッ!! こんな糞地球と糞人生とは今すぐ決別したいですッ!!」
「解りました。 それでは、オマエを異世界の超絶美形ハーレム神童に生まれ変わらせてあげましょう。」
「おお! 天よッ!! 感謝致しますッ!!! 今すぐお願いしますッ!!!!」
それが沢口ゆうすけの最後の言葉となった。
沢口ゆうすけ享年41。
同時刻、異世界のとある名家に美貌の王子が生誕する。
その王子は、戦場では英雄と讃えられ、私生活では膨大な数の妻妾と面白おかしく遊んで暮らす生涯を送る。
勿論、沢口ゆうすけの記憶など引き継ぐ筈もない。
単に天が、不要な命を一つ削って、空いた席に有用な命を産み出しただけである。
地球にとっても異世界にとってもこんなに有益な話はない。
埼玉県警は取調中の心臓発作による急死と発表。
その真偽を廻って数日間マスコミとの攻防が続いたが、お茶の間アイドル不倫事件が発生したので、すぐにゆうすけの名は忘れられた。