表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤と白のために  作者: 田浦青花
7/58

不機嫌なカレ

三人仲良し組にはなったけど・・

肩にかかる柔らかい髪。ユキオに似た桜色の頬。

この人が私のお母さんだったらなあ・・。

のぼせた私を並んでいた母が見下ろしていた。その大きな目は悲しげで私の気持ちに感づいていた。母の黒い手が私の手を強く握った。

 「ねえ横浜ってどんなとこ?」

お弁当をしまいながら私は茜に聞いてみた。都会と言ったら母の仕事の関係で観光がてら大阪に一度行ったくらいだ。駅周辺を歩いたが人の多さや建物の巨大さに圧倒され疲れはててしまった。

「ビルばっかりかなあー。」

茜はユキオと一緒に買ったパンを食べ終わると華麗な少女のイラストの描かれたポーチから飴をとりだして私に差し出した。

「可愛いポーチ」

私は受け取ってミント味をほおばった。茜もママの趣味、と言いながら飴を口に入れる。そしてユキオにも差し出した。

「いらない」

ユキオはうるさそうに手を振った。

「ランドマークタワーってすごく高いビルが横浜駅から見えるんだけどいくら頑張ってもなかなか着かないの。手の届きそうなところに見えてるのに・・建物や道路に邪魔されて迂回ばかりさせられる。一緒に行ったママとくたくたになっちゃった。都会ってそんなところ」

苦笑いしながら茜は言う。

「ランドマークって日本でアベノハルカスについで高いビルじゃなかったっけ」

「スカイツリーよりもだったかな?」

茜は意外そうに言った。

「じゃない?」

ユキオは地元なのに知らないのかよ、というように茜にちらりと軽蔑の視線を投げる。それからつまらなそうに頬杖をついて空をながめた。この間のテストで茜に十点以上離されたことがユキオにはどうにも腹立たしいのだ。

「駅のそばのマンション住まいだったから幼稚園から混んだ電車で通園だったし・・車は渋滞するから。いっつも人ばっかりで。犯罪は多いいし・・怖かった」

茜は眉をしかめたが私は聞きながらワクワクしてきた。

「茜」

私は訊ねた。

「東京の渋谷に行ったことある?」

TVで見た大都会のエネルギッシュな街の風景。派手なファッションの若者の群れ。騒がしいネオンの点滅。

「うん。電車一本で行けるから何回か行った」

「・・・すごい」

私にとっては遠い遠い場所だった。飛行機で行けば一時間もかからない処かもしれないが私には行くチャンスなんかない。たぶん永遠に。私は鮮やかなワンピース姿で軽やかに人込みを縫っていく茜を想像した。渋谷にいても茜はきっと人目を引くはずだ。胸がきゅんとなった。

「まあこんな田舎、なんにもないもんなあ!」

突然当てつけるようにユキオが声を上げた。

「・・もう!ユキオ!!」

さすがに私はきっとなった。文句を言おうと腕をつかんだ。すると押し殺した茜の声が聞こえた。

「・・私はここが好きよ」

茜の瞳から青い光がほとばしった。

「ここがいい・・もう二度と戻らない」


まだ続きます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ