群青色の空
私とユキオの道
駅に着いて自転車をとめている私に反対方向の電車に乗る茜はばいばいと手を振った。
「茜」
駅のスロープを歩きだした茜に私は言った。「生物部に入ってくれてありがとう。でも文芸部に入りたかったんじゃなかったの?」
いいの、と茜は笑った。
「勉強あるじゃない。楽な部にしか入る気なかったの。だから文芸部がいいかなって。生物部って活動は学祭くらいだっていうから美野もいるし楽しそう。刈谷くんに言っといて」
茜は勢いよくスロープを上っていった。
私は一人ホームで電車を待った。茜はきっと県外の大学を目指すんだ。たぶんユキオも・・。私はふっとため息をついた。経済的なことを考えれば私なんて良くて県内の公立大学か短大くらい・・それだって母親の仕事を考えれば無理させてしまう。
空は群青色に変わり始めていた。私はやってきたオレンジ色の二両編成の電車に乗った。
夜になってユキオがLINEで部活はどうなったか聞いてきた。茜は入るってとLINEするとグッジョブ!の絵文字を送ってきた。
私はカーテンを開け暗い夜の中に浮かぶユキオの窓の明かりをながめた。いつかはユキオと離れるんだ。そう思うと鼻がつんとなった。・・馬鹿だなあ。私はごしごしと目のふちをぬぐった。
Ⅳ不気味な彼女
私達3人がまとまったことがわかるとクラスの生徒たちは冷ややかになった。男子たちは相変わらず茜に親切だったが女子はシカトを始めた。
「いいっていいって」
茜はどこ吹く風だ。
「どうせああいう人たちって表面上の付き合いしかしないんだから」
「でもクラスではあんまり話をしない方がいいかも」
「美野は気の使い過ぎ!」
茜は笑った。
「私たちは私たちよ」
体育館の裏手で三人でお昼を食べながら茜はよくしゃべった。
「だって二人の間に入るんだから」
良く知ってもらわないと、と私たちを見渡した。
茜は自分が横浜で生まれて小学校までそこで暮らしたけれどそれからは父の転勤で転校を繰り返したと言った。茜の父親は裁判官という仕事は公正を期すために人と交流することを避けなければならない、その土地に癒着してはいけない、判事というプライバシーもあからさまにしない。そう茜に教えたそうだ。
「家族だって犠牲を払わなきゃならなかった」
茜は唇をかんだ。
「親なんてエゴなもんさ」
草の上に寝そべって皮肉な声でユキオは言う。
「子供は育てるかわりに従えってさ。将来まで口出しする」
「ユキオったら。そんな風に言っちゃいけないよ」
ユキオの両親がユキオを大切にしているのを私は知っていた。たまに三人でいるときの愛情に満ちたユキオの両親の眼差し。ユキオはそれを当然だと思っている。
「ミノはうちの親に丸め込まれてるのさ」
ミノちゃんユキオをお願いね
そう言ってピアニストのユキオの母親は幼稚園生の私の頭を美しい細い指で撫ででくれた。
まだ続きます!