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赤と白のために  作者: 田浦青花
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巨大魚の見る夢は

生物室に呼ばれた茜は大きな熱帯魚に驚く。

Ⅲ巨大魚の見る夢は

 放課後茜は渡り廊下の一番奥、人気の無い生物室にやってきた。私が戸口から顔を出した茜に気づいて手招きすると、実験台や顕微鏡のある棚の間を通って私たちの処へやってきた。私は壁際の台の上に置かれた水槽を指さして見て、と茜に言った。

「なあに?ずいぶん大きな水槽。何がいるの?」

不思議そうに水槽を覗き込んだ茜の目が驚きで大きくなった。

「熱帯魚のスポッテッド・ガー。大きいだろう」

ユキオがにんまりした。

「うちの部の超大物」

私も自慢げに言った。

「・・わあ!すごい!」

水槽の中を体長50センチ以上はありそうな魚が悠然と泳いでいた。黒いまだら模様で鼻先が尖り丸い目が可愛い。

「校舎の建てかえをしたとき飼育記録がなくなっちゃったんだけど・・このガーはもう十五年以上生きてるらしいの」

茜は水槽から目を上げた。

「じゃあもしかして私達より年上ってこと?」

「その可能性はある」

ユキオはワイシャツの袖をまくると水槽の蓋を外した。水に指を突っ込みひらひらさせるとすぐに魚は上がってきた。

「こいつ肉食なんだ」

きゃっと茜が叫んだ。

「よしなよ。かじられるから」

冷ややかに私が言ったのでユキオは笑いながら蓋を閉じた。

「餌にはなんないから大丈夫。これは人口餌で手がかからないんだ」

ティッシュで指を拭きながらユキオは言ったが茜は魚のぎらつくお腹を怖そうに見ていた。

「顔が尖ってるから怖そうに見えるけど大人しいんだよ」

私は言った。

水替えをしていたときこのガーの夢想をキャッチしたことがある。・・川の中だろうか?目もくらむような光の中を大きな魚の影が目の先をよぎる。巨大な尾ひれが動いて泡が溢れる。誕生間もない時だろうか?親魚を追って明るい水中をどこまでも泳いでいく・・。ガーの丸い目が私に訴えていた。

・・帰りたい

生まれた場所に。懐かしい水の温もりに身をゆだねて自由自在に仲間と一緒に泳ぐ・・孤独なガーの夢だった。それを見て以来ガーは私になついたように思える。ガーは私が覗くと近くに寄ってくる。今もその丸い目は私を見上げているようだ。

「ミノのことが好きなんだ」

私からその話を聞いているユキオは言った。

「魚の小さな脳だっていろいろ考えてる。細分化された俺らの脳よりももっと鮮やかかもしれない。それにこんなに長生きなら」

「狭い水槽から出してあげたいけど私たちにはそんな権利ないしさ。」

申し訳無げに私は水槽をこんこんと叩いた。

「自然界だと20年以上生きることもあるらしい。体も2メートル近くになったものもあるみたいだ。まあ種類の違うガーだけど」

「種類が違う?」

「ガーパイクいう鼻先の伸びた魚類なんだ。アリゲーター・ガーやロングノーズやショートノーズ、いろんな種類がいる。こいつはまだら模様があるからスポッテッド」

「・・なるほどね」

茜は軽く頷いて再び水槽を見た。

「蝙蝠もね。あんな小さいのに20年以上生きる種もあるみたいだよ。この間読んだ本に書いてあったんだけど。3年くらいで死んでしまうものもあれば数倍生きるものもある。生物の寿命って様々だね。俺たちの命だって同じことだけど」

ユキオは実験台の縁にもたれて言った。

「生物は皆限定的な生を生きてる。ここからここまでの数直線だ。宇宙だってそうだろ。そして宇宙時間では最終的に地球だって太陽に飲み込まれる。遠い時間の先で。・・ねえまったく人生ってなんなんだろうって思わない?」

ユキオは自分の前髪をくしゃくしゃ握った。

「またまたペシミストのユキオが出た」

私は笑う。

「・・でもそれは時間が直線だったらっていう考えよね」

ふいに茜は言った。

「もし時間が曲がっていたら?歪んでいびつに進むとしたらこの世界はどうなるのかしら」


抑揚のない声で茜は言った。


まだ続きます!

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