森で遊ぶ子供たち
双子は母の言いつけを守らず森で遊んだ
それでも森の神秘は二人を惹きつけた。オークの木々の間から漏れてくる鮮やかな日光や人間の顔の形をした木の洞や巨大に張った根、奥に進めば女のささやき声のような音をたて低木の間を流れる小川があった。ざらざらした幹に張り付いた大きな黒い虫や飛び回る不気味な目の模様のついた蝶、姿を見せない動物の気配・・彼らが足音を忍ばせ歩いても時折大きな影がばさばさと頭上を飛び獰猛な獣の息遣いに恐怖の悲鳴をあげてごつごつした岩陰に身を隠したりすることもあった。森は子供たちを魅了するものであふれていた。母の目をかすめて二人は森で遊んだ。
森の中を追いかけっこをして走った。レオヒルデは長いドレスの裾をまくり上げ高い声をあげながら木々の間を走り回った。その姿はこの世のものとも思われないほど妖しく美しく、太古からこの森に住む妖精のようだった。どんどん奥へ逃げるレオヒルデに兄の方がしまいには音を上げた。平地に深い穴を掘って数日して見に行くと牝鹿が息絶えていた。二人は残酷な喜びを味わった。
母親は日に日に野性味を増す子供たちを心配していた。二人が十を超える頃にはローラントには領主としての教育を受けさせて自覚を持たせるようにしむけた。
ある日二人は森の奥で不思議な親子に出会った。銀のローブを羽織りタイツ風の黄色のホーズを着用し尖った靴を履いた、銀髪でしわくちゃな細長い顔の父親。そして粗末な灰色の長い服を着た赤毛の顔立ちの良い男の子。二人に共通なのは燃えるように輝く緑色の大きな瞳だった。
「・・これは これは新しいご領主様では」
父親は目を丸くしてぴんと跳ねた口ひげを伸ばしながらローラントを見た。
「どうしてまたこのような場所に」
そしてレオヒルデに微笑みかけた。
「・・それに愛らしいお姫様」
男は二人に向かって丁寧にお辞儀をした。レオヒルデは艶然と微笑んだ。
「ここまでいらっしゃるとはさぞやお疲れでしょう。たいしたおもてなしは出来ませぬが何か飲み物でも」
父親はそう言って自分の家に二人を案内した
鬱蒼と茂った灌木の小道を抜けると木で作られたこじんまりとした小屋が目の前に現れた。虹のような羽をつけた首の長い不思議な鳥が数羽、庭で飼われていた。鳥たちはついと首をあげてローラント達を見た。
「アルブレヒト お前は鳥に餌をやって来い」
父親は乱暴に息子の頭を押して言った。アルブレヒトはちらとレオヒルデを見てから駆けて行った。
「ふん うすろのが」
父親は蔑むようにいってから慇懃に二人を家の中に導いた。二人は木製の質素な椅子に座り父親の持ってきた果汁で喉を潤した。
「今まで飲んだこともないお味!」
レオヒルデが頬を赤く染めて言った。
「裏の山でしか採れない果物で作った特別なジュースですよ」
父親はしわくちゃの顔を更にくしゃくしゃにして微笑んだ。ローラントは漠然とした不安を感じてコップをテーブルに置いた。
「ご領主様のお口にはあいませんかな」
父親はにっこりして、それから遅い自己紹介をした。
「わたくしはベルトラン・トレムレ。それに息子のアルブレヒト」
男は無関心そうに外を親指で差して言った。
「お腹がおすきでしたら昼食はいかがですか?」
ローラントは戻らなければ行けない時間だと気づいた。随分森の奥まで来てしまっていた
帰り道にも時間がかなりかかるだろう・・・
「いいえ もう戻らなければ」
レオヒルデが不満そうにローラントを見た。ベルトランは残念そうな顔で言った。
「久しぶりのお客様でしたのに・・」
そして親しげな顔でレオヒルデを見て言った
「どうぞ また遠慮なくいらっしゃってくださいまし」
レオヒルデは嬉しそうに微笑んだ。
伝説は続きます!




