古城の伝説
ジョセフはおばあさんから聞いた伝説を話し始めた
ジョセフは黄色い花々を見渡した。
「見てごらんよ。ずっと城門まで続いてる」
綺麗だね。ジョセフは私の肩を柔らかく押しながら花の群れに沿って歩いた。綺麗だけど匂いのきつい花だと私は思った。花は門から針葉樹の森へと繋がっていた。森の後ろにはごつごつと岩の突き出た山がそびえていた。
「ねえ、ジョセフ、私ね・・」
私はさっき見た恐ろしい光景のことを話した。
私を見下ろしていたたくさんの目のことを。ジョセフは驚いて大丈夫だよ、と繰り返した。
「何も見えなかった。それよりもこの城の伝説のことを話そう」
私達は森に向かって歩いていた。私は薄暗くなった空が気がかりだった。城も恐ろしかったが傘を持っていないのにこのまま歩いていくのが心配だった。けれどジョセフはご機嫌な様子で足早に歩いていく。
「ねえジョセフ」
私は地面を這うように茂っている灌木をよけるのに苦労しながら言った。
「雨が降りそうよ」
「だってヒロミはこの城の謎を解きに来たんでしょ」
ジョセフは意味ありげな笑いを投げながら言った。
「さっきのおばあさんの話だと城の最後の城主はあの森が大好きだったんだって」
「・・森が?」
「うん。もう五百年以上前の大昔のこと。ここは小国に分かれて小競り合いをしている場所だったらしいんだ。そしてこの辺りを支配していた王は権力を掌握するために腹違いの弟とその家族を辺境の城に追っ払ったらしい。父親の王が隣国との戦争で死んで自分が王位を継いだら後妻である継母と幼い双子の兄妹は邪魔な存在だったんだ。でもこの城にやってきた兄妹は・・ローラントとレオヒルデというんだけど・・窮屈な都より自然に満ちたこの土地が気に入ったんだ」
ジョセフはすらすらとおばあさんに聞いたという物語を話し始めた。
Ⅷ古城の伝説
二人の双子の兄妹ローラントとレオヒルデはよくこの森で遊んだものだった。この森は当時「魔法使いの森」と呼ばれ恐れられていた。彼らの母親は森で遊ぶことを禁じていた。
「森に入ってはいけません」
母は窓を開けて厳格な灰色の目で七歳のローラントと双子の妹レオヒルデを見やった。ドレスを着て宝石のついた頭飾りを被りその先からは長い繊細なヴェールを垂らしていた。当時の王族の衣装だ。ゆったりした袖口からのぞく指には指輪が幾つも煌いていた。彼女は重々しい口調で言った。
「森の後ろは登ったものは誰も帰らないと言われる魔の山、ハルムント。呪術を操るものが遠い昔から住んでいて、魔法をかけられたものは一生その魔物の奴隷として山で暮らさなくてはならなくなるそうよ」
ローラントと妹は母親の言葉に顔を引きつらせた。
「命知らずのつわもの達が何人も山に消えたといわれています」
母親は窓を閉めて忌々し気に続けた。
「お父様がご存命であればこんな地に追いやられることもなかったのに・・・」
母の頬に悔し涙が伝った。
二人の双子の物語が始まる・・・




