2人の間に吹く風
茜との友達つきあいが辛くなって・・・
Ⅶ今日の友は明日の敵
茜と前のように接することが出来なくなった。休み時間に話したり三人でお昼を食べたり部活に行ったりしていたけれど・・できるだけ以前と同じようにしようとはしていたけれど難しかった。茜も私の変化に気づいてしまった。
「あんなママで美野はびっくりしたんだね」
悲しそうに茜は言った。
そんなことないよ、と私は言ったけどぎこちなくて不自然だった。
茜は眉を寄せた。休み時間には一人で本を読んだりして私達との時間をだんだん減らし始めた。
「ミノらしくないんじゃないの」
ざわざわと生徒の通る廊下に出て、開いた戸から教室で本を読んでいる茜を親指で指してユキオは言った。
「もしあの話が本当だとしたら茜だってこれから何が起こるかわからないじゃないか。今だってあの母親の世話で大変そうなのにさ。ミノと楽しそうだったのにちょっと可哀想だ」
「ユキオだって茜が二重人格だって言ってたじゃないの」
「あんな状況じゃあそうもなるんじゃない」
「それじゃあユキオは前みたいに茜とつき合えるの?・・・私はできないよ」
「・・そりゃ気味悪い親子かもしれないけどさ」
ユキオはもう一度茜の方を見やって腕を組んだ。
「・・私は前みたいにユキオと二人の方がいい。その方が安心だもん」
私はそう言ってユキオの目を見た。ユキオは暫く躊躇っていた。
「お前がそう言うんなら・・」
そう言って軽くため息をついた。
幸いなことに茜の孤独はあまり続かなかった。私たちと離れた茜に気づいた級友たちが茜に接近し始めたのだ。高田ちや率いる女子グループは熱心に茜をグループに勧誘した。
「だいたい変だと思ってたのよ」
ひっつめにした髪を振りながら小顔につり気味の目と大きな口でちやは言った。
「なまっちろい刈谷ユキオとひょろっとした美野の暗いコンビに茜が入ってるなんて」
ちやは高い声で笑いながら茜の肩をたたいた。
「今日みんなでI駅のショッピングセンターに行こうよ。前の学校の話も聞かせて!」
私は自分の席から5、6人の女子に取り巻かれ談笑している茜をながめていた。母親の事件がなかったらあれが本来の茜の姿なんだ。明るくて誰の目も引くきらきらした笑顔の美しい少女。今は装っているにせよああして茜はやっていける。男子から交際を申し込まれたという噂も流れてきた。何かあったら茜を守ってくれる人間はいっぱいいるんだ。別に私たちがそばにいたって助けられるってわけでもない。気にすることはない。私はユキオがいればいい。そう思った。
12月になると雪が降った。茜は風邪をひいて数日学校を休んでいた。勉強が遅れると茜が心配してるんじゃないかと私は思った。私は高田ちやにノートをコピーしてやらない?と聞いてみた。
「やだあ。学年トップに返り咲くチャンスじゃないの?」
それからちやはそっけなく言った。
「学校に来て頼まれたら別に貸すけど。塾いってればそっちで教えてくれるよ」
茜の母は風邪の世話が出来るのかなあと私は思った。ユキオも気にしていた。
「連絡してみようか。一応部長だし」
その日の夜ユキオからLINEがきた。
ノートのコピーを家に持っていくことにした。インフルエンザで病院から学校に行くのを禁止されたらしい。もう大分いいそうだよ
私は自分も行く、とLINEした。ユキオを一人であの家に行かせるわけにはいかないと思った。
日曜も雪が降って寒かった。私はコートを着込んでユキオの家の門扉を開けた。白い息が自分の温かさを証明しているみたいだった。ユキオのお母さんが玄関を開け寒いから中で待って、と笑顔で言った。相変わらず長くきれいな髪。昔私を撫でてくれた指も細いままだった。積もると嫌ですね、とお母さんに言うとまだ積もるまではいかないでしょ、と笑った。ユキオは寝不足顔で階段を下りてきた。
まだ続きます!




