1.僕は彼女のなか
この作品は、ぼくは麻理のなかとは関係ありません。
その朝、目が覚めると、僕は見知らぬ部屋にいた。
ベッドから体を起こすと違和感を覚えた。
背中まで伸びた黒髪に膨らんだ胸。
部屋の鏡を覗くと、そこには端正な顔立ちをした女の子が映っていた。
彼女は月島 茜。名前しか知らない。
僕との関係? クラスメイトだ。でも話したことは一度もない。僕は茜さんが好きなのだが。
なぜこうなったかは不明である。
昨日、帰りに茜さんを尾行けていたのは覚えているが、途中で記憶が飛んで今に至るわけである。
「茜ー! 起きたの!?」
部屋の外から母親とおぼしき声が聞こえてきた。
僕は部屋を出てリビングに移動した。
「おはよう」
「あ、おはよう。トイレどこだっけ?」
母親は戸惑った表情を見せた。
「茜、どうしたの?」
「あ、いや、ちょっと度忘れというか……」
「トイレなら階段の横だけど、大丈夫?」
「うん」
僕はトイレに入った。
「あ……」
戸惑う僕。
とりあえず、ズボンとパンツを脱ぎ、便器に腰かけた。
ちょろちょろと尿が出てくる。
用を足し終えると、僕はトイレを出た。
食卓に着き、朝食を取る。
食べ終えると、部屋に戻って着替えをクローゼットから出す。
着なきゃダメ?……だよな。
僕は覚悟を決めてセーラー服を着た。
さて──と、鞄を取って家を出る。
学校に着くと、本来の僕に出会った。
その僕は何も言わず、そして止まることもなく校門を潜っていく。
「ねえ?」
僕は本来の僕に声をかけた。
本来の僕が振り返る。
「な、なに?」
緊張している。
「君は月島 茜さん?」
「なに変なこと言ってるの? 僕は篠崎 茂だよ」
どういうことだ。僕は篠崎 茂で彼も篠崎 茂?
これは入れ替わったとか、そう単純な話ではなさそうだ。
「僕も篠崎 茂っていうんだ! 今朝起きたらこの体になってて!」
「訳わかんないよ。何なの君?」
本当に何なんだろう?
「冗談。私は月島 茜だよ」
キンコンカンコン──チャイムが鳴る。
僕と本来の僕は校舎に入った。
教室に着く。
僕は茜さんの席に座った。
教師が入ってきて、出欠を取り始めた。
茜さんの名が呼ばれる。
僕は返事をした。
ホームルームが終わり、教師は出ていった。