007 ラソロケニージノリ
イケメンの名前はラソロケニージノリと言うらしい。
(赤ん坊が初めてしゃべった言葉を名前にするのが森の民の風習ということは、呪文みたいな名前をしゃべる赤ちゃんだったわけだな)
「言いにくければラソロでいいぞ」
彼はそう自己紹介してくれただけで後のことは説明してくれない。
「一応確認しておくが、魔法は使えるんだよな?」
エルフは、指先にポッとろうそく大の火の魔法を灯して見せた。
「よし、じゃあ後はがんばれ」
「がんばれって何をですか?」
「寝る場所は、僕のテントを使わせてやる。モンスターの警戒もやってやろう。食糧は自分で現地調達だということだ」
それじゃあと言って、ラソロはさっさとテントの準備をして森の中へと消えてしまった。
(さっぱり状況が読めないが、とにかく食い物を自分たちで探さないと飯抜きなのか?)
季節は春。夜はまだまだ冷えるとはいっても、花は咲き、果物が実っている。
(とはいうものの、家の近所なら甘い実がなる木の場所も知っているけど、まったく知らない夜の森で、幼児に何を探せと言うんだ?)
エルフが木の周りを探していると、ラソロが戻ってきた。
「何をやっているのだ?」
不思議そうにエルフを見るラソロの両腕には、いっぱいの果物や獣があった。
「そんなところに食い物は無いぞ」
「まあいいじゃないですか。それだけあれば夕食には十分でしょ」
「何を言っている。これは僕の分だけだぞ?」
そう言って調理し、食べ始めた。分けてくれるつもりは一切ないらしかった。
その日の夜、エルフは空腹のせいで遅くまで眠れなかった。
翌日、起きた時にはすでに移動していた。
「起きたなら自分の足で歩け。自分で歩かなければ強くなれんぞ」
ラソロは、眠ったままのエルフを荷物と一緒にくくりつけて、背負って歩いていた。
地面に下ろされると、昨日と同じように引きずられながら歩かされた。
昼食に固いパンをもらって食べていなければエルフは空腹で倒れていたかもしれない。
夜にはまたテントを張ったラソロはいなくなってしまった。
(ついて行けば、簡単に食い物が手に入るなんて甘くはないな。歩くのが速すぎて追跡は不可能だ)
森の中でテントへの方向が、かろうじてわかるだけの状況だった。
(おおっ、これは食べられるやつじゃなかったかな)
石のような物体が木の根元に、ごろごろ転がっていた。
(確か殻を割って食べられるんだよな。あっ、あっちにはキノコが生えてる)
エルフがそれなりに収穫したころ、ラソロが帰って来て、さらっと言った。
「そのキノコと草は毒があるから食べない方がいいぞ?」
結局、固い殻を石で割って食べるしかなかった。
(がんばって割ってもあんまり食べるところがない上に、あんまりおいしくない。おかしいな、前に家で食べた時にはおいしかったのに)
エルフはまだ知らないが、その木の実の種類は微妙に違っていて、食べにくくてあまりおいしくないのだ。
(それに、覚えている魔法にこんな時に使えそうな魔法がない。石で割って食べるしかないなんて、余計腹が減るだけじゃないのか)




