006 理論派の教育
魔法の基礎はグウスが教えてくれた。
魔法陣を描いて、その中心にエルフを立たせる。封印解放した魔力量を調べるところから始める。
「いきなり魔法を使おうとした絶対に駄目よ。何が起きるかわからないからとっても、とーっても危険なの」
(オイコラ、オード。テメーは何やってくれてんだ!)
エルフが非難の目を後ろに立っている父に向けると、口笛を吹きつつ目をそらした。
「エルフの魔力量は、えーと。あーん?」
(多いの?少ないの?)
エルフが不安に思っていると、結果を言わずにグウスはエルフの左腕にミサンガの様な組み紐を結びつけた。
「これはお守りよ。私が外して言いて言うまで絶対に、ぜーったいに外しちゃ駄目だからね」
魔力量について、結局グウスは教えてくれなかった。
(補助輪的なアイテムなのか?魔力が少なくて、小さい子供を補助するアイテムとか?)
「じゃあ次は、属性について調べましょう」
場所を変えて台所のテーブルで調べることになった。
さっきとは別の魔法陣が描かれた黒い布の上に、ピンポン玉より少し大きい水晶玉が乗せられている。
「エルフ、手を出して」
差し出された小さな手のひらを布の上に置き、手のひらに水晶玉を乗せた。
水晶はさまざまな色の光を出して強く輝いている。
「おー、すごいわ。さすが私たちの子!苦手な属性は無いみたいね。これなら、いっぱい魔法が覚えられるわよ。よかったわね」
グウスが頭をなでてくれている。
(火じゃないのかよ)
エルフが再び非難の目を後ろに立っている父に向けると、口笛を吹きつつ目をそらした。
グウスの魔法の教え方は、呪文や道具を一切使わない。学校の授業というより、自転車の乗り方を覚えるのに近いものだった。
魔法は感覚的に教えられた。
グウスがエルフの後ろにぴったりと張り付いて、まず魔法を使う。そうするとエルフにその感覚が伝わるのだ。その感覚を頼りに上手くいくまで繰り返し繰り返し練習した。
慣れてくると、張り付いてもらわずとも、魔法が理解できるようになって来た。
読み書き、計算、家事、採集、狩猟。他のことも教わり始めていたけれど、エルフにとっては魔法が一番楽しかったから、一番練習を頑張った。
昼間は主に家の手伝いと、魔法の練習。夜はイケメンが出る悪夢を見たり見なかったり。
そんな日常を繰り返していた、ある日のことだった。
「ごめんください」
見知らぬイケメンがいた。
「お前が、グウスさんとオードさんの子供だな」
尋ねてきたイケメンは、戸惑っているエルフを強引に外へと連れ出した。
エルフの右手をつかんでぐいぐいと引っ張っていく。
(え?えぇ?何この状況?どうなるの、俺)
森の中をどんどん進んでいく。
遠くの木の影にオードが見えた。エルフは大声で父親へと呼び掛けた。
「父さーん」
気が付いてもらえるようにブンブン腕を振った。
するとイケメンも立ち止った。
「ラソロケニージノリです。オードさん、約束通り連れて行きますね!」
イケメンはエルフをさらっていく犯罪者ではないらしい。
(何?約束?なんのことだ?)
こちらに気が付いたオードは手を振っている。それを確認するとイケメンは歩き出した。
その移動速度は、子どもの歩幅ではついて行けない。一緒に歩くというよりも、引きずられていた。
イケメンの移動は夕暮れまで続いた。