005 人生の墓場へ
エルフは成長して、女性らしい体つきになっていた。胸は大きく膨らみ、腰のラインも色っぽくなっていた。
そう、今日は特別な日である。
顔に白く濃い目の化粧を施し、純白のドレスを着こんでいる。
エルフの両親は今日という日を迎えられた嬉しさと悲しさで涙を流している。
隣には少し緊張した顔の男が立っている。彼も森の民だ。生まれた時からの許婚。年貢の納め時か、彼が相手ならそれもいいかもしれない。この時が来るのは決まっていたことなのだ。
指輪を交換し、誓いの口付けを交わそうとしたその時だった。
大きな音を立てて扉が開き、若い男が乱入してきたのだ。
エルフの手を取って、強引に式場から連れ出そうとしてきた。彼もまた、エルフのことを求めている。
乱入者の男に引っ張られた腕とは逆の腕を、婚約者が手をとってエルフを引き留める。どちらの愛がより強いのか試す時が来たのだ。
動揺するエルフをよそに、力ずくの綱引きが始まった。
腕の関節が外れてしまった。何という因果か。
こんな夢を見た。
「はぁ、はぁ、はぁ」
窓の外はまだ暗い。水でもかぶったみたいに、全身汗でぐっしょりと濡れている。
胸を触って確かめる。エルフの胸はぺったんこのままであった。
やっと転ばずに駆けっこができる様になった子供の体だから当然である。
魔法で光の球を出した。電球程度の光が部屋の中を照らす。教えてもらい始めた魔法は、日常生活では便利な光や水の魔法が主だった。
(今日の夢は、また結婚式だった。前々回の奴隷にされて、全裸で鎖に繋がれて、オークションにかけられる夢よりはましだ。しかも買い手がつかなくて、安くなっていったし。
とにかく、俺は男と結婚するなんて生まれ変わってもゴメンだ)
エルフの体は女の子でも、魂は間違いなく男なのだ。
(しかし、許婚とか婚約者とかその辺の確認もしておかないと危ないな。森の民の風習を知っておかないと、俺の人生が詰みかねない)
エルフにとって、男性との結婚はまさに人生の墓場だった。
汗を拭いて着替え、またベッドの中に入った。今夜はもう悪夢を見ないことを祈りながら。