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041 怪談



襖で仕切られた向こう側、風呂上がりの男たちがダラダラしていた。大人の中には酒に酔っている者もいた。

着なれていない浴衣は布団に寝転がったせいで少し乱れていた。

オッサンたちから、もうやることもないから明日に備えて早く寝ようという空気が漂っている。



「そういえばさ、現地人……エルフだっけ?なんかあいついいにおいするよな」

仰向けに寝転がっているメグミが突然ポツリとつぶやいた。

誰も何の反応も返さないから、メグミは自分の発言が場違いだったと後悔していた。



「この中では、俺が一番長く一緒にいたから言うんだけど、確かにあいつはヤバい」

静かになったこの場で、アサノが話し始めた。

それまで明日決める選択について、お互いの意見を言い合って生まれた、真剣な空気が完全に消えた。


「初対面の時は物凄く美形の男で、嫉妬みたいな思いも少なからずあった。積極的に話しかけてこないから、カッコつけやがってみたいに思うこともあった。

でも、実は俺たちにすごく協力的で、すごくいいやつだった」

「それで、いったい何がヤバいのですか」

キリシマがアサノを急かした。


「例えば図書館での調べ物の作業中、俺のすぐ後ろに立って背中越しに、書いてある分の内容を説明してくれた時。ふと横を見ると、すぐそこにあの顔があるんだ。

近くで見てもやっぱり美形で、まつ毛長いなとか、肌もきれいだなとかいう考えが浮かんで来るんだ。そのうち、唇やうなじが気になりだして、ドキドキしてくるんだ。

だんだん、あいつが男に見えなくなってきて、メグミが言うようにいいにおいがしてくる。

そんなことが何度かあって、これ以上はヤバいと思ったんだ。これ以上は帰ってこられなくなる危険性があるって

だから俺はあいつに近づきすぎないようにしている。

うちのカネモトがあいつのことを気に入っているみたいだから、あいつに頼みごととかある時は全部任せて少し距離を取っている。別にあいつのことが嫌いってわけじゃないぞ」

「それは俺の愛の信仰に関わる危険な問題だな!俺の愛する彼女たちのためにも、参考にさせてもらうよ」

シムラがふざけているようで、本気で警戒していた。

「その話を聞いて、エルフを風呂に誘わなくて良かったって思った。俺はモトコ一筋なんだ」

メグミも勝手に浮かんできた、エルフに対する露天風呂での妄想を、必死に打ち消している。


「私はエルフさんに対してそんな気分にならないんですよね。遠目に見る分にはいいんですけど、近くだとちょっとね。この気持ちは命の恩人としての感謝とは勿論別ですよ。私の守備範囲外というか」

オハラの言葉に、シムラが男子校生のノリで聞いて来た。

「じゃあさ、オハラ先生の好みってどんなの?やっぱおっぱいは大きい方が好み?」

「胸板ですか?私はどちらかというとお尻の方が重要です。脂肪のあまり付いていない若くて筋肉質な方が断然好みです。旅館で浴衣もいいですね。こんな布団を並べて一緒に寝る状況、すごく興奮します。ちょっと強引に攻めた方が新たな快楽と出会えて、受け手も気持ちいいはずですよね」

酔いのせいだと信じたい、火照った彼の純真な笑顔には何か凄味がある。

彼らは、彼の好みが何なのかを理解して、一斉に彼から少し距離をとった。




「……寝る前にする怪談にしては、怖すぎるだろ」

彼らの夜は、まだまだ明けない。



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