039 猫をかぶっても手遅れ
コミがまた別の模型を引っ張り出す。
「具体的な魔人の説明に移ろう。
召喚された君たちは、この世界に召喚されるまで、魔法が使えたものや高い戦闘能力を有していた者はいないはずだ。その力がどこからやって来るものなのかは解明できていない。
身体能力や魔法は使えば使うほど高まったはずだ。
召喚された異世界人は身体能力の向上が強く、転生者は魔法能力にその影響がでやすい。
例えば剣で戦う者の筋力は遥かに人間離れした物になる。
しかし、その力はこの世界にとっても不自然なものなのだ。
その歪みを修正するために異世界人の体は魔人に変化する。
シッポ、角、翼、鱗、爪。おそらく、強すぎる力に合わせて体をモンスターに近づけることで歪みを弱めているのではないだろうか。
転生者の影響は、髪や目の色の変化として現れることが多い。それに、内臓など目に見えない場所にも影響が出ている。おそらく、こちらの世界で生まれたため、歪みが少ないからだと推測される」
コミが説明に合わせて、角のついたカチューシャや羽つきの服、カツラを身につけた。かわいい。
「個人差があるが、こちらの世界にやって来てから十年ほどで魔人へ変化する。
君たちの中にも変化の兆しが出ている者もいるようだね。
戦闘経験の多い者や能力値の高い者の方がより影響がでやすい。
異世界人がどこまでモンスターの姿に近づくかは、どれだけ力を使ったかによる。歪みが大きければ大きいほど、変化も大きなものとなるだろう。
……私の姿の様にね」
コミが家系図のような物を取り出した。
「ちなみに、異世界人は魔人になるが、魔人の全てが異世界人ではない。
魔人と魔人の間に生まれた子供も魔人となる。
尻尾や羽が生えた姿で生まれるが、どれほど力を使ってもそれ以上姿は変化しない。君たちを連れてきたソーデもそんな魔人の一人だ。異世界に関する知識も愛着も無い」
エルフが、魔法薬を取り出してカネモト達に配り始めた。
「近いうちに魔人化する君たちを、何故私は呼び出したのか。
その理由がこの魔法薬だ。
先ほど説明した魔人への変化を抑える薬だ。
これを飲めば魔力、戦闘能力は徐々に低下していくが、人間のままでいられる。見た目も変化せず、それまでのように人間として、人間の社会で生きることが可能になる」
異世界人たちは、魔法薬の入った瓶を見ている。その目は瓶の中身だけを見ているのではない。
「この薬は完全に魔人化した者にはもう何の効果もない。現地人にとっては毒で、多量に接種すると危険だ。
君たちに求めるものはただ一つ。
選択だ」
「健康番組やニュース番組みたいな、模型や小道具が気になって、話が頭に入って来なかったんだけど、つまりどういうこと?」
「異世界人は、時間の流れも滅茶苦茶で、無数にある並行世界から来た。
似たような場所がいっぱいあって、区別が付かない。どれが本当の帰るべき元の世界なのかわからないから、帰れない。
異世界人がこの世界にいると魔人になる。
人間のままでいられる薬をのむか飲まざるか?」
「ふむふむ。わからん!」
薬は一旦回収されて、答えは明日聞くことになった。
「エルフ、お前はどこまで知っているんだ?」
アサノがエルフに尋ねた。
(アシスタントをしていたのは、一ケ月間泊めてもらっていたお礼で、さっきの説明以上のことは何も知らん)
「エルフ!あなたが噂の森の民なのですか!」
エルフが答えるのをさえぎるように、魔人のソーデが飛び出してきた。
「一ヶ月近く探し回りましたのに、見つからなかったのはこの国にすでにいらっしゃっていたからなのですね。運命を感じますわ。
はじめまして、私の名前はソーデ。ふつつか者ですがよろしくお願いします」
(はじめまして、じゃねーだろ。こいつ完全に気付いてない。ダンジョンで捕まえて檻に放り込んだ後、殺そうとした現地人が俺だってことに。
百万匹猫かぶったところで無駄だ、もうお前の本性は知っているんだからな!)
エルフは距離を取ってアサノたちと真面目な話を続けようとしたけど、魔人からは逃げられない!
「わたくし、これから異世界人の皆様を宿泊施設得ご案内するようにと、ウガキ博士から頼まれているのですけれど、ぜひご一緒にどうかしら?」
ニコニコの笑顔で、口元から鋭い牙がこぼれる。エルフが何かを言い返す前に、がっちりとエルフと腕を組んで歩き出した。




