003 悲劇は突然襲う
「エルフ~。父さんにも話すところを見せてくれないか」
ベッドに連れ戻されてからずっと、両親は側から離れない。
(二人の会話を聞く限り、最後のエルフって言ったところしか聞かれてなかったみたいだな。あぶない、あぶない)
二人とも赤ん坊の彼のことをエルフ、エルフと呼び掛けるようになった。
(俺のことを名前で呼ばないから、育児放棄や虐待の心配までしていたが、どうも違ったみたいだな。赤ん坊が初めてしゃべった言葉を名前にする風習だったんだな。名前、美少年とかハーレムよりはましかな。前世だったらかなりアレレな名前だけど、どうせそんなこと誰も知らない世界だろうし)
(俺が言葉を話すとわかると、途端に情報量が増えるな)
両親は積極的に彼、エルフに話しかけるようになっていた。
(少し情報を整理してみるか)
父親の名前がオード、母親の名前がグウス。
(二人も赤ん坊の時につぶやいちゃったんだな。それにしてもバブーとか言わなくてよかった。泣き声とは違う、意味のない赤ん坊の言葉を名前にするのか?よくわからん。
種族は、森の民というらしいな。年齢の話をしている時に千何百歳とか言っていたから不老長寿な種族で間違いないけど)
悲劇は突然襲う。
(両親は美男美女で、遺伝的にも将来イケメン間違いなし。前世の世界の知識とか、特別な努力をしなくても絶対にモテル。生まれてきた時から勝ち組とか、転生サイコー!)
そんなことを考えながら哺乳瓶で今日も元気に食事をさせられていた。
(美女だけどグウスはスタイルがいまいちだな。胸が皆無だもんな)
食後、家事を一通り終えたグウスが今日もエルフを入浴させようとタライに魔法でお湯をためる。
「あら?石鹸がないわ。切らしていたかしら?」
服を脱がし終えたところでグウスはエルフをそのままにして石鹸を探しに行ってしまった。
(おいおい、水の側に赤ん坊を放置して行くなよな。俺だったから問題ないけど、溺れたらどうするんだ)
普段は服を脱がせたら、すぐタライの中で体を洗われるため、気がつけなかったのだ。
(あれ…っ?え?)
裸、それもオムツすらしていない状態で自身の体を見たのが初めてだった。最近できる様になった座ることができたためにはっきりと見えた。
(ない……だと!?)
彼、いいや、彼女は理解した。
転生したエルフは女の子の体だったのだ。
じわりじわりと目に涙がわき上がって来る。泣き声に驚いたグウスはあわてて戻って来た。
今までほとんど泣くことのなかったエルフは一晩中泣いた。ひどい夜泣きのせいで両親も涙目。
ハーレムという男の夢は潰えたのだ。