018 恋愛は悲劇こそ美しい
二人の交際は上手くいっていた。中には悪く言う人もいたが、ホコロミが手を回したようで、表立っては何の問題も無かった。
そのはずなのに、タストは泣いていたのだ。
放課後、エルフしかいない第二書庫にタストは訪ねてきた。
(ついに、彼女の親御さんに反対されたか。仕方がないよな。この世界の身分制度はかなり厳しいみたいだし。上手くいっていただけに、つらいだろうが失恋を慰めてやるか)
そうエルフは考えて、黙って身構えていた。
「エルフさん。俺、聞いてしまったんです。彼女が、アアルがこの学校に通っている理由、俺なんかとの交際が許されている理由を」
タストが、待ち合わせした彼女がなかなか来ないから寮の前まで迎えに行った時のことだった。
アアルは侍女に支えられながら、寮から出てきた。
その普通ではない様子に驚き、タストはとっさに身を隠してしまった。
「お嬢様、今日はもうお休みください。体調がよろしくないことは自分が一番わかっているのでしょう」
侍女の支えに頼りながら、アアルは歩みを止めなかった。
「いいえ、せっかくタスト様と約束したのですもの、破るわけにはいかないわ。それに私の命が長くないことは私が一番わかっています。
学校に通いたいとわがままが認められたのも、自分で選んだ人と一緒にいられるのも、私の残された時間が短いから。
あなたにも迷惑をかけています。それでも残された日々を我がままだとしても、生きたいの。
未来のない女にあの方の時間を奪う権利はないけれど、私は残りのすべてをタスト様に捧げるつもりよ。きっと許してもらえない。
それでも、今の幸せを感じていたい」
だからお願いよと、その声は弱々しくても強く伝わった。
侍女は薬を取り出してアアルに飲ませ、顔色を誤魔化すためにさっと化粧をした。
タストにできたのは、待ち合わせ場所でなにごとも無かったかのように耐えて振る舞うことだけだった。
「お前はどうしたいの?」
エルフに聞かれたタストは涙をぬぐって答えた。
「俺にとって彼女は彼女です。病気だろうが関係ありません。ずっとそばにいてあげたい」
「じゃあ、結婚でもしてあげれば?いつまで生きられるかわからないんだから」
そうエルフが軽く言うとタスクはエルフの胸倉をつかんだ。
「ちょっと、待て、まだ話の途中。だから、お互いがお互いを偽り合って過ごすよりも、正直に心の内を打ち明けて、愛のために生きた方がいいんじゃないか、と言いたかったわけだよ。お前が決心すれば、俺は協力するよ」
タストは、あふれる涙を抑えきれないまま、強くうなずいた。
エルフはタストと一緒に、ホコロミにこのことを相談した。さらに、侍女にも話をつけて、タストとアアルが話し合う場を設けた。
互いを思い合っている二人である。強く言い合うこともあったけど、思いを受け入れることができた。
アアルはこのことを手紙に書き、両親に結婚したいと伝えた。
普通なら、せめて卒業した後で式を執り行うはずなのに、彼女の両親はすぐに駆けつけてその翌日には結婚した。エルフがタストの親族の代理人となった。
アアルの容体はよっぽど悪いらしい。アアルの父親は、泣きながらタストの手をすがる様に握り締め、何度もありがとうと言った。
結婚後も二人の生活は変わらず、彼女の願いから学校で普段通りに過ごしていた。