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014 パンダはなぜか歓迎されない



エルフは目的地の国ヤーレに到着していた。

周りを海と山に囲まれて他国から攻められにくく、特に目立った資源、産業も無い。

地理的に平和ではあるが、将来には不安が残る。


国は、なによりも人材が重要であると学校を作った。実際、政治経済軍事芸術開発、何をするにしてもその人材すら不足していた貧しい国である。

これまであった学校とは違い、他国との交流、異文化異種族との交流から新しいものを生み出すことを目的としている。


国立ヤーレ国際交流文化振興多種族社会学魔法教育大学校と長ったらしい正式名称があるが、地元民はヤー校と略して適当に呼んでいた。


教師陣は学校長が各国から人材を集めた。他国の学校で研究熱心すぎると変人扱いされているような人が多かった。そういう人ぐらいしか集められなかった。それでも各分野の専門家である。学校としての形は整った。

それまでまともな学校が無かったため、自国の貴族や商人や軍人の子供たちが集まった。しかし、出来たばかりで実績も無く、他国や異種族からの人材はなかなか集まらない。


学校はある一定量の単位を取れば卒業となる。必死にやれば最短で二年で卒業することができるが、大抵は四年で卒業する。研究を続けたければいくらでもいることができるが、ほとんどの生徒はすぐに就職する。親である貴族や軍人、商人たちからの評判は良くて、学校はひとまず安定していたのだった。




エルフは学校の門をくぐる。学校ができて十年以上が経過していたけれど、校舎もまだ新しかった。

「意外と立派な学校じゃないか」

とりあえず学校に来てみたものの、どこで誰に会えばいいのかさえわからないから、エルフは学内を勝手に見学していた。

「元々あった山の砦を改築した物ですから、造りはかなり頑丈なんですよ」

若くて影の薄そうな男が話しかけてきた。

「巷で話題の白い毛皮の人がこの学校に何のご用でしょうか?」

事務員か教員かわからないが、学校関係者の様だ。いきなり話しかけられて驚いたエルフは、何も言わずに荷物からあの手紙を取り出した。

「これは?ああ、あなたはオードさんの」

「オードとグウスの子、エルフです。学校のお手伝いに来ました。遅れて申し訳ない。父の代わりに謝罪します」

「いいのですよ。森の民の時間感覚のことはよく知っていますから。そもそも一方的にお願いしたのは私なのですから」

男は笑顔で握手を求めてきた。

「私はレイツ。オードさんとは古くからの友人で、この学校で校長をやっています。どうかよろしく」



レイツの要求は一つだけだった。

「エルフさんに、この学校に通ってもらうだけでいいのです。もちろん、こちらがお願いするわけですから学費、教材代、家賃、食費も全部こちらが負担します。

地元の子供たちがこの学校に来て学んでくれている。それは良いのですが、それだけではだめなのです。

他国の文化や他種族と直接交流することでしか学べないこと、教師の教える科目以外でも学んでほしい。そう思ってここを作ったのですけれど、他種族は全然集まってくれませんでした。

ここでしか学べない最先端の研究や充実した施設、有名な教師、他にも場所の問題もあります。この国は平和ですがただそれだけの国で、魅力に欠ける。

世界中から人を集めるための何かが必要だったのです」


(要するに、客寄せパンダだな)


「森の民はその存在は知られていますけど、実際に会ったことのある人はほとんどいない。

そんな存在が通っている学校として有名になれば、自然と生徒が集まります。

そうすればこの学校本来の目的も果たせるようになります」

「期間はどのくらいでしょうか?」

「こちらとしては長ければ長いほどいいと考えております。お願いする立場なのですから強制することはしません」

エルフは少し考えるそぶりをして答えた。

「お役に立てるかどうかはわかりませんけど、よろしくお願いします」


(魔人どころが、異種族は俺が初めてなのか?これは長くかかりそうだ。あれ?そういえば) 


「ところで校長先生は、どこで父と知り合ったのですか。生まれてから百年ほど経ちますけど、森の民以外の人間が訪ねて来たことはないのですけれど」

校長ことレイツは、すっかり忘れていたと言って説明し始めた。

「私もただの人間ではないのです。天の民と呼ばれている種族で森の民同様に年を取りません。オードと知り合ったのは数百年以上前のことです」

「そんなにすごい種族なら、先生がそうだと公表して宣伝すれば生徒は集まるのではないですか?」


「天の民は、森の民よりも古くからこの地に存在するとされる種族ですが、森の民ほど魔法は得意ではありません。一つか二つほど生まれながらに独自の魔法を使うことができるのですが、あとの魔法は人の魔法使いと同程度です。

数も少なくて歴史に関わるようなことも、ほとんどありませんでした。

天の民だけでは社会を維持できないので、大抵の天の民は種族を隠し、人の社会に紛れて生活しています。

永く生き、知的好奇心が強いので、研究に熱中する者が多いのも特徴です。

ゆえに千年近く、自分たちのやりたいこと以外にはかかわることがありませんでした。


そして、忘れ去られてしまったのです。

公表しても、まったく宣伝にはなりませんでした」

レイツは溜息をついた。

「私自身も育ての親と、妻以外の天の民がどこで何をやっているのか、まったく知りません。

この学校が世界中に知れ渡れば、出会える可能性が生まれると少し期待しています」


コンコンと優しいノックの音がした。誰が来たのかその音だけでわかったらしいレイツが、どうぞと声をかけた。

「失礼します」

入ってきたのは少女だった。

(生徒さんかな?ああ、学生寮の案内でもしてくれるのかな。委員長っぽいな)

エルフがそう思っていると、彼女の紹介をレイツがし始めた。

「彼女がさっき説明した私の妻レナリです。こう見えても年上なのですよ」




彼女はじっとエルフを見つめると不審者を見る目つきで、エルフが生活することになる学生寮へと不機嫌そうに案内した。


(あの、何か失礼なことでもしました?超怖いんですけど)


機械的に、そう感じさせられる、まるで人間相手ではない作業のように、たんたんと学校案内もやってくれた。

倉庫のような場所から、制服や教科書ノートの勉強道具、着替えなどの生活必需品を持ってきてエルフに押し付けた。


「他にわからないことがあれば、この生徒手帳を見るか、私以外の誰かに質問してください。入学に必要な書類は勝手に記入しておきます」

それでは、と言うと勢いよく扉を閉めて学生寮のエルフの部屋から足早に出て行った。


(森の民って、無条件に好感を持たれる存在だと思っていたけど、目立つ存在が必ずしも受け入れられるわけではないってことか?)

エルフはこの学校での人間関係に不安を抱いていた。





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