表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/44

012 時間だけはたっぷりある


別れは、あっさりとしたものだった。



ラソロとよくと遠出していたから慣れているのかもしれない。

「お前はまだ子供なのだから、他の種族に合わせて早過ぎる結婚はしない様にな」

(ラソロとジェファさんが三百歳超えているのに、まだ結婚してないということは、結婚適齢期はその先ということか?あとには二百年ぐらいあるんですけど、父さん。その辺も考えて相手を選べということか)


「どんな人でもあなたが選んできた子ですもの。私たちは賛成するわ」

(女の子を連れてくるとは100%思ってない顔だな、母さん。でも、俺には男と恋愛は無理なんで)


「定期的に手紙を出すようにしろよ。たまには帰って顔を見せろ。一人になるからって稽古も勉強もサボるな」

(むしろ学校に行くんだから勉強が主ですよね、はいはい)

オードとグウスとラソロケニージノリがそれぞれ別れの挨拶を軽くすませると、最後にオードが学校長をしている友人に代わりに謝っておいてくれと言った。


「では、いってきます」

「いってらっしゃい」






「この森をまっすぐ抜けると向こう側に山があって、その先に人の町があるのだよ」

「へー」

エルフはちっちゃい頃聞いたラソロの話を思い出していた。


森を何十日も進み、山を登っていた。

「山っていうからハイキングな気分で来たけど、なんじゃこりゃ。アルプスも真っ青の山脈じゃん」


山のふもとで狩ったモンスターの白い毛皮に身を包み、雪の残る岩山を登っていた。

「ここが何処なのかさえわからん。星の位置で方角が何とか確認できるだけだし。とにかく頂上に登ってみるしかないか」


観光のために整備されるどころか、百年以上人間が踏み入っていない。もちろん山道や山小屋はなく、地図すらない。遭難しても救助は来ない。

テントが張れそうな場所を見つけたら早めに休むようにしていた。明かり、暖を取るための火、飲み水が魔法で出せる。そうでなければとっくに死んでいたことだろう。


今日もテントを張り終えた時だった。

岩と岩とがぶつかり合う、雷の夜みたいな音が響いた。

魔法の火を消し、荷物をまとめ、あたりの様子を探った。


遠くの峰に巨人が立っていた。

周りに比較できる物がないため大きさははっきりしない。だが、あれほどの音を起こせるだけの力があるのだ。巨大に違いない。

巨人は岩でできていて、雪山を殴っているように見えた。

(氷の塊を壊しているのか?いや!違う)


雪山に見えた氷の塊が動いたのだ。氷の怪獣は体の形はゴリラに近いが、頭は鰐の様で歪な氷柱の牙が並んでいる。

お互いの攻撃がお互いの硬い体を砕き、その破片を撒き散らしている。

まだまだ勝負は着きそうにない。

「こっちの様子なんて全然気にしてないみたいだけれど、下手に注意を引くことは避けた方がいいな」


山と見紛う怪物に戦いを挑むことは馬鹿のすることだ。先に進むのならば、それらを避ける様に登るべきだろう。

だが、エルフはそうしなかった。

「食糧にはまだまだ余裕があるな。テントも張ってある」


戦うことも、逃げることもしなかったエルフは、ただ待ったのである。


戦いはまだ始まったばかり、巨体同士の戦いでお互いに決め手がなく、長期戦になる予測が立つのに。

生まれ変わって百年以上が経ち、考え方も森の民に染まってきている。

結局戦いが終わったのは十四日後の夜のことだった。

永い時を生きる種族にとってそれは長いのだろうか、短いのだろうか。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ