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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第五節 分岐点

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気になる事

 ガーンズリンドにある商館。

 そこの豪奢に飾り付けられた部屋には二十代後半の男性が一人、机に向かい筆を動かしていた。


 部屋とは反対に少し落ち着いた青系の服を着こなす彼の名前はパブロット・ワイハント。

 セントリア王国内で知らぬ者はいないと言われるほどの商会、ワイハント商会の代表である。


 パブロットはようやく片付いた書類の束を処理し終え、少し冷めてしまった紅茶を飲んだ。

 体の力を緩めるように息を吐くと柱時計へと視線を移す。


(そろそろ夕食か……)


 時間を確認して我ながらよく夕食前に片付けられたものだと紙の山を一瞥して、背伸びをしていると扉をノックする音が響く。


「入れ」


「はい。失礼します」


 その声と共に一人の男性が入ってくると一礼して報告を上げる。


「彼らが逃げ出したウージャを捕らえたそうです」


 その報告を聞き、パブロットは目を見開いた。

 ウージャの足の速さや警戒心の高さは商品として扱っているためよく知っている。


 彼らの報告を聞く限りでは最低でも一週間はかかると思い、取り引きが遅れる旨の手紙も先ほど書いたばかりだ。


 しかし、現実は違い。すでに捕まえてしまったらしい。

 少し驚いたように「ほう」と声を漏らして無精髭を撫でるとその男性に告げる。


「わかった。それで、ウージャは?」


「今、小屋に繋いだところです。確認なさいますか?」


「いや、いい。それよりも、彼らと話したい」


「わかりました。では、また応接室の方へ?」


「ああ、茶と報酬も頼むよ」


 パブロットが伝えると報告した男性は一礼すると部屋から出て行った。


「やはり、私の見立てに間違いはなかったか……」

 

 最初は珍しい奴隷を見つけ、それが気になり持ち主から本気で買い取ろうと思っていた。

 本当にそれだけ声をかけた。


 だが、彼は首を横に振った。

 言い値で買うと言っても首を縦に振ることはなかった。


 自分を知らないような感じではあったが、それにしても始めての相手に臆する様子を見せることなく、ライトは自分に言葉を返してみせた。


 それから彼が南副都で白い化け物を倒した者である、ということを知ったことでさらに興味が湧いた。


 翌日依頼を出すついでに彼らにまた出会えるかもしれないと思い、自分もギルドへと向かってみればちょうど良く彼らがいた。


 そのため、直接声をかけ依頼をしてみた。


 噂通りの実力があるのかどうかを見てみたい、という思惑からの行動だったが彼らならば問題なく応えてくれると思っていた。


 しかし、まさかここまでとは思っていなかった。


 思い出すのは初めて会った時の彼の言葉。


『……“彼女”は俺の奴隷だ』


 それを思い出し、ふっと表情を緩める。


(奴隷を人のように扱う人間がいるとはね……)


 それだけでもかなりの変わり者だ。

 しかも口だけではなく、噂通りの実力は十分にある。

 そんな彼がどんな人生を送ってきたのか少し興味が湧いていた。


 なぜ、奴隷を人として見る事ができるのか。

 なぜ、そこまでの実力がありながらも旅などをしているのか。


「ふむ、そうだ」


 パブロットは何か思いついたように椅子から立ち上がるとそのまその執務室から出る。

 向かう先はライトたちが待っているであろう応接室。その顔はどこか楽しそうであった。


◇◇◇


 ライトたちが応接室に通されて五分ほど経ち、パブロットが部屋に入ってきた。

 彼が座ってすぐにそれぞれの前に紅茶が置かれる。


「いや〜、まさかここまで早く解決してくれるとは思ってなかったよ。さすがだね」


「偶然ですよ。運良く上手くいっただけです」


「いやいや、その運を掴むまでの努力がなければ運など掴めんよ」


 パブロットはライトの謙遜の言葉を軽くそう言い返しながら部下に報酬を渡すように視線で告げる。


 男性は頷くとテーブルに小袋を置いた。

 それをパブロットがライトの方へと差し出す。


 ライトは受け取り中身を確認、たしかに報酬である三十万G(ガルド)があることを確認するとデフェットに渡した。


「たしかに受け取りました」


 これでパブロットとの契約は終わった。

 そう思い、礼と別れの言葉を言おうとライトは口を開こうとしたが彼の手で止められた。


「少し、追加で依頼をしたいのだが、いいかな?」


「依頼、ですか?」


「ああ、簡単なことだよ。私と君の二人だけで釣りをしに行かないかい?」


 にっこりと笑顔を浮かべてそれを告げたパブロットにライトは眉をひそめる。


 意味がわからなかった。


 護衛が欲しいのか。とも一瞬思ったがそれならば今も彼の後ろにいま控えている者たちにやらせれば良い話だ。


 たった一人に頼むものでない。

 それをパブロットの後ろに立つ二人の男性も思ったらしく、ライトと同じように眉をひそめ、首を傾げている。


「あの……なぜ、私だけ、何でしょうか?」


 なぜ、わざわざ“依頼”として出会って間もない自分に頼んでくるのかがライトにはわからない。


 疑問符を浮かべながら問われたパブロットはどこか気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。


「いや〜、君に興味が湧いてね。単純に話がしたい。と思っただけだよ」


 それが理由にならないか。と視線で問うパブロットにライトは少しの間、無言となった。


 彼の狙いは何なのか、自分と話してパブロットに何かしら得があるか。と考えたところでふっと笑みが浮かんだ。


「わかりました。お受けしましょう」


 おそらく彼は損得で自分にこの話を持ちかけてきたのではない。

 純粋に興味を持った。だから自分と話したくて二人になれる場所が欲しいのだ。


 パブロットがそうであるようにライトも彼に興味がある。


 商人からして今のこの世界はどのように見えるのか、かなり気になっていた。


 ウィンリィは弱者が切り捨てられる世界だと言い、デフェットは集団との足並みが揃わなければ捨てられる世界だと己の身で示した。


 他の者にも聞くことはせずとも見てきたが、皆が同じ世界で過ごしていながら違う世界を見ていた。


 ライトが旅をしている理由は自分の世界を広げるためだ。

 彼の誘いはまさにそれに合うことだろう。


 パブロットはまるでライトがそう答えるのを知っていたかのように微笑むと返した。


「ありがとう。詳しくは明日にでも話そう。それで構わないかな?」


「はい。わかりました。では、また明日に」


「ああ、また」


◇◇◇


 ライトたちは途中で夕食をとり、宿へと向かって夜道を歩いていた。

 十月も終わりかけという時期もあるが海辺ということもあり、顔に当たる風は冷たい。


 全員が揃ってマントで体を覆って少し早歩きで宿へと向かう。


 そんな時、ウィンリィの足が止まりある方向へと向けられた。

 それに気がついたライトが振り向いて聞く。


「どうした?」


「……いや、なんでもない」


 ウィンリィはそう答えたが明らかに顔は「なんでもない」といった感じではない。


 このガーンズリンドに来て三日。

 いや、それよりも前にからウィンリィは決まって夜になると同じ方向へと顔を向けていた。


 その方向にあるのは東副都トイスト。


 その事について何度か聞こうとしたが、なんとなくそのことは彼女の触れてはいけないと思った。

 だから、今まで聞くことはなかったがさすがに何度も見れば聞かずにはいられない。


「東副都に、何かあるのか?」


「……それに、私は何か答えないとダメか?」


 ライトとウィンリィとの間に沈黙が訪れた。

 デフェットはそんな二人の間に入る気は無いらしく、目を閉じて彼らが歩き出すのを待っている。


 海からの冷たい風を受け、三人の髪とマントが揺れた。

 先に口を開いたのはライト。


「……いや、いい」


 本当は良くはない。


 先程の答えは暗に「何かある」と答えているのと同じだ。それが一体何なのかを言って欲しい。

 しかし、本人はそれを望んではいない。


 ならば、無理に聞き出すようなことはしたくない。


「そうか……なら、早く宿に行こう。流石に夜は寒い」


 そう言うとウィンリィは宿へと向かい歩き始めた。

 ライトは一度夜空を見上げて息を吐くとその背中を追って宿へと向かう。


◇◇◇


 ライトたちは夕食を済ませると体を拭くことにした。


 宿の大浴場に行く、という手もあるがそこはデフェットのような奴隷が入れる浴場がなかった。


 一級奴隷ならば待遇がマシになる場所が多いがここは普通の宿だ。


 南副都にあったような大きな銭湯であれば奴隷用の浴場があるのだが、普通はない。

 そもそも宿に浴場があること自体が珍しい。


 ガーンズリンドにも大きな銭湯があるのだが、今泊まっている宿から少し歩く必要がある。


 初日にそのことがわかったライトは宿を変えようとしたがデフェットがそれに反対した。

 曰く「わざわざ奴隷のために宿を変える主人など居ない」とのことである。


 彼女のその剣幕に半ば押され、ライトは今の宿に留まることにした。


 そのため、体の汚れは濡れタオルで拭き取る事になる。


 ちなみにだが、ライト本人の強い要望により、男女で分かれることになったため、部屋にいるのはウィンリィとデフェットの二人だけだ。


 デフェットはウィンリィの背中を拭きながら小さな声で切り出す。


「ウィン殿。主人殿に踏み込まれたくないのであれば、気をつけた方が良い」


 それはこのガーンズリンドに到着してから、正確には東副都に向かっている時からのことを含めての言葉だ。


 東副都トイストはウィンリィにとっての全ての始まりの場所。因縁しかないような場所だ。


 そんな場所に向かっている、近くにいるというのに「いつも通りでいろ」ということが酷なことはデフェットでも察せる。


 だが、ここ数日はそれが露骨に現れている。ライトが気にして聞いてくるのも当然だろう。


「わかってる。けど、な」


 ウィンリィ自身も自覚があるようだが、どうにも出来ない。というのが彼女の本音だ。


 これから自分が言う言葉はそんな彼女を追い込むかもしれない。


 だが、ウィンリィの過去を知るのは今この場にいるデフェットだけだ。

 だからこそ言わなければならない。


「背負うと決めたのならばそれを続けなければならない。

 背負わせたくないと思うのであれば、それを表に出さぬように気をつけるべきだ」


 ウィンリィにとってそれは突き放すような言葉かもしれない。

 デフェットに背を向けているため彼女の顔は伺えない。しかし、言葉による答えは帰ってきた。


「その言葉を聞いて少し安心したよ。

 あいつにこっそり話してたんじゃないかって少し疑ってたからな」


 その声音はいつものそれと変わらない。

 その変わらない声音が今のデフェットには心配でしかなかった。


◇◇◇


 ウィンリィとデフェットが体を拭くまで待っている間、ライトは壁に体重を預けて物思いにふけっていた。


 考えることなどウィンリィのことだ。


 彼女と東副都トイストになんらかの因縁があるのは明らかだ。

 それを隠しているというのもライトは察していた。


 東副都トイストは西副都ウイストと似たような場所。

 だが、今は魔王に占拠された隣国カルトレント、港町であるガーンズリンドから近いと言うこともあり貿易の都、として発展しているらしい場所。


「……なにがあるんだ? あの場所に」


 ポツリとこぼされた言葉に答えるように頭に声が響く。


『そんなに気になるなら本人に聞けばいいじゃない?

 ねぇ?黒鉄』


『ああ、そうだね。白銀。

 もしくはきれいに忘れるか……そのどちらかじゃないかな?』


 実際に聞いたが明らかに「踏み込むな」と言う感じだった。

 あのような態度を取られるとむしろ気になってしまい、黒鉄の言う通りに忘れることなどできない。


 小さく息をこぼし、白銀と黒鉄へと確認するように問いかける。


(なぁ、二人とも、俺って……かなり面倒くさい性格してる?)


『あら、自覚してたのね』


『君ほど面倒な性格をしている人間はそうはいないと思うよ』


 ライトは辛辣なその二つの言葉に肩を落とし、再びため息をこぼした。

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