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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第五節 分岐点

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変わったもの

 盗賊の活動範囲を大まかに聞いたライトたちは早速行動に移していた。

 聞いたそれらからを元にいくつか住処に目星を付けていたその場所。


「あれか……」


 そこは丘陵地帯にある小さな窪地だ。

 キャンプ地を作っているようでテントと小さな穴があり、そこの前に四人の男性がいる。


 揃いのスカーフを腕に巻いているのはパブロットから聞いた特徴と一致している。おそらく彼らが件の盗賊だろう。


 それを確認し、ライトがルマク・ボウガンを取り出し、構える。


 本来ならば届かないが、魔術で強化すれば十分に届く距離だ。

 それを唱えてトリガーを引いて当たれば最低でもダメージを与えられる。運が良ければ一撃で殺せるかもしれない。


(あんたたちが、あんたたちが何もしなければ、人を襲わなければ……)


 ライトは一度目を閉じ、深呼吸をすると開いて二人に指示を出す。


「俺が撃ったら二人で両側から挟み込むように突撃開始。もう二発撃ったら俺も前に出る」


「……わかった」


「了解」


 二人はライトをリラックスさせるように肩を叩き微笑んだ。

 それに答えるように頷き、ライトは叫ぶ。


「ストライク・エア!」


 マナと魔力を纏った杭は一人の盗賊の体に命中。しかも、ちょうど内臓を傷つけたらしく血を吐いて倒れた。


 それに慌てて駆け寄るがすぐに自分たちの方へと近づくウィンリィとデフェットに気がついたらしい。

 すぐさま一人がウィンリィへと弓を構える。


 だが、それはライトの次弾よりも遅い。

 次に放った一撃は弓を構えていた者の左胸に命中。


 彼もまた殺すまではできてはいないが、弓を構えて射る事はほぼ行動不能だろう。


 最後の一発は誰にも当たらず地面に穴を開けただけだった。

 それを確認してライトは剣を抜き、前進。


 ライトが狙わなかった二人にはそれぞれウィンリィとデフェットが当たっている。そのため、ライトがすることは一つ。


(トドメを刺す!)


 ライトは飛び上がり、弓を持っていた盗賊の首に剣を突き刺した。

 声を上げることもなくその盗賊はピクピクと体を痙攣させ息を無くした。


(せめて、一息に!)


 次に初撃を当てた盗賊の頭へとルマク・ボウガンの先を向ける。


「や、やめ……ろ。やめて、ください……」


 向けられた盗賊は息も絶え絶えに、痛みで涙を流しながらライトを見上げた。


 自分ならばその傷を簡単に治し、見逃すことはできる。

 当然、ここでその頭を撃ち抜くことも。


 どちらもできる。だが––––


「あんたはそう言った人を、その人の命を助けたのか?」


 ライトのその問いにその男性は一瞬目を逸らしたかと思うと肯定するように頷いた。


「わかった」


 ルマクボウガンを男性から外す。

 それに安心したように表情を和らげたがその胸、心臓に剣が突き刺された。


 男性は目を見開きライトへと手を伸ばし何かを言おうと口をパクパクと動かしている。

 さらに放たれた一撃の杭がその男性の頭を撃ち抜いた。


 彼が伸ばした手はライトへと届くことはなく、地面に落ちると全身から力が消えた。


「嘘が下手だよ……」


 ポツリと呟くと喉に刺した剣を引き抜き、刃に着いた血を払い飛ばし、鞘に戻して息を吐く。


(……殺せたな、俺)


 それも、思いのほか簡単に。


『殺せたわね』


『お見事』


 ライトの心の中のつぶやきに対し、白銀と黒鉄は言った。


 それは批判しているわけでもない。褒めているのでもない。

 ただ、そのことが当然だとでも言うような声音だった。


(もう、俺は殺せるんだな……人を)


 この世界に転生してすぐの頃、ゴブリンやオークの集団と戦闘しているうちに切る感覚に慣れ、むしろ楽しめるほどにまでなってしまっていた。


 それと同じようにシリアルキラーを殺したことをきっかけに、人を切ることにもためらいを感じ無くなってしまったのだろう。


 もしかするとそのうち、人を切ることすらも楽しめるようになってしまうのだろうか。


 そんな疑問と自分の何かがたしかに変わってしまった感覚を得ていると、盗賊のテントを探っていたデフェットとウィンリィが声をかけてきた。


「調べた限りだけ四人だけのようだ」


「めぼしいのは見繕ったから。ライト、そのマントに入れといてくれ」


「あ、ああ。わかった」


 答えてウィンリィがひとまとめにおいてあるそれらをマントの中へと放り込んでいく。

 そうしていると後ろから声をかけられた。


「大丈夫か?」


 声的に誰かは感知していたが振り向く。


 その先にいたのはウィンリィだ。

 殺すことに戸惑いがまだ残っていたのを見抜いていたらしい。


 その後ろにはデフェットもいて、同じような顔で見ていた。


「ああ、大丈夫……だよ」


 ウィンリィが見繕ったそれを全て終い終え、並べられた死体を見てライトは聞く。


「これは、どうするんだ?」


「そのままにしとく。ほっとけば獣が食うし土に還る。他に何かする必要はないさ」


「そうか……」


 元の世界では火葬が基本、土葬もあるらしいが人間の死体をこのように放置するのは違和感のようなものを感じる。


 しかし、よくよく自然の摂理を考えれば人間も同じ動物、そのような扱いなのは当然かもしれない。


「次はウージャ探しか……」


「探すって言ってもなぁ」


 ウージャの特徴はウィンリィから聞いている。

 だが、辺りを見回してもなだらかな丘陵に平原が広がっているだけで大型の動物は見ていない。


 探すにしても何かしらの手がかり、もしくは何かしら引き寄せる方法でもないだろうか。


 三人は全力で知恵を凝らすが妙案は浮かんでこない。

 そんな沈黙の中で口を開いたのはウィンリィだ。


「とりあえず盗賊は討伐したし、それを報こ……」


 しかし、彼女の言葉はそこで止まった。


「む?どうかしたかウィンど……の」


 そしてウィンリィの視線を追ったデフェットも言葉を止めた。


 急に無言になった二人を不思議に思い、ライトも顔を上げる。


「どうしたんだよ。二人とも……って」


 彼ら三人の視線の先には馬のような体に柔らかそうな体毛を生やしている獣が草を食べていた。


「「「居たあああああッッ!!!!」」」


 三人同時に叫んだせいかウージャはビクッと驚いたように顔を上げ、ライトたちを見たかと思うと逃げ出した。


「マーシャルエンチャント!」


「クラフェット!」


 ライトとデフェットは叫ぶと走り出した。

 しかし、それでも元々の距離があったせいかなかなか縮まらない。


「魔術で強化されてるんだぞ!なんで追いつけないんだよ!」


「主人殿!下手に追い続けてもダメだ。挟み撃ちで!」


「わかった!ライトニング・ムーブ!」


 二人は短く言葉を交わすと二手に分かれ、ライトはライトニング・ムーブで加速し、ウージャの前へと跳び出した。


 デフェットはそのままウージャをライトの方へと追い詰めながら距離を詰めていく。


 左右のどちらかに逃げるはずと思い、ライトは両手を広げて腰を落とす。

 だが、おかしい、曲がるにしては速度が一切落ちていない。それどころかむしろ上げている。


(ッ!?まさか!!)


 ライトがそう思った時にはウージャは自分の頭上を跳び越え、走り去っていた。


 その姿を呆然と見ながらライトは腰を下ろす。

 そんな彼の元にデフェットも合流し、同じようにウージャを見る。


「あれ……追いかけてもダメだな」


「ああ、何かしら策を練る必要があるな」


 二人は揃ってため息をついて空を見上げた。


「っていうかなんであいつ魔術使ってる俺たちよりも速いんだよ……ほんとに……」


 魔術を使った彼らの体はたしかに強化され、常人ではありえない速度を出せている。

 しかし、なぜかウージャはそれを上回る速度で走り去ってしまった。


「ウージャの革と毛だよ。あれは自然と空気中のマナを魔力に変える。

 まぁ、量はかなり少ないけど、走ることに特化すれば結構長い間使えるらしいぞ」


 ボヤいたライトに答えたのはいつの間にか追いついて来ていたウィンリィだ。

 立ち上がりながらライトは確認を取るように彼女に聞き返す。


「革と毛に?」


「ああ、だから服として作れば魔術的な効果の補助ができる、らしい。私も話を聞いただけで実物見たことないからわからないけどな」


 毛の肌触りの良さもあるが特にその革はそのような能力を持つことがウージャが高値で取引されている理由だ。


 ともかくとして逃したのは事実。だが、盗賊団は崩壊させた。

 ひとまずはこのことをパブロットに報告するべきだろう。


「とりあえず、戻るか」


「そうだなぁ……とりあえず作戦も練らないといけないし」


「主人殿とウィン殿が言うのであればそれに従おう」


 満場一致で彼らは一度ガーンズリンドに戻ることにした。


◇◇◇


「やっぱりウージャはそう簡単に捕まえられないかぁ……」


「すみません……」


 ライトたちはワイハント商会本部の応接室でパブロットに盗賊団は壊滅させたこと、ウージャは逃してしまったことを報告していた。

 変わらずパブロットの後ろ左右には護衛であろう男性が立っている。


「いや、謝ることではないよ。ともかく目下の脅威は盗賊の方だったからね」


 パブロットが視線で指示を出すと彼らの前に小袋が置かれた。

 おそらく中には盗賊団を討伐した報酬である五万G(ガルド)が入っているだろう。


「ひとまずはありがとう。それが報酬だ。受け取ってくれ」


「はい」


 ライトは念のため中を確認して5万Gあることを確認すると後ろに控えていたデフェットにそれを持たせた。


「では、次はウージャか……」


「ボウガンを持っているのでそれで麻痺させる、などは?」


「可能であればあまり傷はつけないで欲しいかな。多少ならばいいがそれだと確実に穴が開く」


 それもそうだ。

 ウージャは革のために育てているのだ。いくら捕まえるためといえその革を傷つけるわけにはいかない。


 ライトは少し考え込んでいたが何か思いついたのか「あっ」とした表情を浮かべたかと思うとパブロットに聞く。


「網を貸していただけますか?」


「網?別に構わないが、漁でもするつもりかい?」


 ここは貿易港でもあり、港町でもある。

 商会であれば当然ながら漁で使う網も取り扱ってはいる。


「まぁ、似たような感じです」


 ライトは微笑み頷いた。


◇◇◇


 ワイハント商会の本部から出てきたライトの手には網がある。

 一人でも扱えるサイズであるためあまり大きくはない、なんの変哲も無い漁で使うような網だ。


「もしかして、その網で捕まえるとか言いださないよな?」


「正解って言ったら?」


「はぁ!?」


 ウィンリィの驚愕の声を聞くとライトはそんな彼女を落ち着かせるように軽い調子で言う。


「簡単だよ。一人が網持って構えて二人でそこに追い込んで捕まえる。それが少なくとも一番革に傷は付かないはずだ」


「……ちなみに、その網ってもしかして」


「うん。ウィン、頼める?」


 少なくともウージャを追うには魔術での身体強化は必須。そしてそれができるのはライトとデフェットだ。

 残るのはウィンリィしかいない。


 おそらく彼女もその結論にたどり着いているらしく、反論の言葉は出てこない。

 代わりに少しため息をついた。


「……わかった。でも一日だけ時間をくれ。練習をしたい」


「もちろん」


「ちなみに、仮想ターゲットはライトな」


「え?」


 疑問の声を反射的に漏らしたがウィンリィは当然だろ?と言う顔で告げる。


「そりゃ、発案者が一番協力するべきだろう」


「うむ。私も同意見だ」


「ちょっ!デフェまで!?」


 そうして、彼らはウージャ捕獲のために一日を使った。

 その間にライトが擦り傷だらけになったり、網の塊をそのまま受けて悶絶したりしたのは当然のことだろう。


 そんな出来事を経て、彼らは翌日の夕方にウージャを無事に捕らえることに成功するのだった。

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