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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第四節 シリアルキラー

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陽光を掲げる者

 ウィンリィとデフェット、そして、自分を守ると手を挙げた騎士たち。

 その頼もしい背中を見つめていると頭に声が響いた。


『それじゃ、さっさとガラディーンにさせてちょうだい』


『そうそう。まずはそこからだ』


(わかってる)


 短く答えると詠唱を唱えて白銀と黒鉄をガラディーンへと変化させた。


 金色の刃が夜の街の中でもはっきりと光を放っている。


 その輝きに騎士たちが感嘆の声を上げる中でライトはそれを両手でしっかりと握りしめ切っ先を天へと向けた。


『目を閉じてゆっくり深呼吸……』


『ゆっくりと吸ったものが体の中を走るイメージだ。

 わかるね?』


 ライトは答えずにゆっくりと深い呼吸を繰り返す。


 全身に吸ったものを行き渡らせるように、戻ってきたものをゆっくりと外へ吐き出し、再び吸い込む。


 気持ちが落ち着き、力が少し抜けるがガラディーンはしっかりと握りしめたままだ。


『それじゃ、魔力、いただくわよ』


『ちょっと驚くかもだけどその呼吸を続けて』


 わかったと答える前に一瞬、意識が眩んだ。


(う、あぁ……)


 作った魔力が意識と共に一気にガラディーンに吸われていく感覚。


 深く息を吸いマナを取り込む。

 そして、心臓の心拍と共に作り出される魔力が全身を駆け巡る。


 全身を走った魔力はすぐさまガラディーンが吸い尽くす。


 視覚を遮断し、聴覚を遮断、味覚も嗅覚、触覚の全てを遮断して魔力の生成のみに意識を向ける。


 周りは心配ではない。

 騎士たちが盾となり剣となってくれるのだ。


 心配する必要などどこにあろうか。


『……そう、その調子』


『そのまま続けて……』


 白銀と黒鉄の言葉を意識半ばに受け取るライト。


 深呼吸を続けるがそれで気持ちが落ち着いたり、リラックスするようなことはない。


 それどころかむしろどんどん心拍数は上がる。


 彼は認識出来ていないが全身から汗が吹き出て、手汗で滑りそうになるガラディーンを無意識に強く握り直した。


 そんな中で集中し続けるライトの周りには異変が起こり始めていた。


「な、なんだ……?」


「わ、わからない」


 ライトを守るためにシリアルキラーの個体群と戦闘をしていた騎士たちが起きた異変に声を漏らす。


 ライトを中心に地面に光が広がり、そこから浮かぶ光の粒子が空へと浮かび、夜の闇に溶ける。


 力強い光はあらゆる物を討ち滅ぼす力を持ち、しかしながら、優しく地を照らす光でもある。


 その光は見るものに太陽を連想させた。


◇◇◇


 その光は少し離れた場所からでも確認できた。

 ライトの作戦を戦場で戦う者たちへと伝えていたウィンリィとデフェットがそれを見て呟く。


「ウィン殿。あの光は……主人殿が?」


「ああ。でも、あそこまでの光……見たことがない」


「あれが、あんたらの切り札か」


 反発を受けると思っていたが、彼らも頼れる者には全力で頼る主義なのか、はたまたバカらしいと吐き捨てる余裕もないのか、素直に聞いてくれる者ばかりであった。


 しかし、やはり少しは半信半疑だったらしい者がポツリと呟く。


「わかった。全面的に信じてやるよ。他の奴らにも可能な限り伝えよう」


「すまないが頼む」


「合図は光の柱、でいいんだな?」


 ウィンリィは言うとデフェットに抱えられて再び移動を始めた。


「何が何だかよくわからんが……あと少しだ!

 ここまできて死ぬんじゃねぇぞ!!」


「「「おおおおお!!!!」」」


◇◇◇


 ライトとガラディーンが放つ光は城からでも確認できた。


「あの光は……!?」


 ポーラはその光を凝視する。


 その光が魔術を原因とするものだというのはなんとなく察せる。


 太陽を思わせる力強い光。

 その光が見えた瞬間、たしかに身に受ける風が変わった。


「ポーラ様。準備が整いました」


「え、ええ……わかり、ました」


 そうは言うが彼女はその場から動こうとしない。


 その光をじっと見つめている。


(なぜでしょう……あの光を見ていると––––)


 不思議と安心する。


 大丈夫だと思えてしまう。


◇◇◇


 ライトを中心に広がる光はさらに大きくなり、強く光を放つ。


 しかし、やはり刺々しいものは感じられない。

 むしろ包み込むような謎の安心感が広がる。


 ガラディーンから光の柱が天を穿つように高く、高く伸び始めたそれはあっという間に月の隣に並んだ。


 まるで、絶望を消し去るように。


 闇に迷う者たちへの道標のように。


 月よりも数段強い光を放つ柱が夜の闇を照らす。


 それを見た者たちはすぐさま戦闘を中断、大通りから撤退を始めた。


 話を聞いていなかった者たちも何かを感じたのか、周りに続くように下がっていく。

 それはライトを守っていた騎士たちもまた同じですぐさまライトの後ろへと下がった。


『さぁ、準備は完了よ』


『目を開けて、狙いを定めるんだ』


 二つの声に従い、ライトは目を開いた。


 その目は元の黒から黄金のものへと変わっていた。


 その黄金の眼に映るのは白い巨人、シリアルキラー。


 新たな人類の形。

 ただ、世界を平和にする、と言う想いからたった一人の魔導師が作り上げた存在。


(でも、やっぱり間違えてる)


 誰かに頼ることは間違いではない。


 想いが間違えているのではない。


 ただ、他人の想いを食い潰し、そのままにした。

 そのやり方が間違いなのだ。


 人は想いを胸に秘める。

 その想いは肥大化し、衝突することもある。


 それは分かっている。


 しかし、例え争いを産もうとも、人は誰かの想いを否定してはいけないのだ。


 想いとはその人が生きてきた中で形作るモノ。


 その想いを糧として人は生きる。


 そして、想いを抱き生きるがゆえに、生きているがゆえに常に自分の足元には屍が、誰かの想いが転がることになる。


 その責任から逃げてはいけない。

 立ち向かわなければいけない。


 シリアルキラーと呼ばれる存在はそれが出来ない。


 個ではなく、全であるがゆえに、責任という概念が消えてなくなるからだ。


 自分の行いに、踏み潰してきたものに真摯に向き合えなくなる。


(お前たちの中じゃ、俺は俺の生き方ができない)


 ただ生きるのではない。


 自分の足で歩いて、自分の五感で感じたいのだ。

 知識として処理するのではなく、経験として自分の血肉としたいのだ。


 例え、それがエゴイズムだとしても。


 例え、そのせいで何かを犠牲にすることがあろうとも。


 それが、一度死んでこの新しい世界に転生したライトと呼ばれる存在、神谷光ではできなかった新しい生き方だ。


 ライトはガラディーンを高く掲げる。


 すると光の柱がゆっくりとガラディーンの刃へと集まっていくように縮んでいく。


『『「ガラディーン––––」』』


 その動作と異変から何かを感じたのかシリアルキラーの個体群と本体が彼の方へとゆっくりと向かう。


『『「––––リヒタアァァァァアアッッ!!!」』』


 ライトは高く掲げたそれをシリアルキラーへと向かい振り下ろす。

 その瞬間、ガラディーンから光が伸びる。


 それはもはや柱などではなく、光の波のようであった。


 力強い光の波はシリアルキラーの本体とその個体群を容易に飲み込む。


 個体群は容易に溶けたがシリアルキラーの本体は何か叫びのような音を辺りへと響かせ、その形をまだ保っている。


 その波から逃れようともがくが次第に白い肌が溶け、その皮膚の下にあった肉までもが溶け、さらにその下の骨までも溶け始めた。


 だが、シリアルキラーの自己修復はガラディーンの一撃を耐えようとしている。越えようとしている。


『そんな!?』


『今撃てる最大火力なのに!』


 白銀と黒鉄が言葉を漏らす。


 今彼女らに体があれば歯噛みし、手を握りしめていることだろう。


(まだだ!)


 白銀と黒鉄が諦め始めた中、ライトは心の中で叫ぶ。


 まだ終わっていない、と。


 無から有を作るのは難しい。

 自分の今までの経験ではこの状況を打開するだけの物を無から生み出せない。


 しかし、模倣はできる。


 猿真似と謗られようとも真似だけはできるのだ。


 ライトは覚悟を決めるように強く奥歯を噛み締め、ガラディーンを強く握りしめた。


 それを合図に彼の体から漏れた魔力が黄金の炎のように、彼の体を燃やし尽くすように溢れだす。


『な!?あ、あんた……』


『ど、どこからそんな力を』


 黄金の炎を全身に纏い、体と精神に鞭を打ち、振り下ろしたガラディーンで霞の構えを取ると叫ぶ。


創造(クリエイション)!」


『え?ちょっ!?』


『な、何をするつもり!?』


 白銀と黒鉄の言葉に答えずライトは腰を落とし、太陽の一撃を模したその名を叫ぶ。


「イミテーション・サンシャインッ!!」


 ライトの叫びと共に突き出されたガラディーンから先ほどと似た光が伸びる。


 今度のは光の波ではなく、柱。

 それがシリアルキラーを飲み込み、さらに後ろにあった家々と道路を吹き飛ばした。


 それを受けてなお、シリアルキラーはライトへと歩み寄り、手を伸ばす。


 しかし、その手が届く前に今度こそシリアルキラーの自己修復を上回り、完全に溶かした。


「はぁ……はぁ……」


 ガラディーンを杖のように使い膝をつく。


 その目はすでに金色からいつもの黒へ、体にまとっていた魔力も消えている。


 荒い息を整えるように深呼吸を繰り返すが意識は途切れかかっている。

 シリアルキラーを倒せたかどうかすら彼には分かってはいない。


「ライト!」


「主人殿!」


 聞き慣れたその声を聞くとゆっくりと地面に倒れた。


 指ですら動かせないほどの疲労に対し、彼に抗う術はない。

 言葉は当然ながら思考すらもまともに編めない。


『あんた……よくもまぁあそこまでの無茶をしたわね』


『文字通り、敵は消えた。安心して眠るといい』


 白銀と黒鉄の優しい言葉を受けるとライトは安心したように小さく微笑んだ。


 考えたいことがあるだろうがそれは目を覚ましてからでも遅くない。

 彼女たちは言外にそう告げている。


『『おやすみなさい』』


「お疲れ様、ライト」


「お疲れ様、主人殿」


 白銀と黒鉄、いつの間にか近くにいたウィンリィとデフェットの声を聞きながらライトは意識を手放した。

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