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気付いた罠

 ゴブリンたちが巣食う洞窟前の平野。

 そこにバウラー率いる攻撃部隊と支援部隊の合計40人が展開していた。


 残りの10人は予定通りに予備戦力としてキャンプ地に待機している。


「ふむ。まだ出てきてないな」


 バウラーは目を細めて洞窟付近を見回す。

 ライトもそれに習い同じように洞窟付近に視線を向けた。


 洞窟周辺にはゴブリンやオークの姿は見えず、ただ綺麗な緑の平原が辺りに広がっている。


 そして、その周りは何もないかのように静かだった。


 それはまるで嵐の前の静けさのようにーー。


「寝ているのか。それとも……まぁどちらでもいい。

 魔術師、弓師前へ」


 バウラーの指示に従い魔術師と弓師の10人は少し前に出て、弓師は弓を構える。


「支援魔術、開始」


 その指示に従い魔術師の5人はそれぞれ支援魔術を唱え発動。

 それらの魔術は矢の飛距離や攻撃力をあげるものだ。


 それを受けた矢を弓師は矢筒から取り出し、弓とともに構える。

 狙い定めるのは洞窟の入り口。


 魔術を唱え終えた者たちも杖やアクセサリーなどを構えた。

 狙いは同じく洞窟の入り口。


 バウラーはそれらを確認すると手を高く掲げ、降り下ろしながら静かに、だが力強く言った。


「攻撃開始!」


 それを合図に弓から矢が放たれる音、術を発動させる声が重なり、一斉に矢と光弾が洞窟近くへと飛んでいく。


 それらの攻撃の影響で辺りからは土煙りがもくもくと空に上がっている。


「攻撃はこのまま継続しろ」


 バウラーは言うと洞窟付近に意識を向ける。


「なぁ、ウィン。これは……?」


 ライトは今行っていることの意味がわからず隣にいたウィンに聞く。


「見たまんま拠点攻撃だ。ゴブリンやオークが出てきてないからな。

 出てくるルートを限定、奴らの勢いを落としたところを叩く」


「へぇ~、でも、それで出てくるのか? むしろ引きこもるんじゃ?」


「まぁ、それならそれで出口を塞げばいい。

 大体の場合は馬鹿だから直ぐに出てくるけどな」


 ライトはその話を聞きながら辺りを改めて見回す。


 彼らの現在地はキャンプ地から東に進んだ先にある平野。


 ここから南へ約2キロメートル後方にはこのゴブリンたちの被害を強く受けている村がある。

 その逆の洞窟付近は小高い山があり、近くには似たような洞窟がいくつかあった。


「じゃ、あの洞窟ってなんだ」


 言いながらそのいくつかある洞窟の一つを指差す。


「ああ、あれは盗賊たちが作った穴蔵だよ。5人ぐらいが入れる広さだな」


「あそこは警戒しなくていいのか?」


「別の出入り口を作るかもってか?

 ないない。言ってるだろ?

 あいつらは馬鹿の代名詞みたいなもんだ」


 そう笑いながらウィンリィは言った。

 だが、ライトは少しも笑うことなく冷静に聞く。


「……んじゃ、少し聞きたいけど今までゴブリンとオーク、オーガが集まって一つの場所に居たことってあるのか?」


 それはライトがずっと引っかかっていたことだ。


 よくよく考えみれば本当に馬鹿な者なら他の者と組もうなどと言うことは考えつく筈がない。

 なのに現在では共に行動している。


 ウィンリィもその違和感に気がついた。


 そして、それからまた新たなことに気がつくのにさほどの時間はいらなかった。


「……っ!? まさか!!」


「もしかしたらそうかもしれない」


「オーガが指揮をとるか。なるほどな……」


 ライトは頷いて肯定を表す。


 ゴブリンやオークとは違い。オーガには知能がある。

 その知識は人間には及ばないとライトが読んだ本には書いてあったが知識は高めることが出来る。


 もしそれを考慮してないとしたら––––。


(今までのセオリーが通じないかもしれない)


 ライトはこの気が付いたことをバウラーに告げようとその方向を向き言葉を発する。

 だがその前にバウラーが小さく呟く。


「妙だな……」


 ライトとウィンリィが一つの答えに辿り着くとほぼ同時にバウラーは顎をさする。


「ゴブリンどもが出てこない。もう頃合いなんだが……」


 そのままバウラーは考え込み始めた。


「大丈夫だろ? どうせあいつらが寝てて気が付いてないんだろ?」


「ありえるな! このまま塞いじまおうぜ! あはははっ」


 その笑いが緊張の糸を緩め緩んだ空気が他の者にも伝播していく。

 ほとんどの者が肩の力を抜き武器の構えを解いていた。


 だが、ライト、ウィンリィ、バウラーの3人は少しも笑ってない。

 それよりも一つの予感が確信に変わろうとしていた。


(やっぱり、バウラーはさっき妙だと言った。だとすると……あいつらはどうする?

 いや、もし俺なら––––)


 ライトは攻撃が止まり、土煙が晴れ始めた洞窟に視線を集中させる。


(––––簡単に、なおかつ敵を混乱させる手段をとる!)


 言うのであればその方法は“強襲”と呼ばれるだろう。


 ライトがその考えにたどり着いた瞬間、バウラーの声が空気を震わせた。


「全員! 下がれぇぇ!!」


「「っ!?」」


 バウラーが叫んだ瞬間、自身とライト、ウィンリィは一斉にその場から飛び退く。

 笑いながらも僅かに警戒心が残っていた者たちも彼らに数秒遅れて飛び退いた。


「え?」


「なんだ?」


 最後まで反応できなかったのは最初に笑い声を上げ警戒を解いた者たちだった。


 そして、それは唐突に現れた。


 ボコッと地面が隆起したかと思うと穴が開きそこから濁ったような緑色の手が伸び、それぞれの足首を掴むと地中に引きずり込んだ。


「うっ、うあぁぁぁあ!!」


「や、やめろ。あっ––––」


 その声の直後、何か肉のようなものを潰す音と硬い物を砕くような音が地面にぽっかりと空いた穴から聞こえてきた。


 それと同時に生臭い匂いが穴から漂ってくる。


 そして、その穴から––––


「あれが……」


 ぞろぞろと現れたそれをその場にいた者たちは見た。


「ああ、ゴブリンとオークだ」


 ライト達の前に現れたのはウィンリィが言った通りゴブリンとオークだ。数は合わせて50ほど。


 ゴブリンはぼろ布のようなものを身に纏い、肌は濁った緑色。身長はライトの胸あたりほどだろう。


 オークはイノシシが二足歩行をしているような姿だ。

 手足は太く短い。大きさはゴブリンより頭1つ分大きい程度だ。


 そして、それぞれが持っている棍棒や斧、槍などの武器には赤黒い何かが付着していたり、錆びていたり、明らかに碌な手入れをしていないことがわかる。


「くっ!? こいつらの狙いは––––」


「––––俺たちを油断させることか!」


 敵の張った油断や慢心を逆手に取った罠にようやく気付き、彼らは表情を驚きと恐怖へとさせた。

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