少しの違い
短剣と剣のぶつかり合いが続く。
短剣を持つのはホーリアの助手、ビルツァ。
剣を持ち、それに対峙するのはウィンリィ。
ビルツァが振るう短剣がウィンリィへと迫る。
それを下段からの切り上げで弾き、防ぐ。
僅かに崩れたその腹に蹴りを入れるがすでに後ろに下がり始めていたため、当たりは浅い。
ビルツァは距離が離れるやすぐに腰を軽く落とし、地面を蹴り、滑るようにウィンリィとの距離を詰める。
短剣の刺突。
今度は上半身ではなく下半身、左の太ももを狙ったものだ。
視線からそれを読み取ったウィンリィは右前へと受け身を取るように跳ぶ。
ビルツァの短剣は彼女の靴を少しかすった程度。
攻撃をかわした彼女はすぐに後ろを向きながら剣を振るう。
しかし、その場にすでにビルツァの姿はなく、少し離れた場所へと移動していた。
「あんた、なんであいつに協力しているんだ?」
「あなたに話す理由はありません。
聞きたいのはこちらの方です。
なぜ、あなた達は彼の邪魔をするのですか?」
世界から争いを無くし、差別も無くし、悲しむ者を無くす。
世界は文字通り平等に一つになる。
「それはとても素晴らしい事。それぐらいはあなた方にも理解はできましょう?
なのに、なぜ?」
逆に問われたウィンリィはゆっくりと剣を中段に構える。
視線はビルツァから離すことはない。
しかし、脳内にはスラム街にいた頃の光景がフラッシュバックしていた。
薄暗く、汚れた家や道。
犯罪が横行し、人が平気でのたれ死ぬ。
そして、文字通り身を犠牲にして自分を育ててくれた母親の死。
「ああ、確かに、そんな世界があればさぞかし幸せだろうな」
「なら––––」
「でもな、私は生きたいんだ。
誰かに生かされるなんて子供の時だけで充分だ……」
スラム街にいた幼い自分へと伸ばされたバウラーの手。
それは自分がそうしたいと思ったから手に取った。
誰かにああしろと言われたわけでもない。
バウラーが無理矢理に手を掴んだのではない。
だから、「嫌だ」という一言共に彼の手を払うことだってできた。
その後の一生をどのような最後を迎えるにしろ、母と過ごしたあの場所で過ごし、終えることができた。
しかし、そうはせずバウラーの手を取り、自分は今ここにいる。
「私は私だ!
他の誰にも私の生き方など決めさせるか!」
その言葉はビルツァを怒らせるに十分な者だったらしく声を荒げた。
「ふざけるな!
そんな……そんなエゴイズムのためだけに、一体どれだけの人間が、種族が潰されると思っ––––」
「––––知るか!」
「なっ……!?」
「あいにくと私はそう多くを守れるほど強くはないんでね。
もう無理だと思ったら切り捨てるさ。
私が生きるために、私自身の幸福のためにな」
その言葉が衝撃だったのかビルツァはなにかをボソボソと呟き続けている。
それに構わずウィンリィは続けた。
「あんたもわかってるだろうけど、人はみんな身勝手さ。
でも、だからこそ自分の足で歩いて自分の意思で生きるんだよ」
自分が生きる。
自分が幸せになる。
そのどれもを掴むためには他人を犠牲にする必要性がある。
他人を犠牲にして掴んだものだからこそ、大切にするのだ。
そうやってきたからこそ、自分のやったことの責任は自分で取らなければならないのだ。
「あんたは私のエゴイズムが犠牲の上にあるって言ったな。
でもな、私からしてみればあんたの言うアルトルイズムも犠牲の上にあるものだよ」
ビルツァは奥歯を噛み締め、強く短剣を握りしめる。
そして、落ち着かせるように息を大きく吐き目を鋭くさせてウィンリィを睨みつけた。
「あなたは殺します。
あなたは、シリアルキラーに相応しくない」
「こちらからお断りさせてもらうよ」
互いに言うとほぼ同時に地面を蹴り、それぞれの敵の元へと走る。
先攻はウィンリィだ。
リーチの長さ的にはウィンリィの方が有利、そのリーチ差を生かした上段からの切り下ろし。
ビルツァはそれをヒラリと交わしながら彼女の右後ろへ。
そこで短剣を逆手に持ち替えてウィンリィがいる後ろへと突き出した。
狙いは右の背中。
それを感じるや否やすぐさま左へ軽く跳びながら体を半回転、後ろに回ったビルツァの方を向く。
着地と同時に剣での刺突。
短剣でそれを逸らそうとしたが、ビルツァは逆手持ちだったせいか力があまり込められず、左上腕あたりをかすった。
「くっ!?」
鋭い痛みに声を漏らすビルツァの足を払おうとしたがその足をとっさに上げられた。
そのままバク転されたことでウィンリィの足は空を蹴る。
攻撃をいなしたビルツァはすぐさま後退、距離を取った。
しかし、彼に息をつく暇など与えるつもりはない。
ウィンリィはすぐにその距離を埋め、剣で横薙ぎ。
それは浅く、ビルツァの服の胸辺りを切った程度だ。
「なっ!?」
しかし、驚いたように声を漏らしたのはウィンリィ。
対するビルツァは苦虫を噛み潰したような表情をするとすぐにその胸を隠した。
「あんた……女、だったのか……」
「それが、何か?」
肩で息を繰り返すたびにそこそこ大きいビルツァの胸が膨らみ、縮む。
胸を押さえつけていたのだろう布が彼女の手の隙間からチラリと見えた。
「なんで、隠してた?」
「もう……女としての機能を持たないからですよ」
「だからって……」
「それに、男を演じていた方が利点が多いものでね!」
ビルツァは胸から手を離し、ウィンリィの元へと走る。
短剣は順手に持ち替え、それを突き出した。
しかし、彼女は多少なりとも動揺しているのか動きが少し硬い。
「甘い!」
ウィンリィはその短剣を正確に狙い、高く弾き上げるのと同時、そのままビルツァの足を払った。
ビルツァはその勢いのままうつ伏せで地面に倒れた。
すぐに立ち上がろうとしたが、背中をウィンリィの足で抑えられているため出来ない。
少し離れたところで短剣が落ちたが、それを気にせずにウィンリィが口を開く。
「投降しろ」
「投降したところでどうせ殺される。
殺すのならば殺して下さいよ。あなた方は切り捨てるのでしょう?」
たしかにここで生かしたところで彼女がしたことは覆らない。
そもそも被害者の家族たちが許しはしないだろう。
言われたウィンリィは何も答えずに剣の切っ先をビルツァの首へと向けた。
「……最後に、いくつか良いか?」
「……なんでしょう」
「あんたはスラム出身か?」
その問いにゆっくりと彼女は頷く。
そのことを思い出しているのか目には涙が浮かび、口はキツく結ばれている。
「……そこで、ホーリアに出会ったのか?」
それに対して彼女はまた頷く。
その事を思い出しているのか目に涙は浮かんでいるが表情は緩んでいた。
彼女の脳裏に今どんな記憶が浮かんでいるのかはわからない。
彼女がどのような生い立ちなのかもわからない。
「そうか……」
ただ、彼女は自分と同じだった。
スラムで育ち、そこから拾われて育った。
拾った者が違うと言うだけで、彼女もまた選んでいたのだ。
自分がどう生きるか、誰と共に行くかをビルツァも自身で決めていた。
自分が何かの犠牲の上にあることに気がつかなかった。
その犠牲の責任を取らなければならない。
そのことに彼女は最後まで気がつかなかった。
ウィンリィとビルツァの明確な違いはそこだけだ。
「あんたとは、出会う時が違ったら友人になれてたかもな」
小さく呟いてその首へと一思いに切っ先を下ろし突き刺した。
それを抜き取ると痙攣しながらその首から血を吹き出させる。
それを見ながら重い息を吐いたところだった。
「ウィン!大丈……夫、みたいだな」
「ライト!お前……」
声をかけてきたライトへとウィンリィは近く。
辺りを見回してデフェットがいないことに気がついたが先回りでライトが答える。
「ああ、デフェならホーリアの方に向かわせたよ」
「そうか……なら、私たちも行くぞ」
「え?で、でもウィンは戦闘で……」
「さっきまで使いものにならなかった奴がよく言う」
ジト目で非難するウィンリィにライトは気まずそうに視線をそらした。
それを見て肩をすくめるとライトの頭をポンポンと軽く叩く。
「サボってた分働けよ?」
「当然」
短く答えてウィンリィを抱き上げるとライトはライトニングムーブを唱えてデフェットが向かった方へと走り出した。




