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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第四節 シリアルキラー

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シリアルキラー

 それを見た瞬間、ライトは地面を蹴った。


 マントに手を突っ込み、白銀と黒鉄を取り出し、一直線にホーリアへと向かう。


 彼の目の前まで来ると一息に白銀を振り下ろした。


 その攻撃はビルツァが投げてきた短剣によりわずかに軌道が逸れたため、ホーリアに当たることはなかった。

 かわりに床に刃が当たる「カンッ」という甲高い音を鳴らした。


 ライトは攻撃の失敗を悟ると軽く後ろに跳び、後退して怒りを露わにさせなごら叫ぶ。


「あんたは! あんたはッ!!

 死者の想いまで愚弄するか!」


「何を言っているんですか? 死んでいませんよ。

 彼はシリアルキラーの中で生きています。

 かつての仲間たちと、友人たちと、共に……ね」


「そんな戯言を!!」


 叫び、走り出したのはウィンリィだ。


 腰の剣を抜き取り、走るがその前に短剣を構えたビルツァが現れ、立ち塞がる。


「どけ!」


「お断りします」


 ウィンリィの怒気を含んだ言葉にビルツァは端的に答えると短剣を順手に持ち、迫る。


 突き出されたその短剣を剣の腹で受け止め、向け流しながら足を引っ掛ける。


 ビルツァは見事にそれに引っかかり、前へと大きく姿勢を崩す。

 だが、軽い身のこなしで受け身を取りながら前転、すぐに立ち上がった。


『あんたも! なにボサッとしてんの!』


『まだあれは目覚めてはない。

 今の内に焼き尽くすべきだ!』


(わかってる!)


 そう答えるとデフェットへと指示を飛ばす。


「デフェ! ホーリアを!!」


 デフェットは短く答えてホーリアへと向かい走り出した。

 それと同時にライトは詠唱を開始。


「我が身は太陽の移し身、その()は炎を纏い、光を纏う––––」


 その言葉を口ずさみながら白銀と黒鉄をクロス字に構え、集中するように目を閉じる。


「その炎はあらゆる邪悪を焼き尽くし、その光はあらゆるものを照らす」


 最後のその一節、その剣の名を告げようとしたその瞬間、何かを感じ目を開いた。


「ッッ!!」


 一体いつその枷から解かれたのだろう。

 すぐ目の前に、シリアルキラーの白い手が迫っていた。

 

 ライトは斜め後ろに飛び、スレスレのところでそれをかわす。


 彼を掴み損ねたシリアルキラーはそのまま直進すると壁に激突、激しい音を辺りへと響かせながら停止した。


 しかし、それで生き絶えるほど柔ではないらしく、ゆっくりとライトたちの方へと振り向いた。


「貴様! アレを止めろ!」


 すでにホーリアを組み伏せてしまったデフェットが言葉を荒くさせるが、それを全く気にしない様子でホーリアは宣言するように言った。


「無理ですよ。アレは新たな人間です。

 そのような存在が私の指示に従うわけがないでしょう?」


 鍔迫り合いをしていたビルツァを突き飛ばし、ウィンリィが言葉を飛ばす。


「あんたは!!そんな欠陥品を作ったのか!!」


「当然ですよ。

 何かの命令に従うのではそれはホムンクルスやゴーレムと大差はありません。

 あれは、意思を持つ。人間なんですよ」


「あんたたちは!!」


『待って!』


『次が来る!』


 ライトも言葉を飛ばそうとしたがそれを白銀と黒鉄が制する。


 バッとシリアルキラーの方を見るとそれは獲物を見定めたらしく三つの口から雄叫びをあげた。


「「「ッッッッ!!!!」」」


 それはもはやこの世のものとは思えない声。

 否、それはもはや声と表現するのは正しくはない。


 ただの音、別々の高さが重なり合った音。

 それが地下の空間に鳴り響き、そこにいる者たちの鼓膜を振動させる。


 シリアルキラーが狙いとして定めたのはライト。


 右三本、左二本の腕と二本の足で地面を這うようにしながらライトへと近づく。


「マーシャル・エンチャント!!」


 唱えて後ろに飛びながら白銀と黒鉄を振るい、マナの衝撃波を飛ばした。

 それはシリアルキラーの腕を左右一本ずつ切り落とす。


 切り落とされた箇所から青い血を吐き出させながら、バランスを崩したそれは頭から地面に衝突、頭を擦り付けながら停止した。


 ゆっくりと上半身をあげるシリアルキラーへとライトは白銀と黒鉄を構える。


 さらに追撃の一撃を加えようとしたところでその異変は起こった。


 突如としてシリアルキラーの頭や体、腕の白い皮膚が一斉に盛り上がった。

 沸騰した水のようにぶくぶくと膨れ上がったそれはほぼ一斉に破裂。


 そこに現れたモノを見て、ライトは息を飲んだ。


 現れたモノは無数の人の顔。


 老若男女問わず、人の顔がそこに広がっている。

 その全てがたった一つの例外もなく苦しそうな苦悶に満ちた顔をライトへと向けていた。


 いや、例外はあった。


 シリアルキラーの三つの口。

 その全てが何が面白いのか、それともこれを楽しんでいるのか三日月のように深い笑みを浮かべている。


「あっ……はっ、はぁっ!」


 ライトはその光景を見てゆっくりと後ずさる。

 全身から力が抜けていき、手から白銀と黒鉄が滑り落ちた。


(俺、は……)


 シリアルキラーがよろけながらも二本の足でゆっくりと立つ。


 そう広くない地下室、天井スレスレのところにそれの頭があるが表情は変わらず笑ったままでライトを見下ろしていた。


 シリアルキラーの至る所にある人の顔。

 声帯もなく、目も形だけあるそれが苦悶の表情でライトへと何かを訴えようとしてか口を動かしている。


『ッ!? まずい!』


『まさか! 精神攻撃!?

 ダメだ! 目を閉じて!』


 白銀と黒鉄が何かを言っている。

 だが、ライトはすでにその声を聞くだけの脳の容量などない。


 全てが支配されている。


 白いそれの表面に浮かぶ顔。

 それらが動かす口が頭の中で勝手に声として処理している。


『痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!』


 絶え間なく作られる声が無数に、無限に続いていく。


「あ、ああ……」


 ライトは両手で頭を抱える。

 体から力が抜け、膝を折っていたがそのことに彼は気がついていない。


『苦しい! 苦しい! 苦しい! 苦しい!』


「俺は……今、何をした……」


 自分は今、何を切った?


 その問いに悩む必要はない。


 ホーリアという魔導師が作り上げた新たなる“人類”(シリアルキラー)だ。


 ライトは理解できてしまった。


 そう、人間だ。

 あれは、あの姿をしていても人間なのだ。


 体を統一され、思考を統一され、それでも痛いと、苦しいと訴え続けている人間たちだ。


(俺は、なんの罪もない人に……剣を……)


「主人殿!」


「ライト!!」


 デフェットとウィンリィから声が飛ぶが、その声はライトには届かない。


 耳には入っている。

 しかし、それが意味のある言葉として脳が処理できていない。


『ねぇ、アナタも私たち(俺たち)(僕たち)と一緒に、なろう?』


 三つの口がたしかにはっきりと言った。


 それと同時にライトの意識は消し飛んだ。彼の目には覇気がない。


 しかし、視線は自分へと伸ばされるシリアルキラーの手へと向いている。


 デフェットはその光景を見ると、地面に押さえつけていたホーリアを荒々しく解放。


 すぐさまクラフェットⅡを唱えてライトをその場から押し出すような勢いでぶつかりながら肩に担いで移動。


 シリアルキラーの手は空を掴むに終わった。


「主人殿! 主人殿!!」


 肩に抱えたまま左手でライトの頬を叩くがボーッとしたままで現実に帰ってこない。


 シリアルキラーはしばらくその場で辺りを見回していたが、何か思い立ったように外へとその頭を向けた。


「「「ッッッッ!!!」」」


 何かを叫ぶと地下室の出入り口を広げるように破壊、地上へと上がっていった。


「なんだ……突然」


 デフェットが呆然とそれを見ている中でホーリアはパンパンと服に付いた汚れを払いながら立ち上がる。


「始まりましたね。ビルツァ、行きますよ」


「了解」


 ウィンリィと一定の距離を保っていたビルツァが答える。

 しかし、それをただ何もせず見逃す道理はない。


「逃すか!」


 ウィンリィはその剣で横薙ぎするがビルツァはひらりとそれをかわし、ホーリアの方へと一直線に向かう。


 そのまま彼を抱きかかえるとシリアルキラーの後を追うように外へと向かった。


「なぜ、急に外に……」


「外、地上……」


 突如として向かったシリアルキラー。

 「始まった」というホーリアの言葉。


 それらを踏まえて外、地上には何があるのかを考え始めてその結論にたどり着くのにそう時間はかからなかった。


 すぐにそれが浮かび、二人は目を見開く。


「ウィン殿!」


「ああ、わかってる!」


 交わした言葉はそれだけだ。


 ウィンリィが白銀と黒鉄を拾い上げ、さらにそのウィンリィをライト共にデフェットが脇に抱え、外へと走り出す。

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