表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/282

初陣へ

 合流場所は村から北東に進んだちょっとした丘陵地帯。

 そこは綺麗な芝に覆われ、和やかな風が吹く場所だった。


 そこでラバウラーが各ギルド派遣部隊長の話し合いを行う。

 その間、ライトたちのような者たちは休憩時間となるため、各々に話し合ってり、腰を下ろし武器の整備をしていた。


 ライトとウィンリィもその例に漏れず、2人で話し込んでいた。


「ーーギルドの作戦でこの規模はあんまりないなぁ」


「やっぱりそうなんだ」


「ああ、各ギルドから約30人。

 んで合計が約90人だからな。まぁ、今回は数が多いらしいからなぁ」


「俺もそれは聞いた。ゴブリンたちって普通ならどんぐらいなんだ?」


「そうだなぁ。いつもなら大体10体前後、多くて20を少し超えるぐらいだな。

 今回の規模だと……100とかじゃないか?」


「そんなに? 結構多くないか?」


「まぁ、時々あるんだよ。最初のうちに気が付かないで数が増えたパターンだな」


 ウィンリィの言う通りなら数は多いが特別異常というわけでもないらしい。

 その証拠に彼女は慣れたように肩をすくめながら続ける。


「そんな心配する必要はないさ。

 知っての通りあいつらは馬鹿で有名だ。

 作戦なんて立てないし、ただ突撃してくるだけだからな」


 さらに言葉を続けようとしたときに横合いから男性の声が飛んできた。


「そうそう、魔術師と弓師の奴らで遠距離から攻撃、取りこぼしは他で潰す。罠も有効的だ。

 ま、簡単な仕事だよ」


「だよな~。やっぱこの人数はおかしいよな。オーガがいるって言っても出てこないんだろ?」


「ああ、そのはずだ。念のためだろうが、心配性が多いな」


 ライトとウィンリィの会話に入ってきたのは斧や槍を持った男性3人組だった。


 全員プレートアーマーなどを着ており、武器も少し使い古されているところから完全な素人ではないことは伺える。


 ウィンリィはその顔を見て一瞬険しい表情を浮かべた。


 ライトがその表情に少し疑問を持っていると話しかけてきた男性グループの1人が続けて口を開く。


「お前、ギルドの仕事はこれが初めてか?」


 風格と他の2人の反応からしておそらく彼がこのグループのリーダーだろう。

 その妙に馴れ馴れしい聞き方に少し眉をひそめながらもライトは頷く。


「あ、ああ。そうだけど……」


「ふーん」


 その男性はどこか気の抜けた声を出しながらライトを品定めするかのように見回し始めた。


「あ、あの……何か?」


 困惑しながら言うとその男性はニヤリと口を歪めたかと思うと手を差し出して「よろしくな」と言った。


 ライトはその表情の変化を疑問に思いながらも手に取る。

 その後、少し話すとその男性グループはどこかに行ってしまった。


「なんだったんだ? あいつら」


「はぁ、これだから。脳筋野郎どもは」


 その言葉には多分に呆れが含まれていた。表情にも同じような感じがある。


「どいうことだ?」


「さっきのはお前がちょろそうな奴か値踏みしてたんだよ」


「はぁ?」


 ライトのまだ理解できていない様子にウィンリィは耳元で少し小声で言う。


「あいつらは戦利品が目当てなんだよ。

 あらかじめ決められた報酬とは違い戦利品は“自由”に奪える」


「それは当然じゃないのか?敵が持ってたものを奪うのはいいんじゃ––––」


 そこまで言ったライトをウィンリィは首を振り否定する。


「普通ならな。

 だが、中には同じ仕事をしてる奴からも奪うような奴もいるんだ。最悪殺してでもな」


「なっ!?」


 ライトは目を見開く。

 いくら生活がかかっているとはいえ人の命を奪い物を奪えばそれは盗賊となんら変わりない。


 いや、生活がかかっているからこそ人から奪うのだろう。


 どの世界でも弱者がいて強者がいる。

 弱者は強者に食われ捨てられる、それが世界の理だ。


「戦利品は拾ったやつの取り分になるからな。

 この辺は商人も通るし、近くの村でも被害が出てるって書いてあったろ?

 貴重品が混ざってる割合が高いんだよ」


「そ、そこまでする奴が」


 信じられずそう言うが心のどこかではそれに不思議を感じていなかった。

 元の世界でもそういう輩はいた。ただ身近にいなかった、それだけだ。


「いるんだよ。あいつらはそれの常連なんだろう。

 今回は大規模だからな。いつ誰が殺された、なんて判別しにくい。

 私も注意はするが、混戦になったらそうもいかない。気を付けろよライト」


「ああ、分かった」


(そうか。だから最初に会った時––––)


 ライトは一昨日のウィンリィの言葉を思い出す。


『いや、初めて会った奴にそんなことを言われるとは思わなかったからな』


(ウィンリィは女性だし俺以上にそう見られても不思議じゃないな)


 ギルドで同じ仕事をしても決して仲間ではない。

 おそらくそれはギルドで仕事を受けている者が全員分かっていること。


 なのにライトはなんの躊躇もなく“仲間”と言った。

 ウィンリィはそれに驚いたのだ。と今更ながらに気付いた。


「全員集合!!」


 そんなことをライトが考えているとバウラーの声が後ろの方から聞こえてきた。


「お呼び出しだ。行こうぜ」


「あ、ああ」


(始めての本格的な戦い。あの森の時とは規模が違う。

 それに仲間も、同じ人間も疑う必要がある)


 緊張しているのを見据えてウィンリィはライトの肩を激しく数回叩き言う。


「そう心配すんな。バウラーに言われたんだろ?

 危なくなったらすぐに逃げるなり、助けを呼ぶなりすればいいさ」


 そう言い優しく微笑むウィンリィの表情はまるで子を優しく元気つける姉のような表情だった。


◇◇◇


「……よし、全員揃ったみたいだな。それでは各員の部隊分けを行う。指示通りに動け」


 バウラーは言うと他のギルド派遣部隊長たちとともに次々と部隊を分けていった。


 そして、それから数10分後。


 攻撃部隊とその支援部隊、予備部隊は洞窟に近い林に移動を開始した。


 攻撃部隊にはライト、ウィンリィとあの男性3人、それ以外にも支援部隊、予備部隊を含めて約50人の人々がいた。

 そこに含まれなかった約40人は防衛部隊として近くの村の前で防衛線と罠の設営を行う。


 移動することさらに10分。


 その集団が合流地点から東に進み、キャンプ地である林に到着すると先頭を歩いていたバウラーは振り向きすぐさま指示を飛ばした。


「それでは、ここにキャンプ地を作る。各員かかれ!」


 バウラーの声が掛かると同時に集まって動いた者たちは散ってそれぞれ動き出す。


「まさか、俺が攻撃部隊に入れられるなんてな……」


「不安か? やっぱり」


「やっぱりって……なん……ああ、不安だよ。やっぱり」


 ライトは一瞬強がりを張ろうとしたがやめた。

 そんなことをしてもウィンリィの前では無駄だと分かった。


 そもそも隠したとして良いことなどない。


「最初はそんなもんさ。安心しろ。お前の背中は私が守ってやるからな」


「頼むよ。ウィンが背中を守ってくれるなら心強いよ」


 ライトは安心したようにウィンリィに微笑みかける。


「お、おう。そうか……」


 そう答えるウィンリィの顔は少し赤い。

 ライトから視線を外しぽりぽりと頬を掻いている。


「ん? どうしたんだ」


「な、なんでもない! ほら! ぼーっとしてないでさっさと準備するぞ」


「あ、ああ。そうだな」


(ウィンリィ、もしかして照れてるのか?)


 ライトはウィンリィのその反応にどこか嬉しさを覚えていた。


 一方のウィンリィは––––。


(あー! あー! びっくりした。ライトってあんな顔するんだな)


 思いながらもウィンリィはライトのさっきの微笑みを思い出す。

 その瞬間に自分がまた顔を赤くしているのが分かった。


(なんか……可愛かったな)


 その考えが浮かんだ瞬間にウィンリィは首を横に振りそれを振り払う。


(なに考えてんだ? 今から戦闘なんだぞ。

 こんな浮かれた気持ちじゃライトを守ってやれねぇ)


 ウィンリィは気合を入れるようにパンッと両頬を両手で叩く。


「どうしたんだ? まさか、体調がーー」


「いや、なんでもない! 大丈夫だから。ちょっと気合を入れただけだ」


「そ、そうか」


 そして、戦いは始まる。


「よし、全員揃っているな。

 それでは予備部隊はここで待機。攻撃部隊は私に続いて攻撃を仕掛けるぞ!!」


 バウラーは叫ぶと自分の武器であるハルバートを掲げる。


「「「「「おおぉぉぉぉ!!」」」」」


 それに答えるかのように他の者たちも己の武器を天高く掲げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ