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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第四節 シリアルキラー

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身勝手な想い

 翌日、ライトたちは揃って南方騎士団の本部まで足を運んでいた。


 南副都サージの北東にある要塞風の大きな建物が南方騎士団の本部。

 そこからさらに東に進むと、奥には南副都を収める領主の大きな城があるが、そちらは今回の目的地ではない。


 今回用があるのは騎士団の方だ。

 用件は当然、昨夜のゴーレムを観察すること。


 ライト、デフェットどちらもそれがゴーレムだと予測することはできても断定は出来ない。

 また、それが誰のものなのかもわからない。


 そのため、魔術の専門家であるホーリアとビルツァはそれらの判別。

 ウィンリィとは具体的な情報の共有のため、全員が揃って一緒に来たのだ。


「にしても、本当に入れるのか?」


「う〜ん、たぶん。入れる、はず……」


 騎士団本部の門の近くにあった受付のようなところに用件を言い、十分は経ったがまだなんの音沙汰もない。

 たしかに予約などはしてないが「やはり急すぎたか?」とライトも心配し始めた頃だった。


 受付の奥から一人の男性が声をかけて来た。


「いや〜、すまんすまん。

 当直明けの引き継ぎに少し時間がかかってしまってな」


 それは昨夜、ライトたちの事情を聞いた騎士だった。

 彼の後ろには一人の騎士が立っている。


「申し訳ないが私はこのあと休みでね。

 彼が君たちの案内をする」


 その騎士は受付カウンターの横から出てくるとライトたちに一礼した。


「では、ご案内します。付いてきてください」


 彼が言ったのを合図にその横にある同時に少し大きな扉が開かれた。

 そこへと騎士が歩いていく後を一行も続いて歩き始める。


◇◇◇


 騎士団本部に入って数分ほど歩いた。


 入ったのは地下の一階。

 どうやらここは罪人の牢屋も兼ねているのか、いくつか鉄柵と小部屋が並んでいた。


 彼らの目的のものは並ぶ部屋の一つにあった。

 その部屋の床には布が敷かれ、その上にゴーレムの残骸が雑に並べられている。


 ゴーレムはその体をマナによって形を維持している。


 マナティクコンデンサと呼ばれるコアが機能停止したせいで形を維持できなくなり崩壊。

 しかし、完全にバラバラにならないのは残されたパーツにマナが残留し、ある程度の形を維持し続けるからだ。


 というような説明をホーリアから聴き終えたライトたちと騎士。


 騎士はそれを興味深そうに聞いていたが、ハッと自分の仕事を思い出したのか、少し焦りながら口を開いた。


「後ほど報告書を騎士団の方に提出していただけるということですので、満足するまで見て頂いて構いません」


「ありがとうございます」


 ライトがそう礼を言う頃にはすでにホーリアとビルツァはゴーレムの残骸に寄り、静かに破片を見ている。


「デフェ、どう?」


「……アレから少し濁りのようなものを感じます」


 指差したのはゴーレムの胸部に埋め込まれていたパーツだった。

 それはミードの剣が貫いたちょうどその場所にあったらしく、穴がでかでかと開いている。


「あれは……マナティクコンデンサですね」


 マナの濁りはゴーレムのマナティックコンデンサが原因で発生する。

 そして、この副都でゴーレムを研究しているのはただ一人––––


「アヴィケー殿の工房からも同じものを感じました」


 そうなるのは当然で、そしてそれは間違いなく、アヴィケーが犯人であると言う証拠であった。


「そう、ですか……」


 ホーリアからしてみれば複雑だろう。


 追っていたシリアルキラーの犯人、少なくともその共犯者に自分の友人がいたのだから。


 少しの間、彼らは言葉を失い場に沈黙が流れたがそれを壊したのはミードだった。


「それで……どうするんだ?」


 その言葉には焦りのような、怒りのような何かが含まれている。


 そうやって会話をすることで動き出そうとする体を無理やり止めようとしているような雰囲気をすらをも感じられた。


「……少し準備をしましょう。

 そこのあなた。今から報告書を書きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「は、はい! わかりました。少々お待ち下さい。

 係の者を連れてきます」


 急な展開に騎士は慌てて部屋を出た。

 ホーリアは続いてライトの方を向いて質問を投げかける。


「ライト殿。

 たしか、次に彼と会う約束は二、三日後としていましたね」


「は、はい。

 だから遅くても明日には会う予定ですけど」


「それは好都合です。ゴーレムが回収されたと分かれば彼もそう呑気に構えてはいないでしょう。

 明日、彼を……捕縛します」


 ホーリアは顔を伏せながら言い。

 そして、彼らに頭を深く下げて続ける。


「お願い、します。彼は優秀な魔導師、そして、私の数少ない友人です。

 だから、どうか……どうか!」


「あ、頭を下げてください」


 ライトが涙声で言うホーリアの肩を掴んだ。


 彼の目には大粒の涙が浮かんでいる。

 それを拭うこともせずにホーリアはさらに泣き出しライトに縋り付き、嘆くように言葉を続けた。


「身勝手なのはわかっています。

 ですが、彼には何か事情があったんです! 何か……だから!」


 ライトはそこで「自分たちも殺すつもりはない」と言おうとした。

 だが、視界の隅に写った拳を握りしめているミードの姿が目に入ってしまった。


 ミードは自分の友人たちを失った。


 どんな理由であれ、彼にはとても許せることではない。

 殺すなと言われても主犯と思われるアヴィケーを見れば我を失い、剣を手に取ることだろう。


 しかし、もしミードがアヴィケーを殺してしまえばホーリアはどうなるだろうか。


 自分と同じように大切な友人を殺されたその憎しみは今度はどこへと向かうのだろうか。

 それ以外にも友人を失うという消失感と虚無感を他の誰かに味合わせるのか。


 ライトにはミードが何を考えているかなどわからない。

 ただ、口をきつく閉じ、拳を握りしめて葛藤しているように彼には見えた。


「お願いします……お願いします」


 重い空気の中、ホーリアのその小さな、弱い声だけがその部屋に響いていた。


◇◇◇


 あれから三十分後、落ち着いたホーリアはビルツァと共に報告書を書きに行った。


 残りのライトたちはそれが終わるまでの間客間に通され、そこで待つことになっている。


 それぞれの前には紅茶と焼き菓子が置かれているのだが、その場にいる誰もそれらに手をつけない。


 ライトは紅茶の液面からミードへと視線を移す。


 何を考え、何を思っているのかはわからない。

 彼はずっと窓から外の景色を睨みつけながら拳をきつく握っているだけで言葉を一言も発していない。


 なんと声をかければいいのか。

 誰もが悩んでいるとミードの方から声をかけてきた。


「なぁ、ライト……」


「ッ、な、なんだ?」


 驚き少し反応に遅れながらも聞き返したライトへとミードは続ける。


「俺は、どうすればいいと思う?」


「どうって」


 そんなものわからない。

 そう返しかけたが飲み込むことで防いだ。


 自分ならどうするだろう。


 もし、ウィンリィやデフェットが殺されたとして、その犯人がすぐ目の前にいたら自分は剣を収めることができるだろうか。


 振り上げたその剣をどこへ向けるのだろうか。


 その考えに至るとオブラートに包むこともなく正直に言った。


「俺が、もし、ミードと同じ状態だったら

 ……たぶん、殺す」


 どう考えても、どう見積もってもその行動にしか行き着かない。


 大切な存在を殺されて平静など維持できるわけがない。

 我慢などできるわけがない。


 間違いなく、その剣をその犯人へと向けて振り下ろすだろう。


「そう、か……お前も……」


 ミードの言葉と声音は自分もそうだと告げていた。


 今浮かんでいるこの言葉は身勝手の塊だ。そんなことは重々承知している。


 しかし、それでもライトは口を開いてその言葉をぶつけた。


「でも! 俺は、ミードが殺そうとしたら止める。全力で」


 目を見開いたのはミードだけではない。


 ウィンリィ、デフェットもそうだ。

 しかし、二人はどこかわかっていたのか表情を緩めて肩をすくめた。


「ミードのその気持ちが全くわからないでもない。でも、止める」


 ここでミードがアヴィケーを殺してしまえば今度はホーリアが憎しみに飲まれかねない。

 そして、その憎しみの対象は殺した者へと向く。


 そうやって憎しみは繋がっていく。


 そんなことを見過ごせるわけがない。

 彼とともに歩くものとして、彼の新たな仲間として。


「俺は……俺は、ミードにそんな片棒を担がせるわけにはいかない。絶対だ!」


 ライトの言葉そうして締めくくられた。

 それらを受けてミードは数度目をパチパチとしていた。


 自分の頭で言葉を噛み砕いているのかどこか呆然としている。

 そして、その作業が終わったらしくミードは大きな声で笑い出した。


 その反応に三人は面食らっていたがミードはライトの肩を数度強く叩く。


「お前、面白いやつだと思ったが……まさかここまでとはな!」


「み、ミード?」


「お前が俺を止めろよ?

 俺は絶対に我慢できない。確実にそのアヴィケーとか言うやつに剣を向ける」


 ライトは肩に乗せられたミードの手を取り、どこか挑戦的な笑みを浮かべて答えた。


「任せろ。止めてみせるさ。絶対にな」


 最後に手を離し互いに拳をぶつけた。

 そこで、ミードはウィンリィとデフェットへと言葉を向ける。


「お前ら、こいつにずっと振り回されてるだろ?」


 ミードのその問いに二人は「もちろん」と言葉を添えながら頷いた。

 ライトが驚愕とショックを受けたような顔を浮かべる中でウィンリィ、デフェットはそれぞれ言う。


「でも、飽きないよ。一緒に居るとな」


「ああ、当然だ。少々、冷や汗をかくところもあるが……な?」


 そう言う彼女たちの表情は呆れも確かに含まれていた。

 だが、それ以上にどこか楽しそうに見えた。


 ミードはライトの髪をぐしゃぐしゃにするほど荒く、強く撫でる。


 当然、そんなことをされてライトも驚き言葉をかけるがそれを無視して窓の外、青い空へと視線を向けた。


(なぁ、見てるか?

 新しい仲間はお前たちと同じ、いや、それ以上に面白いやつらだ)

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