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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第四節 シリアルキラー

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調査開始

 一足先に調査を始めたライト、デフェットはある魔導師の工房に着いていた。


 工房、といっても外観は普通の家より少し大きいぐらいの一階建てで他の家と変わりはない。


 そもそも工房とは魔導師が魔術の研究をするための設備があり、魔術による結界などが貼られている建物を指す。


 そのため、普通に見ただけでは違いを見つけることは難しい。


 しかし、それは普通の人間に対してだ。


 魔術を使っている、ということはどこかで必ずマナの不自然な流れが発生してしまう。


 その流れを見ることができるマナリアならば簡単に魔導師の工房かどうかを見分けることができる。


「ここで間違いない」


「よし……なら早速……」


 ライトがその工房の扉に行こうとしたがデフェットがそれを止めた。


「待て。主人殿……なんと声をかけて入るつもりだ?」


「え?そりゃ……あ」


 ライトもデフェットの危惧をようやく察して声を漏らす。


 魔導師にも様々な種類がいる。

 ホーリアのように積極的に協力する者もいればそういうことに無関心な者もいるだろう。


 それを抜きにしても「あなたはシリアルキラーに関わっている可能性があるから調べさせて欲しい」と言われていい気分はしない。


 それが原因で調査に非協力的にでもなれば面倒だ。


 それに加えて、真正面から聞いてもし本当にシリアルキラーの関係者だった場合は自分たちが殺されかねない。


 そうでなくても証拠を隠される可能性がある。


「……そうか。もっと慎重にならないとな」


 ライトは自分の心がどこか焦っていたことにも気がつき、落ち着かせるように息を吐いた。


(落ち着け……焦ってもむしろ遠回りになるだけだ)


 そう思うと同時に思考を回す。


 外から調べるにしても限度がある。

 黒か白かをはっきりさせるにはどうしても工房内をくまなく調べる必要がある。


 魔導師から工房に入れてもいいと思わせる材料。

 何かないかと考えているとある案をライトは思いついたのか「あっ」と声を漏らした。


「いや、手はある」


「どういうことだ?」


「材料……あるじゃないか」


 その言葉にデフェットはライトの考えにたどり着いたらしくハッとした表情で頷く。


「ああ、なるほど。しかし、乗ってくるか?」


「決まってる。ホーリアさんの言う通りなら、な」


 ライトはニヤリと笑みを浮かべて自分たちが止まっている宿へと走り出した。


◇◇◇


 アヴィケーは魔導師である。


 南副都に工房を構えており、助手は二人。

 その工房もやはり外見は普通の家と変わらないが地下があり、そこにはとある魔術に関する本と道具が並んでいる。


 そして、その部屋の奥には人型の巨大な何かが居た。

 それは四肢を投げ出し、壁に背中を預けて命令が下るのを待っている。


「よし……起動開始」


「起動開始。術式を停止から起動に変更。

 マナティックコンデンサ内のマナ、各部位への循環を開始」


 助手の一人が言うと人型の逆三角形に三つ並んでいる三角形の目が光った。

 するとゆっくりと四肢に力を込め、それが立ち上がる。


 立ち上がったそれは人間よりも大きい。

 それは石と土と合金で形作られた全長三メートルのゴーレムだ。


「おお……」


 面を踏みしめ、二本の足で立ち上がったそれを見て助手たちは興奮したように声を漏らした。


「おい!記録!」


「あ、わ、悪い!」


 言われた彼は魔術陣に表示される数値を見て、手に持っていた紙に書いていく。


 ゴーレムを見たもう一人の助手はアヴィケーに声をかけた。


「立ちましたね」


「……ああ、しかし、ここからだ。歩行開始」


 彼らの前に立つそれは出された命令に従い、ゆっくりと右足を浮かせ、前に出そうとしたところでそれは起こった。


「あ!」


「下がれ!」


 アヴィケーとその助手の男性は急いでそれから可能な限り距離を取る。


 その瞬間、残った左足の膝がそれの重さに耐えきれず潰れ、そこから連鎖するように崩れ落ちた。


 土煙が晴れたその場所には形を完全に失い、頭や腕などかろうじてゴーレムだった頃の面立ちは窺える。

 しかし、その八割は元になった土などの小山になっていた。


「……失敗だな」


 アヴィケーはゴーレムだった物のかけらを持ち上げたが、完全に持ち上がる前に土塊になって消える。


「はい」


「残念です……せっかく立つことは出来たのに」


 アヴィケーの隣にいた助手と記録係の二人は本当に残念そうに肩を落とした。


「原因はやはり、大型化による過負荷か……」


「恐らくは……」


「やはり、歩行時は関節部を魔術で強化するようにすればいいのでは?」


「だが、そんなことをすれば歩くたびに膨大なマナが消費される。

 コンデンサ内のマナ供給では追いつかない」


「では、コンデンサを……いや、そうすると重量が増えて結局変わらないか」


 アヴィケーが指を鳴らすとそれに反応し、部屋の角に固まっていた人型のゴーレムたちが立ち上がった。


 それの大きさは人とそう変わらない。

 しかし、顔に口はなく、耳もない。たった一つの目があるだけだ。そのためか頭部は小さい。


 それらはアヴィケーから出された命令に従い土塊を片付け始めた。


 アヴィケーが行なっているのはゴーレムの研究と開発だ。


 人間と同サイズのゴーレムならばすでに完成し、今のように動いている。

 彼らがしているのはそれから発展させた巨大ゴーレムの作成。


 なぜこの南副都で行うのか。それは単純に素材が多いことにある。


 体の八割を形作る土、それを砂を圧縮して作るため、その砂が豊富にあるここで開発を行っている。


 関節部には合金、炉心(コア)であるマナティックコンデンサは砂から作れないが、副都からの援助があるため、問題なく仕入れることができる。


 ––––そう、普通なら問題なく。仕入れられる。


「しかし、参りましたね。これで合金はともかくとしてコンデンサの素材が……」


 合金は使い回しがある程度できるがマナティックコンデンサはそうもいかない。


 あれは生物の外骨格を主な材料としており、ゴーレム作成に使用し失敗した場合ほぼ確実に壊れる代物だ。


 現に今回もコア内部に刻んだ文字は霞んでいたり、潰れている。

 再び文字を刻むこと自体はできるだろうが、それだと性能が大幅に下がる。


 そして、その生物の外骨格も今壊れたものが最後だ。


 副都の援助は今月分はすでに使った。


 頼みの綱であるギルドへの依頼も最近のシリアルキラーのせいでほぼ受けてもらえない。


「ああ、これは……今月はもう何もできんな」


「期限が決められてないとはいえ……結構きついですね」


 ため息をついた三人だが次の瞬間にはパッと表情を変えていた。


「かわりに、アレを進めるぞ」


「了解。素材はきちんと冷凍保存をしています」


「鮮度はまぁまぁってところですけど実験には使えると思います」


 よし、とアヴィケーが頷いたところで客人が来たことを告げるベルが鳴らされた。


 行動に移そうとした彼らだがその動きを止め、互いに顔を見合わせる。


 今日は何かあることなど聞いていない。

 工房の検査と研究書類の提出はまだまだ先のことだ。


 突発的に魔導師の工房を訪れるもの好きなどそうはいない。

 もしかしてそのそうもないタイミングを引き当ててしまったのだろうか。


 そう思案していたアヴィケーに助手の一人が声をかける。


「先生、どうしますか?」


 居留守をする。ということも確かに考えた。


 しかし、もし訪ねてきたのが副都の者だった場合、良い印象は与えないだろう。


 さらにそれをきっかけに工房内をくまなく調べられたりなどしたら、下手をすれば“あの事”がバレてしまうかもしれない。


 それだけは避けなければならない。

 まだ、バレるわけにはいかない。


「……対応しよう」


 助手の二人はコクリと頷き、準備を始めた。


◇◇◇


 ライトとデフェットはアヴィケーの工房の扉の前に立っていた。

 ベルを鳴らして少し経った後にデフェットが口を開く。


「……出ないな」


「実験中だった。と考えるべきか……それとも」


 何かを隠しているのか。

 そんな考えを巡らせていると扉がゆっくりと開かれた。


 そこには金髪を短く切り揃え、メガネをかけた男性がいた。


「お忙しい中、申し訳ありません。私はライト。冒険者をしております」


「……そんな者がここに何の用だ?」


 訝しむような目を向けられるがそれは予想通りの反応。

 気にせずにライトは返す。


「素材に困ってないかと思いまして。宜しかったら私たちの方で用意があるのですが」


 その言葉を聞いてその男性は少し黙り込んだ。

 頭の中で考えを巡らせながら、ライトの顔色を伺っている。


 その間にライトは扉が完全に締め切られないように入り口へとゆっくりと足を滑り込ませた。


 一方、その男性は結論が出たのかライトとその後ろのデフェットを見やると扉を大きく開いた。


「私がこの工房を取り仕切るアヴィケーだ。上がってくれ。詳しい話は中で……」


「はい。ありがとうございます。デフェット」


 呼び掛けられたデフェットがアヴィケーの代わりに扉を抑えるとライトはマントを脱ぎ、彼に続いて工房内へと入った。

 その後にデフェットも二人の後を追い、その中へと入る。


 ひとまずの目標をクリアし、バレないように心の中で胸を撫で下ろした。

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