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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第四節 シリアルキラー

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動きだす者たち

 ミードの幼馴染であり、旅の仲間でもあったリーズンとレーテの遺体が発見されてから三日。


 ミードはあれからライトたちと同じ宿に泊まるようになったのだが一人部屋を借り、部屋からはあまり出ていない。


 彼の食事はライトたちが部屋まで運んでおり、帰ってくる食器は決まって空なのできちんと食事は取れている。


 早急に何かする必要はないだろうが、それでも彼が塞ぎ込み続けているのは変わらない。


 仲間が幸せそうにしていた。

 自分はそれを壊したくなかった。


 だから身を引いた。


 なのに、彼らは殺された。


 自分が身を引いてまで守ろうとした笑顔は別の何かによって粉々に破壊された。


 彼らがミードに幸せそうに笑うこともなければ話すこともない。


 そんな体験をした者が何を思っているかなどライトにはわかりようがなかった。


「……はぁ」


 少し前にミードと入った大浴場で湯に浸かりながら息を吐く。


 あれから三日だ。

 その間彼らは何もしなかったわけではない。


 マナの濁り、淀みがある場所を探して回った。


 その場所はやはり裏路地にばかり集中していた。

 そして、そこには必ずシリアルキラーが残した死体がある。もしくはあった。


 ライトの最初の見立て通り、シリアルキラーとマナの淀みは関係があらということはもう間違いない。


 だが、結局のところわかったことはそれぐらいだ。


 マナとシリアルキラーにどんな関係なのかはライトたちにはわからない。

 白銀や黒鉄に聞いても「わからない」と答えが返ってくるだけだった。


(結局は……何もできてないのと変わらないじゃないか……)


 また深い息を吐いた時だった。


「隣、よろしいですか?」


 声の方を向くと、四日前にここで出会ったホーリアと呼ばれていた男性魔導師がいた。


「ええ、どうぞ」


 ライトのその許しにホーリアは「では」と言い隣に入り、息を吐く。


「今日はお一人ですか?」


「ええ、まぁ……」


 歯切れの悪い言い方にホーリアは何かを察したのか「そうですか」と言うだけで深く聞いてくることはなかった。


 二人の間に訪れた沈黙。

 それを壊したのはライトの方だった。


「あの、研究の方は区切りが付いたんですか?」


 黙っているとどうしてもミードやその仲間のことを考えしまう。

 だから聞いた。


 自分にはあまり関係ない話でもしてそのことを少し忘れたかった。


 ライトの心中を察してかホーリアは声音を明るくさせ答える。


「ええ、どうにか問題点をクリアしましてね。

 あと一つ、足りないものがありまして……それを組み込めば終わり、っというところまで来ました」


 ふと、その研究がなんなのか興味が湧いたがそこまで聞ける気分ではなかった。

 そもそも、聞いたところで答えてはくれないだろう。


「それは……おめでとうございます」


「ありがとうございます。これでようやく私も動けます」


「……動ける?」


「はい。私は明日にでもギルドの方にシリアルキラーの本格的な捜査を依頼しようと思っています」


 たしかに彼は前に会った時に似たようなことを言ってはいたが、まさか本当に捕まえる気だったとは思っておらず、ライトの口から反射的に言葉が出た。


「本気、だったんですか?」


「もちろん。

 私もここに住んで居る者として気が気でありませんからね」


 彼が言うには人数はそう多く取る気はないらしい。


 せいぜい五人前後に依頼して助手のビルツァと依頼主であるホーリアも加わって捜査をする、とのことだ。


「ただ、報酬はあまり多くは出せない、ということが問題でして。

 それだけ集まるかどうか……」


 これは僥倖(ぎょうこう)とも言えるのではないのだろうか。


 自分たちだけの捜査は完全に行き詰まっていたところだった。


 何より魔術が関わっていることは明らかだ。

 ならば、魔導師の力を借りられることができれば、そこからシリアルキラーを捕らえられるかもしれない。


 とはいえ、一応ウィンリィたちに相談の一つでも入れておくべきだろう。


「明日、その依頼を出すんですよね?」


「ええ、まぁ……そのつもりですが」


 そうと決まればゆっくりと風呂に入っている場合ではない。


 ライトは浴槽の縁に置いていたタオルを掴むと立ち上がり、湯から出る。


「わかりました。少し用事を思い出したので先に出ますね」


「ええ、“また”……」


 にっこりと柔和な笑みを浮かべながら手を振るホーリアに背を向け、ライトは脱衣所に向かった。


 その背中を見送ったホーリアは息を吐きながら手足を伸ばす。


(やはり、乗ってきてくれましたか……ここまでは予定通り)


「あと少しで……シリアルキラーを……」


 そのまま大浴場の天井を見上げて口を釣り上げ、小さく他の客に聞こえないように小さく呟いた。


◇◇◇


「––––と、いうことなんだけど。みんなはどう思う?」


 ライトは宿に戻るとその広間で早速ホーリアの話をウィンリィとデフェットにしていた。


「現役の魔導師の知識と技術……か。是非とも借りたいものだ。


「同感。

 私も魔術に関してはからっきしだし……やろう」


 デフェット、ウィンリィは好意的にホーリアの依頼を受けることに同意してくれた。


 あまり心配していなかったとはいえ、ホッと胸をなで下ろすライトへとデフェットが声をかける。


「しかし、彼はどうする」


 デフェットが指す彼とはもちろんミードのことだ。


 正直なところ彼にはじっとしていてほしい。

 今のミードは怒りや憎しみ、悲しみに支配され、正常な判断力がない。


 この話をした場合、確実に乗ってくるだろう。


 だが、それをしてもいいものか。


 彼のことを本当に考えているのならば、話さない方が正しいように思える。


 いつのまにか黙り込んでいた三人のうち、最初に意見を出したのはウィンリィだった。


「話さない、方がいいだろ。今の状況を見たらさ」


 その意見に二人とも賛成だった。

 その方がいいと彼らは話し合う前から確信していた。


 しかし、すぐに「そうだ」と結論を出すことが出来なかったのはミードの心情を思うがゆえだった。


 彼からしてみれば、復讐するべき相手を自分の手で見つけることができる。制裁を加えられる。


 そんな絶好の機会を誰かに潰されては、ミードはその復讐心のぶつけどころを失ってしまうことになる。


 それが果たして本当に彼のためになるのか。


「……いや、ミードには話そう」


「「ッ!?」」


 ライトの言葉にウィンリィとデフェットは驚いたように立ち上がった。


 彼も自分たちと同じ結論を出していたはずだった。

 なのに、唐突な方向転換に彼女たちは疑問の言葉を投げかける。


「危険だ。今のミードは何をするかわからない」


「ウィン殿の意見に賛成だ。

 冷静さを欠いた者の行動は読めない。あまりにも危険すぎる」


 ライトの意見変更に彼女たちは完全にミードの参加反対に意見を確定させたようだった。


 慌てて言われた意見だったが、それはまともなものだ。

 少なくともライトの意見よりも大きく間違ってはいない。


「でも、それでもミードには話すべきだ。

 今のミードが危険と言うのならそれを支えてやるのが仲間なんじゃないのか?」


 息を飲む二人にライトは更に続ける。


「それに、そのまま解決したとしてもミードの心はずっと塞ぎ込んだままで前に進めなくなる。

 だから、だから今のうちにそれを本人が払拭できるようにするべきじゃないのか!?」


 ミード本人にとっては余計なお世話かもしれない。


 だが、ライトからしてみればギルド酒場でのあの笑顔を浮かべ、仲間について話す彼が好きだった。


 このままミードが知らぬところで事件が解決したとしたら?


 自分は嫌だった。

 大切なものを奪った奴を殴ることも、罵声を浴びせることもできずに解決するなどライトは認めたくなかった。


 ライトは個人の意思を、ウィンリィとデフェットは全体の意思をそれぞれ尊重している。


 この討論は長引く、そう思っていたがデフェットが息を吐いた。


「……認めたくはない。

 だが、主人殿の個人を尊重する意見も正しい」


「デフェ……?」


「わかった。彼に話そう。このことを」


 意外なほどあっさりと意見を転じたデフェットに今度はライトも呆気にとられた。


 視線でなぜと問うウィンリィにデフェットは微笑みながら答える。

 それは優しく諭すと言うよりも呆れたようなものだ。


「諦めろ、ウィン。主人殿はこういう奴だ」


 そう、ライトはそういう性格だ。


 全体のことを考えるのならば普通はしない。が、自分や誰かがしたいと言えば普通にそっちを取る。


 最たる例があの砂漠越えだ。


 普通なら別の経路をいくなり、乗り物を使うなり、他の選択肢を取る。


 しかし、彼が砂漠越えをしたいと言い出した。

 だからわざわざ苦しい思いをしてまで決行した。


 ライトの「したい」ということは彼女たちもまたほとんど経験したことがないこと。

 疲れもするし、怒りたくなる時も普通にある。


 しかし、自分一人では絶対に見ないようなものを彼は見せてくれる。


 だから、苦しくなっても、辛くなっても彼とともにしたいと思うのだ。


 そんなどこか人を惹きつけるライトだからこそ、ウィンリィたちは思う。

 彼の背中ではなく、隣で彼が見るものと同じものを見て見たいと。


「……そうだな。わかった」


 ライトは表情を明るくさせ、一言「ありがとう」と言うとミードが泊まっている部屋へと向かった。


「意外だ。まさかウィン殿まで意見をかえるとはな」


「今のあいつに何言っても意味はないからなぁ……ただ、ちょっときついかもなぁ。

 二人も尻拭いをしなきゃならないなんてなぁ」


「……そう言う割には、どこか嬉しそうだが?」


 ウィンリィはそう言われて自分の口元に手を当てる。

 確かに口はいつのまにか微かにつり上がっていた。


「あー、まぁ……そうだなぁ」


 嬉しい理由はなんとなくわかる。


 ライトはいつも通りだ。

 ミードのあの状態を見ても彼がいつも通りなのが今は嬉しいのだ。


 それがミードにとって本当にいいことなのかはわからない。

 だが、ライトがいつも通りの姿で、意思で話していることが嬉しかった。


(私も結局……身勝手な人間、か……)


 ウィンリィは両頬を叩き、自分を鼓舞する。

 わずかにヒリヒリと痛む両頬を気にする様子もなく、彼女はデフェットへと言葉を向けた。


「やると決めたからには徹底的にやるぞ」


「当然だ。主人殿もミード殿も、どちらも死なせない」


 女性二人が決意を胸に頷きあった。


 ライト、ウィンリィ、デフェット、そしてミードの四人は翌日、ギルドへと向かった。

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