事件のヒント
二時間待っても来ないミードの仲間に不安を覚えたライトたちは二手に分かれて探すことにした。
ミードとライトが真っ先に向かったのはミードたちが元々泊まっていた宿。
しかし、彼らが別で借りていた部屋には二人はいなかった。
宿屋の主人に事情を言い、部屋に入れてもらったが、そもそもその部屋に帰ってきた様子がない。
「一昨日、二人はどこか行くって言ってなかったか?」
「そう、だな。
たしか明日新しく住む家を探して、次の日はカジノで少し遊ぶと言っていたか……」
ミードは「やめとけ」と言ったが、家を探し終えた後の端金で雰囲気を楽しむだけだと二人は笑っていたらしい。
部屋を見回すと剣と大きめのリュックはあるが、マントだけはない。
おそらく、夜は寒い南副都を歩くために着て外出し、そのまま戻って来ていないのだろう。
「……ということは、カジノに行ったきりってことか」
「カジノ街に行くぞ」
ミードは言うと同時、扉の前にいた宿屋の主人を押しのけるような勢いで外に走り出た。
よろけながらもなんとか踏み止まり、倒れずに済んだ主人にライトが言葉をかける。
「す、すいません。仲間が……」
「い、いえいえ。今が今ですから……焦るのは仕方ありませんよ。
それよりも、覚悟をしておいた方がいいかと」
主人はどこか憂いを帯びた表情を浮かべていた。
それが表しているのはただ一つ。
ライト、ウィンリィ、デフェットはもちろんのこと、ミードもおそらく心のどこかで感じていること。
その二人ははシリアルキラーによって––––
「……ええ、そうですね」
考えたくはないが、現状からだとどうしてもそう考えてしまう。
ライトは浮かんだそれを否定するために、考えないようにするためにミードの後を追い、宿屋を出た。
◇◇◇
ミードの後を追ってライトもカジノ街に到着した。
昼間ということもあり、カジノはどこも準備中の札を扉に下げていたり、看板を出していたりしている。
そのため人通りはほぼなく、夜と比べてかなり閑散としていた。
「ミード!落ち着けって!」
ライトがミードの肩に手を置き、振り向かせながら言う。
しかし、彼はその腕を荒々しく振り払い叫びにも似た声を返した。
「落ち着けるわけないだろっ!!」
その声と行動にライトは言葉を失い、後ずさる。
そんな彼へとミードは涙を溜めた目と明確な焦り、憤りを含んだ顔を向けていた。
その目を見てさらにかけようとした言葉を失った。
「お前に何がわかる」
ミードの目にはそれが嫌という程に明確に浮かんでいた。
その視線にから逃れるようにライトは俯き、ポツリと言う。
「……すまない」
ミードの反応は当然だろう。
幼馴染であり、長い間一緒に旅をした仲間たちが行方不明。しかもその街では殺人鬼がいるという状況。
最悪のことが浮かんで当然なのだ。
そんな中で落ち着けと言われて落ち着けるわけがない。
言った後にそこまで考えが至ったライトは悔しさで拳を握りしめた。
その反応と言葉にミードは焦りをある程度落ち着かせることが出来たのか、ハッとした表情をしてバツが悪そうに地面へと視線を下ろした。
「……俺の方こそ、すまない」
二人の間に言葉が無くなり、暗い雰囲気が漂う中でライトは息を軽く吐いて切り出す。
「とにかく、焦って走り回っても見つからない。ここは副都だしな。
一度ギルドに戻ってみんなと合流しよう」
「わかった……」
ライトとミードはそうして捜索を一時中断してギルドへと戻った。
◇◇◇
ギルドに戻った彼らはギルド内を見回すがやはりそこにミードの仲間二人姿はない。
落胆しながらも当然かとどこかで思っているとウィンリィとデフェットが元へと駆け寄ってきた。
「二人は……見つかってないみたいだな」
「宿には居なかった。
多分、昨日の夜にカジノ街に行ってそれっきり……とりあえず戻ってこれからの行動を決めようと思って」
「それならば、カジノ街を中心に見て回るべきだろうな。
それも表通りではなく……」
デフェットは最後まで言葉を言わずにミードへと視線を送る。
それが意味するものを容易に察することができたミードは拳を握りしめ、歯を食いしばりながら言葉なく頷いた。
「なら、ミード……二人の特徴を教えてくれ」
「……ああ、まず––––」
ミードが言う特徴をまとめると男性の方は深緑の短髪、服装は紺色を基調としたもの。
体格は中肉中背で名前はリーズン。
女性の方は水色の長髪でそれを後ろで一つにまとめ、服装は青を基調としたもの。
少し背が小さく、体格は平均的で名前はレーテ。
話を聞き終えたライトたちは念のためギルドの受付でリーズンとレーテの特徴、もし彼らが来たらここで待っててもらうことを伝えてから外へ飛び出した。
ライトとデフェットがカジノ街、ウィンリィとミードが近くの商店街へと二手に分かれ、捜索を始めた。
◇◇◇
カジノ街に来たライトとデフェットは裏路地を中心捜索を行っていた。
そこそこの時間歩き回ったが、残飯を漁りに来たらしい近くのスラム街の人たちがいるだけでどこにもリーズンとレーテの姿はない。
「主人殿……何も情報がない中で調べても埒がない。
何か策を考えなければいけないと思うのだが?」
デフェットのもっともな言葉でライトは考え込む。
確かに今の状況で探し回っても早々情報が得られるわけもない。
かといってその情報が入ってくるまでじっとするわけにもいかない。
と言うよりもミードが勝手に動き回ってしまい、二次被害を被りかねない。
創造で何か魔術を創るか。
そう思ったがどんな魔術を創ればいいのかがわからない。
(ん?いや……)
ライトが魔術について考えているところで白銀と黒鉄の言葉を思い出した。
確か彼女たちはマナが濁り一ヶ所に集まっていると言っていた。
あの時は疲れもあり、適当に受け流していたが今回、と言うよりもシリアルキラーの件と何かしら関係があるはずだ。
もしかしたら全く関係がないかもしれないが、手がかりが何一つ見つからない現状、藁をもすがる思いで調べることにした。
「デフェ。何か違和感、感じたって言ってたな?」
「ん? ああ、それは感じたが……?」
突然の問いをデフェットは聞き返すと目を閉じ、周りへと意識を飛ばす。
そのまましばらく目を閉じたまま集中していたがゆっくりと目を開いた。
「違和感は、感じる。
ただ、上手く言葉にできない……無理に言うなら、淀んでいる感じ……だな」
「淀んでいる?」
「ああ。マナに何か混ざっているような気がする。
集中しなければ気がつけないほどだが……」
「もっと詳しくわからないか?」
「……すまない。これ以上は私の力では」
魔術をほとんど使えないだけで現代マナリアの力は持っているデフェットの感覚でもわからない。
白銀、黒鉄にも一応聞いてみたがどちらも詳しい場所まではわからないらしい。
どうするべきか、と考えたが答えはすぐに出せた。
「……デフェの力だけで無理なら俺の力も使えばいい」
「それは、どう言うことだ?」
ライトは転生しても人間だ。少なくとも自分ではまだ人間のつもりだ。
マナリアのようにマナを見る力はない。
見えるようになりたいが、それが見えている景色、能力を上手く想像できないため、創造することができない。
しかし、それはあくまでライト自身が見る場合だ。
感覚の強化だけならば無から有を創るのではない。
もともとある能力を強化するための魔術としてなら創れるかもしれない。
「デフェ。手を貸してくれ」
言いながらデフェットの前に手を差し出す。
彼女は突然のことを疑問に思いながらもその手を取った。
「創造。マナオーゲン」
唱えてデフェットの反応を伺う。
先程創った魔術はマナの可視能力を強化したものだ。
詳しい感覚がよくわからないのでとにかくよく見え、よく感じる。
ということに視点が置かれた魔術。
きちんと発動するか少し心配したが、それは正常に機能したらしく、デフェットが目を見開き辺りを見回し始めた。
「あ、主人殿!? こ、これは……なんだ?
マナが、見え過ぎる!」
その反応を見てホッと胸をなでおろす。
どう見えているのか、彼女の体に他に影響はないのか気になるところだが、今のところは何もないようだ。
「大丈夫。デフェの能力を強化しただけだから。
きつかったら言ってくれ」
「は、はぁ? 主人殿、何を言って––––」
「いいから。マナの淀みが酷いところを探してくれ」
「わ、わかった」
戸惑いながら答えてデフェットは周りを見ていたがすぐに指を小道へ向ける。
警戒しながらそこへと近づくが何もない。
(いや、これは)
薄暗くてはっきりとは見えないが、石畳には何かシミのようなものがあった。
そのシミのような物は間違いなく、血が乾いた後のものだ。
しかし、それは動物の血かもしれないが人の血かもしれない。
ともかく、血であることは変わりがない。
「……ここだけか?」
「いや、まだいくつかあるが」
「ならそこにも行こう」
デフェットは首を傾げながらもライトをマナが淀んでいる場所へと案内していく。
案内されたどの場所も人通りの少ない路地裏だった。
建物の影になっており、陽の光もあまり入ってこず比較的涼しい。
目を凝らして指された場所を見るとシミのようなものはほぼあった。
そして、そういった場所を歩き回って5ヶ所目にそれらはあった。
「…………デフェ。ギルドと2人に報告を頼む」
「ああ、わかった」
デフェットがクラフェットⅡを唱えると強化されたその足でその場から走り去る。
「…………」
転がっている肉片。
元は人間だったであろうそれらを見てライトは拳を握りしめた。
腸が蛇のように腹から雑に飛び出し、他の内臓もいくつか飛び出していた。
頭部も目がくり抜かれていたり下顎がなかったり、手足も切り落とされていたりと何が足りなくて何があるのかさえもよくわからない。
そして、辺りにかすかに広がる血の鉄のような匂い、内臓に残っていたのであろう糞尿の匂いが鼻孔をしつこく刺激している。
腕で鼻を抑えてはいるがそれはあまり意味をなしていない。
そんな惨状であるがゆえにこれが誰なのかさえもよくわからない。
ただ、辛うじて血に染まっていない布の色がミードが言っていた特徴の服と合致している。
そして、それはバラバラになってはいるが辛うじて人の形は保っており、少なくとも人2人分の遺体であることに間違いはない。
(…………クソッ!)
ライトは悪態をつき、拳を握りしめた。




