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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第三節 マナリア

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さぁ旅を続けよう

 その翌日、その日は昨日の疲れを癒すために朝食を食べると借りている一室でゆっくりとしていた。


 そんな時、唐突にノックがされる。


「今出ます」


 デフェットが答えてベッドから立ち上がり、扉を開けたその先にはケニッヒがいた。


「ゆっくりしているところすまないね。君たちに客人だ」


「客人?」


「誰だろ?」

 

 ライトもウィンリィも心当たりなどなく顔を見合わせ首を傾げる。


 しかし、その答えはあっさりと出た。

 一階に降りるとマナリアの女性たちがいたのだ。皆笑顔をその顔に浮かべている。


「……あの、用があるって」


「ええ、そうなのよ」


 ライトの切り出しに笑顔で女性の一人が答えた。

 続けて別の女性が言う。


「私たちに恩返しをさせて欲しいのよ」


「え?い、いや!悪いですよ。そんな……」


 守ったのは確かだがそこまで感謝されるほどではない。

 夜にあのような催しを開いてくれただけで彼らにしては満足であった。


 断ろうと言葉を紡ぐがその言葉を無視しながら三人は半ば強引に両脇を抱えられた。


「いいから、いいから」


「え?で、でも––––」


「私たちはあなたたちを勘違いしていたのよ?

 その罪滅ぼし、と思ってくれないかしら?」


 さらに言葉を紡ごうとしたが耳元で囁かれたその言葉で塞がれた。


 ライトはウィンリィとデフェットに視線を送るが二人も同じようなことを言われたのか、抵抗するのをやめている。


 少し考え、やはり断りの言葉を出そうと口を開いたが、昨日言われたケニッヒの言葉を思い出し、飲み込むと別の言葉を口にした。


「……よろしく、お願いします?」


 ライトのその言葉を受けて女性たちは笑みを浮かべ、ただ一度強く頷く。


「さぁ、それじゃあ早速始めましょうか」


 そう言えば何をするのか彼女たちからは何も聞いていない。

 それを聞こうと口を開こうとしたところでその女性は続けて言った。


「脱がせましょう!」


「「「は?」」」


 三人の疑問と驚愕の声が重なる。


 しかし、それを気にすることもなく、ライトの目の前に立っていた女性が一気に彼の服をめくり始めた。


「え?」


「あら、旅をしてるだけあっていい体してるわね」


「は?ちょっ、急に何を––––」


「はいはい。少し我慢しててね〜」


 そう言いながらライトだけではなくウィンリィとデフェットの服までも脱がし始めた。


◇◇◇


 それから約三十分後、ライトたち応接室で机に突っ伏していた。


 件の女性たちはライトたちの体をくまなく調べると深い笑みを浮かべて走り去ってしまった。

 その途中に聞くこともできずに結局何をしていたのかは彼らには分からずじまいだった。


「う〜、変な感じ」


 ウィンリィが自分の腕や足をさすっている。


 彼らの体には表面を魔力が触れて流れていく感覚が残っていた。

 それは身体強化の時にわずかに感じる感覚に似てはいるがどこか違う。


 ライト、デフェットの二人は魔術で身体強化をするため、違和感を感じるだけに終わった。

 だが、その経験がないウィンリィはこそばゆいと感じたらしい。


「なんだったんだ?あの人たち」


「私にもそれは分からん。ただ、強烈だった」


「「たしかに……」」


 彼女たちのパワフルさを思い出し全員でため息をつく。


 そんな時にケニッヒが部屋に入って来た。

 その後ろにはティーセットを盆に乗せた男性がいる。


 ケニッヒは彼らの前の椅子に座り、後ろにいた男性は紅茶を淹れて部屋から出ていった。


「ありがとうございます」


 礼を言いながらライトは紅茶を飲む。慌ただしく混乱していた思考が少し落ち着き息を吐いた。

 それはウィンリィとデフェットも同じらしく、それぞれ一息ついていた。


 そんな三人を見て苦笑いを浮かべながらケニッヒは言う。


「相当にやられたようだな」


「ええ、まぁ……はい」


 一応はおそらく何かしらの好意でしてくれているのであまり強く言うこともできず、同じ理由でケニッヒにも言えずに苦笑いを浮かべた。


「まぁ、あまり気にするな。明日を楽しみにしておけば良い」


「は、はぁ?わかりました?」


 含みのある笑みを浮かべて言うケニッヒに首をかしげるが彼はそれを気に止めることなく聞いた。


「これはふとした疑問だ。悪く思ったのならば謝る。

 君たちはこれからどうする?」


「そう、ですね……」


「君たちが望むのであればここでの家を用意してそこに住んでもらってもいい。

 まぁ、この村の用心棒として働いてはもらうが……」


 願ってもない提案だ。

 素直にそれを飲んだ方が良いのだろうが、それでもライトには目的がある。


 その目的を達成するには今一ヶ所に留まってはいけない。そんな気がする。


 だからライトは頭を下げた。


「すみません。これ以上甘えるわけにはいきません。

 明後日ぐらいにはここを出てどこかに向かいます」


 真剣な表情で「どこか」などと曖昧なことを言うライトにケニッヒは我慢することなく笑うと「そうか」と言い言葉を続ける。


「では、今日明日はゆっくりしていくと良い。相当なことがなければ君たちを邪魔することはない。

 たしか、ウィンリィと言ったな。君も彼と同じか?」


「……はい。せっかくのお誘いなのにすみません」


「少々残念ではあるが、構わんよ。

 では、私は用事があるので席を外させてもらう」


 そう言うとケニッヒは立ち上がり、応接室から出た。

 それを合図にライトは二人に聞く。


「本当に良かったのか?」


 そんな問いを向けられた二人は呆れたように、脱力したように息を吐いた。

 ライトがその反応に疑問を感じるやいなやウィンリィが言う。


「あのな……私はお前と一緒にいるって言ったろ?

 お前が旅を続けるって言うならついて行くだけだ」


「私には愚問だな。私は主人殿の奴隷だ。

 元より選択肢はない。主人殿と共に行くだけだ。命令、であれば別だがな」


 二人の視線は「自分たちがいると不都合でも?」と聞いている。


 心強い二人がいる事で都合が良いことは多い。少なくとも不都合などを感じるわけがない。


「ありがとう」


 ライトは自分の幸運となんの迷いもなく自分について行くと言ってくれたウィンリィとデフェットに礼を言った。


◇◇◇


 あれから二日が経った。


 今日は彼らがマナリアの村から去る日だ。


「……本当にいいんですか?これ」


 ライトは自分が今着ている物に視線を下ろしながら見送りに来ていた女性の一人に聞く。

 あまり思い出したくないが彼女は二日前に自分の服を脱がした者だ。


「良いんですよ。お礼と罪滅ぼしです」


 ニッコリと笑みを浮かべて女性は言った。


 二日前、彼らの服を脱がし、肌の表面をマナでなぞったのは服の寸法を取るためだったらしい。

 次の日にはすでに新しい服が用意されていた。

 

 その服は肌触りが良く着ていて心地よい。高価な布を使っているのは確かだ。

 シンプルだが、細かい刺繍が施されており、高級感もある。


 申し訳ないと思い、少し金を出すと彼らは言った。


 だが、その提案は聞き入れてもらえず、かといってその感謝を無下にするわけにもいかない。

 そのため、少し罪悪感を感じながらもその服を受け取り、今着ている。


「近くを通りかかったら来るといい。歓迎するよ」


 ケニッヒが言うと他にも見送りに来ていたマナリアたちが頷き、それぞれが別れの言葉をライトたちに送る。


「はい。その時はまたお願いします」


「本当にお世話になりました」


「ありがとうございました」


 ライト、ウィンリィ、デフェットの順で言うとマナリアの村への門に背を向けて歩き出した。

 彼らが歩くその少し先には守人がすでにいる。


 いつもと変わらず、フードを目深に被った守人は歩き始めた彼らを見ると森の出口に向けて歩き出した。


 言葉はないがついて来いということらしい。


◇◇◇


 守人と彼らの間で言葉が交わされることはなかった。ただ静かに歩き進み、森の出口に出た。


「ありがとうございました」


 ライトの言葉に守人は軽く頷く。

 それを確認すると三人は森からゆっくりと離れ始めた。


 しかし、少し進んだところでライトは急に踵を返し、森の方に走り出した。


「主人殿!?」


「おい!!」


 デフェットとウィンリィの声を無視してライトは走る。

 守人は森に戻ろうとライトに背を向けていた、が近づいて来る気配を感じたのか振り向いた。


「はぁ、はぁ……」


「忘れ物か?」


 肩で息を繰り返すライトに守人は聞いたが首を横に振り、それを否定した。


 しばらく両膝に手を置き、息を整えていたがゆっくりと深呼吸をして守人を見据えると言う。


「また……来ます。絶対に、レーズリットさん」


「ッッ!!?」


 ライトが言ったことは短かった。

 しかし、そこにはたしかに想いがある。


 守人の本来の名前を呼ぶ、それはまさしく彼を一人の存在として認めていることに他ならない。


「ああ、そうか……楽しみにしているよ。

 それと、私のことはトラストで構わないよ。(ライト)よ」


 守人(トラスト)は言うとゆっくりと森の方を向き歩き始めた。


「ライト!」


「主人殿!」


 ちょうどそのタイミングでウィンリィとデフェットがライトに追いついた。


「……主人殿、彼に何を?」


「ん?いや、何も……ただ、また来ますって言っただけだよ。

 あの人にもかなりお世話になったから」


 ライトは言いながら森に消えていく守人の背中を見守る。

 二人はそんな彼の隣で守人の背中を見ていた。


「……にしてはなんか」


「ああ、そうだな」


 守人のその背中はどこか嬉しそうだった。


 ライトは軽く目を閉じて開くと森に背を向け、歩き出した。

 ウィンリィは右隣を、デフェットは左斜め後ろを歩く。


「次は……どこに行こうか。二人行きたい場所ある?」


「んー、私はないな。デフェは?」


「私もウィン殿と同じくない。

 主人殿が行きたい場所に共に行こう」


「そうか……んじゃ、そうだな––––」


 次の目的地を和気藹々と話し合う彼らの上、そこにはどこまでも青い空が広がっていた。

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