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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第三節 マナリア

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自分の想い

 マナリアの村は夜だというのに珍しく賑わっていた。


 ランプだけではなく、魔術で作られた灯りがいたるところで強く輝きを放っている。


 その明かりに照らされているのは大量の料理とそれを囲むマナリアたちだ。

 ちなみに料理のほとんどが今日倒したネスクを使った肉料理である。


 ネスクは魔術の象徴とされているため、殺すことは禁じられている。

 だが、大量に発生し襲ってきた時は別だ。


 その時だけはネスクを殺しても良いことになっている。


 狩ったネスクを魔術の向上を祈りながら食べ、牙や皮を使い、装飾品を作る風習がマナリアたちにはある。


 しかし、魔術の向上と言っても現在は名目だけだ。


 実際には魔術の向上を祈ってなどいない。

 その代わりにこのような祭りをするようになったのだ。


 ライトはネスクの串焼きを食べながらステージで行われる魔術を使った催しに目を輝かせながら見ていた。


「……楽しんでいる、みたいだな」


 そんな時にかけられた声。

 後半はどこか安心したように肩の力が抜けた言葉だった。


 振り返ってみるとそこには先ほどのネスク迎撃戦で迎撃部隊のリーダーをしていたマナリアの男性がいた。


「あ、はい。あまりこういうものは見ないので……」


「そう硬くならないでくれ。君たちは私たちの村を救った。

 そんな者にそんな態度を取られては催しが気に入らなかったのかと心配になってしまう」


「い、いや……俺たちがいなくても村は守れてましたよ」


 苦笑いを浮かべ、謙遜の言葉を出す。


 ライトの言葉はあながち外れてもいない。

 事実、ネスクの七割を叩いたのはマナリアたちの方だ。


 しかし、マナリアの男性は微笑みながら首を横に振った。


「いや、無理だった。

 たしかに、君の言う通り村を守ることはできただろう。

 だが、犠牲は出ていた。少なくとも三人だ」


 その三人はそこそこ深い傷を負った者たちだろう。


 たしかに彼らはライトたちがいなければ、後ろに下がり応急処置などできずにそのまま死んでいたのかもしれない。


 いや、下手をすれば前線が崩れ、迎撃部隊が全滅していた可能性もある。


 彼らはたしかに多くを倒してはいない。

 しかし、たしかにマナリアたちを救い、その手助けをすることはできた。


 それに間違いはない。


 マナリアの男性と話している時だった。

 服の下の方を軽く引っ張られる感触を受けた。


 視線をその方向に移すと先には少女がいた。

 ニッコリと笑みを浮かべながらどこかで摘んできたのだろう青い野花を両手で握りライトに差し出す。


「私たちを守ってくれて、ありがとう!」


 それを言われた瞬間、なぜか膝から力が抜け座り込んでしまった。


 さらになぜか目からは涙が溢れてきた。


 予想外の反応だったのか少女は心配そうにライトの表情を覗き込み、グループリーダーだった男性は少し焦ったような表情を浮かべながら背中をさする。


「ど、どうしたの?お兄ちゃん?大丈夫?」


「だ、大丈夫か?まさか傷を––––」


「違い……ます。大丈夫、です」


 涙が溢れて止まらない。

 自分が今どんな感情でいるのかが自分でさえもわからない。

 

 自分の気持ちの整理をつけられなくとも彼女には言わなければならないことがある。


 それだけはたしかにわかる。


 だからライトは涙を拭いて差し出された野花を受け取った。


「ありがとう」


 頬を涙が伝うがその顔には笑顔が浮かんでいた。

 それを見て少女はパァッと表情を明るくさせ、強く頷いた。


◇◇◇


 宴が終わりマナリアの村にようやく夜の静寂が訪れる。


 ライトはケニッヒ宅の屋根の上に登り夜空を眺めていた。

 その手には少女に貰った花が握られている。その花を上にあげて月と並べた。


 並べられたそれらを見比べ、月の方が綺麗だという者が大半だろう。


 しかし、ライトにとってはこの花はかけがえのないものだ。

 そこら辺に生えている野花でも誰かから感謝されてもらうのでは感じるものが違う。


(そういえば……誰かに純粋に感謝されたことなんてほとんどないな)


 強く覚えているのはアリス、アリシスだ。


 しかし、それ以降はどうだろうか。

 感謝の言葉は受けたがそれは仕事をした上での感謝だ。

 今回のこととは少し違う気がする。


「……あ、そうだ」


 ライトは何か思いついたのか手首につけていたブレスレットを外した。

 牙のアクセサリーに貰った花を括り付ける。


「オブジェクトセッ……あー」


 オブジェクトセットはあくまでも一時的に物質の強度を上げて形を固定するものであり、永久的な効果はない。


 そこで新たに魔術を造る。


「よしっと……創造(クリエイション)オブジェクトロック」


 今度はオブジェクトセットとは違い、永久的に効果を付与するオブジェクトロックを唱えた。


 手触りが少し硬くなってしまったがこれで萎えることも枯れることもなくなるだろう。


創造(クリエイション)スプライス」


 続けてブレスレットと花を括り付けている部分に唱える。

 その後軽く引っ張り括り付けた花が取れなくなったことを確認した。


 ちょっとした付け足しを終えるとそれを手首につけてそのまま月明かりにそれを照らす。


 満足気にそれを見ていた時だった。


「嬉しそうだな。ライト君」


 その声には聞き覚えがある。

 後ろを振り向くとやはりそこにはケニッヒがいた。


 彼はゆっくりと歩き、ライトの隣に来ると腰を下ろす。


「改めて礼を言う。

 ありがとう。我々に力を貸してくれて」


「い、いえ……当然のことですよ。

 お、私たちもお世話になってますから」


「礼をきちんと受け取るものだぞ。

 謙遜は美徳ではあるが、過ぎればそれは悪徳だ」


 諭すような言い方にライトは少し考え込むように間を開けて答えた。


「どう、いたしまして……?」


 恐る恐る言った言葉だがどうやら間違いではなかったらしく、ケニッヒはライトの頭を軽く叩いてブレスレットへと視線を移し、話を切り出した。


「それだが––––」


「え?……あっ」


 ケニッヒの視線を反射的に追うと目に入ったのは彼から貰ったブレスレットだ。

 牙のアクセサリーの横には花が付いている。


 勝手に弄ったのは悪かったか?と表情を少し暗くさせるライトに対し、ケニッヒは笑みを浮かべていた。


「いや、構わんよ。それは君に渡したものだ。その牙さえあればブレスレットをどう弄ろうとも自由だ。

 ただし、その牙だけは持っていてくれ。それは私が加工したものだからな」


 気恥ずかしそうに言うケニッヒはさらに言葉を続ける、と言うよりもそちらの方が本題だったようだ。


「正直、驚いたよ。

 そのようなことをする者が居たとは……」


「私も、驚きました。感謝されるとここまで嬉しいんですね」


 ケニッヒはその言葉が意外だったのか目を見開いた。


「まるで今まで感謝されたことがないような言い方だな」


 ライトはそれに対し苦笑いを浮かべながら答える。


「そんなものだと思いますよ?

 仕事上の感謝を言われたことは何度もあります。でも––––」


 ライトは右手を空へと伸ばした。


 伸ばされた腕、その手首に付いている牙のアクセサリーが月明かりをわずかに反射する。

 その光を受けて花が薄く光っている。


「––––ここまで、心に来るものなんてそうそうないですよ」


「想い、だな」


 ケニッヒの言う通りそれには想いが込められている。

 決して軽くはない想いがたしかにある。


「自分がやったことが本当に良かったのか。それをよく考えます。

 もしかしたら余計なお世話だったんじゃないかとか、しつこかったんじゃないかとか……」


 「でも」と言葉を区切ると伸ばしていた腕を下ろし、そこにあるブレスレットに付いている牙と花を指で撫でる。


「こういうものを貰えると、自分の行動が正しかったんだなって確信が持てますね」


「なるほど。君は……自分に自信がないんだな」


 驚いたりしない。正にその通りだからだ。


 自分に自信がない。


 だからそんな自分がする行為が正しいと思えず、信じられない。


 転生してからすぐにしたゴブリンオークの討伐戦。


 あの時に殺した女性たち。

 彼女たちを殺したことは間違いではない。

 そう思っているはずなのに、未だに心にしこりとして残っているのはそれが理由だ。


 ふとライトは思う。


 この旅は自分が見る世界を広げるためにしている。

 しかし、それは表側の理由で本当は自分に自信を持たせるためだったのかもしれない。


 自分でもよくわからないが、今はなんとなくそんな答えが出ていた。


「ライト君は旅をする前は相当に自身を下等評価していたようだ」


「……どうでしょう」


 苦笑いを浮かべる。


 転生する前のことを思い出しても特別なことや力はなかった。ただの学生で少し普通とは違ったが、一般家庭で育った。


 特異なことなど何もない。


 しかし、まるでその考えを悟ったかのようにケニッヒは首を横に振る。


「自分の力は自身にはわからんよ」


「……自分のことは自分が一番よく知ってるんじゃないんですか?」


 元の世界でよく聞いた言葉だ。


 ケニッヒはその言葉を一蹴するように笑うと立ち上がった。


「そんなことあるわけがないだろう?

 どれほどの力があろうとも認めるのは他者だ。自分ではない。

 認められなければそれは劣っている部分として見られるだけだよ」


 彼は月を見上げたかと思うと視線を下に落とし、マナリアの村を眺めながら言葉を続ける。


「ただし、唯一自分にしかわからないことがある。

 それはな……自分の想いだよ」


「自分の、想い……」


「ああ、そうだ。自分の力は信じなくとも良い。

 しかしな、自分の想いだけは常々信じ続けろ。それは君だけが持つ、君だけのものだ。

 どんなものにも変えられない。いや、変えてはいけないものだ」


 そう言い切るとケニッヒは失笑を浮かべた。

 なんとなくそれは自身に向けられているようにも見える。


「でも、想いは衝突します。

 違う想いは違う願いを持ちます」


「ああ、君たちは数が多い。ならばぶつかり合うことも我々より多いだろう。

 しかし、それはそれで良いのだ」


 ケニッヒはそこで言葉を区切るとライトへと視線を向けて続けた。


「君が私にしたように、分かり合えずとも相手の想いを否定しなければそれで良い。

 想いの否定は存在の否定と同じだからな」


 そういうと彼はライトから背を向けてゆっくりと歩き出した。と思ったが途中で何か思い出したのか振り返る。


「我々を助けてくれてありがとう」


 そう言い、彼は屋根から降りていった。


(自分の想い……)


 一人残されたライトを月明かりが優しく照らしていた。

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