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現状把握

 朝の8時。ライトは朝食を食べ終えると両手を叩き、乾いた音を食堂に響かせると呟く。


「それじゃ、行動開始といくか」


 ちなみに朝食のメニューは夕飯とあまり変わらない。ただのパンがトーストになっていたぐらいだ。


(やっぱり優先するのは情報収集だな。この世界についての詳しい知識が欲しいし)


 転生したこの世界について知っていることはほとんどない。

 言葉が話せ、字が読めるぐらいだ。


 しかし、知識は多く知っていて困ることはない。あればあるだけ自分の武器となる。


「そうと決まれば……」


 ライトは立ち上がり食器類を片付けると厨房に居る少し恰幅のいい女性に話しかけた。


「悪いが昼飯を包んで貰いたいんだが。出来るか?」


「わかりました。

 出来たら持って行かせますから少し待っていただけますか?」


 そう言うとニコッと母親らしい優しい笑みを浮かべた。

 ライトは軽い返事を返すと部屋に戻るため階段を登った。


◇◇◇


 部屋に戻り手持ち無沙汰になったライトは少し思考すると今持っている道具をベッドに並べ確認を始めた。


「ーーと言ってもあんま持ってないんだよな」


 今持っているのはブロンズソードが一本、刀が二本、財布(44,500G)、便利なマント。


(そういや、この刀の名前知らないな)


 そう思いながらよく見ると鞘に名前が彫られてあった。

 刃が白いほうが白銀(シロガネ)、黒いほうが黒鉄(クロガネ)というようだ。


「白銀と黒鉄、か……」


 この刀に妙な違和感を感じる。

 何かしらのいわくがあるのだろうが、まだこの世界についてさえ何も知らない彼に分かるわけもない。


 機会があれば調べよう、そう思いながら白銀を置いた。


「にしても旅用に物っているよなぁ。

 取り敢えず今思いつくのは水筒と携帯食料……って、この世界にあんのか携帯食料」


 必要な道具は最悪作ればいい。

 そうは思いはしたが能力で出来ることは知っているが、なにができないのか、創った物は永遠に残るのかなど詳しいところまで知らない。


「たしかめてみるか」


 自分の能力について知る。

 そのためにとりあえず手近にあるブロンズソードを創造で創ってみることにした。


 元々持っているブロンズソードを軽く眺めて、目を閉じ集中。


「……創造(クリエイション)、ブロンズソード」


 その言葉が空気を震わすと右手に光を伴いながら何かが集まっていく感覚が訪れる。

 そして、その光が落ち着く頃にはライトの右手にはブロンズソードが出来ていた。


(ちゃんと創れてるよな?)


 本物と比べて違うのは全体的に色が薄いぐらいだ。

 物に当たらないように気を付けながら軽く振る。振り心地も本物と差はあまりない。


 それから軽く振ったり鞘に納めてみたり、眺めてたところだ。

 ブロンズソードは徐々にその色を薄くさせ、ついには溶けるように消えた。


(維持できるのは大体5分か。ずっと残るわけじゃないんだな)


 創造(クリエイション)には時間制限がある。

 おそらく食料を作ったとしても栄養は作られないと考えた方が良さそうだ。


 それから数十分後、従業員から渡されたバスケットを受け取ったライトは外に出てとある場所を探し始めた。


◇◇◇


 情報が多くありそうな場所の定番はおそらくーー


「ここだよなぁ」


 目的の場所は村の中心に近い位置にあった。


 ライトが訪れたのはギルド程ではないがそれなり大きさの建物、この村の図書館だ。


 あるか少し不安だったが、紙や製本、印字の技術はこの世界にあるようだ。


 ライトは少し図書館を見上げる。

 他の家と同じような木で建てられているのだろうが二階建てで横に広い。


 その扉をゆっくりと開き入る。中は予想より広いという印象を受けた。


 二階建てで一階は本を読むスペース。二階には本棚がびっしりと並んでいる。

 ちなみに本を読むスペースはほとんどが共用で残りが個室のようになっていた。


 建物の構造を知ると二階に上がり、早速本を探し始めた。


 真っ先に手に取ったのは歴史の本だ。パラパラとめくり、内容がそうであるのを確認して別の本も探し、手に取っていく。

 そうして地理や魔術、童話集に旅関係の本を両腕に抱あることになった。


(だいたいこんなもんでいいか……

 試したいこともあるし、読む場所は個室だな)


 個人スペースはイメージ的にはネットカフェの個室が近い。

 隣とは木製の薄壁で仕切られており、周りから見えないようになっている。


 室内の方は椅子と机があるだけの質素な物だった。


 持ってきた本を机の上に置き、椅子に座り背伸び。

 そして、積まれた本を改めて見て声を漏らした。


「んー、これ全部覚えるんだよな……無理じゃないかなぁ」


 呟くライトの視線の先にはそこそこの厚さの本が六冊ほど重ねられている。


 彼はそこまで頭は良くない。ついこの間まで学力普通のただの学生だった。

 そんな少年に一つの国の諸々の知識を数時間で覚えるなど到底無理な話である。


 しかし、ライトにはある案が浮かんではいた。


(んじゃ、やりますか)


 なぜ「飛行が使えなかったのか」ライトの次の疑問はそれだ。


 魔術の使い方から察するとマナから魔力への変換がまだ上手くできていないから、かと思ったりしたのだがそれだとなぜ浮遊が使えたのかがわからない。


 そして、物を作ったときだ。

 創造で創った物は数分で消えた。これは練習すればもしかしたら時間が延びるかもしれないため、調査は続けるべきだろう。


 そこまでで新たな疑問が生まれたのだ。

 形が無く、そして飛行のような突拍子が無いようなものではないような。

 例えば、体質に近いものはどうなるのか。


 ライトはそれを試すため、少し小さい声で呟く。


「創造、エターナルメモリー」


 言い本を開くとそこに書かれてあることが次々と頭の中に入り溜まっていく少し不思議な感覚に襲われた。


 【エターナルメモリー】

 能力としてはかなり単純であらゆる物事の記憶能力を何倍にも引き上げるというものだ。


 この能力はライトの元の世界では完全記憶能力、瞬間記憶能力やカメラアイとも呼ばれている一種の体質だ。


(この感じだと永久的に残るような体質は創れるってことか……?)


 もともと人の枠の中のことしかできない、ということなのだろう。

 しかし、魔術としての飛行なら作れそうなものだ。


(やっぱり飛行が飛び抜けて難しいってことか?)


 これからも自分の能力について調べていこうと決めながら本の内容を頭に入れていく作業を始めた。


◇◇◇


 そして、それから数時間後。


「あ~、頭いてぇ」


 ちょうど昼ごろ。ライトは図書館から出て村の広場のベンチに座って頭を抑えていた。


 一度に多くの知識を詰め込んだせいか頭に軽い頭痛に襲われていた。


(一気に知識を詰め込むとこうなんのか……)


 慣れない痛みに一つため息を吐くとマントからバスケットを取り出し開ける。


「おおっ!」


 中にはサンドイッチ三個と一個のバーガーのようなものがあり、それらが綺麗に並べられていた。

 どれも丁寧に作られていることが分かるぐらい綺麗に作られており、彩りも美しく食欲をそそる。


 その中のサンドイッチを一口食べると咀嚼しながら空を見上げ、覚えた本の内容をゆっくりと確認していく。


(もしかしたら……って、思ってたがやっぱり魔族と戦争してたか……)


 ライトが現在いる大陸。名を【ラグナリア】という。


 この大陸をめぐり【王都セントリア】を中心とした人間側と魔王率いる魔族とは何度も戦争をしており、今の戦争はもう50年近く続いているらしい。


 ライトは村や目の前を通り過ぎて行く住人たちを見る。

 その住人たちに焦りや恐怖といった感情は感じられない。


(この緊張感の無さはなんだ? ここが田舎だからなのか?

 いや、関係無いよな……。ん~、やっぱり今目指すのはここより情報が多そうな副都だよな)


 副都は王都セントリアを中心とし東西南北にあり、それぞれ【北副都ノズ】、【南副都サージ】、【東副都トイスト】、【西副都ウイスト】という。


 副都はそれぞれの王が統治して発展しているため、それぞれの副都では文化に微妙な違いがあるらしい。


(ここは西の村だから近いのはウイストか……)


「ん?」


 考え事をしながら食べていたためにいつの間にかサンドイッチをすべて食べ終えていたようだ。

 バスケットの中を覗くがもう中には何も入っていない。


「ごちそうさまでした」


 ライトは手のひらを合わせてバスケットをマントの中に入れると立ち上がり軽く背伸びをする。


「次は買い物か……。とりあえず今欲しいのは水筒と食料かな?」


 言うと村の商店が集まっている場所に向かった。

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