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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第三節 マナリア

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守人の過去

「私が住んでいた村は【ヴステン】だ。知っているかい?」


 その問いにはっきりと頷いた。


 そこは西方に並ぶ村々の中でも酪農が特に盛んな場所だ。

 副都まで行く途中に立ち寄り、放牧を手伝った記憶がある。


 守人はそんなヴステンで産まれた。


「貧乏ではなかった。

 むしろヴステンの中では裕福な家だったよ」


「なら……なんでここに?

 ここにいるよりヴステンにいて家を継いだ方が良かったんじゃ?」


 そんなライトの疑問に守人は首を横に振り、苦笑いを浮かべる。


「いや、むしろ裕福な方だったからダメだったんだよ……」


 彼は話しを続ける。


 それは彼が五歳の頃。

 ふとした拍子に魔術を使えることに気がついた。


 当時はただ不思議なことができる。

 その程度の考えしかなかったが、周りの大人たちはそうでなかった。


 皆が賞賛し、讃え、褒めた。その中には当然ながら両親の姿があった。


 純粋だった彼はそれらの期待にさらに答えようと練習を続けた。

 毎日毎日、飽きることもなく、ただまた褒めてもらうために。


 そんな時だった。


 体にある変化が訪れ始めた。


 目に見えてわかったのは髪と目の色だった。

 元々はブロンドだった髪色が濁り始め、緑だった目の色もくすみ始めた。


 それは魔術を使っていると時々現れる現象。

 マナ(魔素)を体内に吸収、それを魔力に変えて魔術を行使する。


 その際、変換と同時に髪色や目の色、肌の色が変わることがあるらしい。


 周りは心配していたが彼はそれでも「大丈夫」と言い魔術の鍛錬を続けた。


 そうして十二歳になったある日、唐突に村を追い出された。


「なんで!?」


 ライトは反射的に勢いよく立ち上がり声を上げる。

 それを落ち着かせるように手で諭しながら守人は言う。


「怖くなったんだよ。私、という存在がね。

 私にはどうやら魔術の才があったらしい。それも普通の人よりもずっと大きい」


 もし、あれが「自分たちに向いたら?」今はまだ良い。しかし、これからもそうなるとは確証が得られない。


 そう考え出した村人たちは迷うことなく、まだ子供だった彼を無理矢理村から追い出した。


「それから副都に行ったよ。

 騎士団に入れば生活はできると……でも、できなかった」


 騎士団に入るには必要なものが大きく2つある。


 一つは何かしらの実力。

 そして、二つ目は騎士団の者から、あるいは王族や貴族からの推薦だ。


 例えば、西村第二十八で出会ったデヴィス。

 彼は剣術の腕からその村出身の騎士に推薦されて騎士団に入っている。


 守人は一つ目の実力は全く問題はなかった。

 体力自体も魔術での身体強化でどうにでもできる。


 だが、二つ目がどうしてもできなかった。


 それはそうだ。

 実力はあれど誰とも知らない者をおいそれと推薦はできない。


 推薦するということは、その者が何か不祥事を起こした際に同じように糾弾される責任を背負うということだ。


「なら、ギルドに行けば良かったんじゃ……

 ギルドなら実力さえあれば生活費を稼ぐことだって」


 騎士団への入団資格で基本的に知られるのは一つ目の項目だけだが、暗黙の了解として二つ目も広く知られている。

 

 その二つ目を達成できず、弾き出された者たちが多くギルドにはいる。

 そのため、もしかしたら騎士よりも強い者も多くいるかもしれない。


 ともかく、彼には騎士団に入団するだけの実力はある。それならばギルドでは相当に仕事ができるはずだ。


 だが、守人は静かにそれを否定した。


「私も最初はそうしていたよ……でもね、とても続けられなかった」


 仕事は順調にできていた。

 しかし、子供ということが原因らしく様々なものに目を付けられた。


「なんども、殺されかけたよ……それに嫌気がさして私は副都を出た」


 それからは人の村に近づくことはなく、副都近くのこの森に住み着くようになった。


「ある時、ヘマをして私は恥ずかしながら怪我をしていてな。

 死にかけだった……そんな時にケニッヒに拾われた」


 ケニッヒは人間である彼を看病した。

 魔術しか扱えなかった彼にボウガンの扱い方、体術、剣術を教え込んだ。


 理由は分からなかったが彼は守人に生きる(守る)術を与えたのだ。


「これはその恩返しさ。彼らを守る。

 たとえ、彼らが私を嫌おうとも。私を救ってくれたのだからな」


 さらにどこか恥ずかしそうな笑みを浮かべながら続ける。


「それに、人間の社会は私には合わない。人間のくせにな」


 話は終わったらしく守人は紅茶を飲みながら「どうだったかな?」と視線でライトに問う。


「……なんか、すみません。失礼な質問だったみたいで」


「最初に言ったろう?これは最初から話すつもりだった。と」


 たしかに彼は話を始める前にそう言っていた。


 だが、その理由がわからない。

 言いふらしていいような過去とは到底思えない。


 まるで意図を察せないライトへと彼は言葉を続ける。


「君はケニッヒに言ったようだね。

 踏み出さなきゃ見えないことがある……と。

 進んでいれば方向転換もできる……と」


 停滞し袋小路にたどり着くくらいなら発展を目指していた方がいい。


 たしかにそう言った。一歩でも先に進むべきだと。


「それらを成すには犠牲がある。切り捨てられる者もいる。

 それを君には知ってほしかった……」


 発展とは進み続けることだ。歩き続けると言うことだ。


 全体で進んでいるなかで先を歩き過ぎれば貶され、遅過ぎればそのまま取り残される。


 守人はその二つでは前者だった。


 あまりにも秀でた力を持ちすぎていたがゆえに蹴落とされ、今に至たる。


 先を進む、ということはこれからもそのように切り捨てられ、蹴落とされる者を一定数作り続けることになる。


「ケニッヒはそれも危惧してるんだろう……だから、発展を望まない。

 それは同族を差別し、選別することに等しいということを理解しているんだろう」


 だから成長を目指したデフェットを切り捨てた。

 守人と同じように集団から先に進みすぎた者を蹴落としたのだ。


 彼と違うのは円滑に進むためではなく、留まり続けるために切り捨てたという点。


 しかし、そうしなければデフェットの後を追う者ができるかもしれない。

 そうなってしまっては自ずと皆が歩き始める。


 今止めなければ人間の社会のように先を歩く者、全体、遅れている者に分けられ、残るのは全体のみになる。


 ケニッヒはそうなる前に一を切り捨てて十を守ることにしたのだ。

 それは村を治める者としてなら当然の選択だろう。


「……理解は、できました。

 けど、納得はできません」


 ライトの強気な答えに守人はまるで安心したような笑みを浮かべるとカップを手に取り告げた。


「理解したのならいいよ。

 誰かの意見にすぐに納得する者など自分を持っていない者の特徴だ」


 今度こそ話が終わったらしく、守人はカップの紅茶を飲みきると思い出したかのように切り出す。


「にしても良かったよ。

 君のような者と一緒ならば彼女も問題はないだろう。彼女と君は本質的に似ている」


 その優しい声音にライトは目を見開いた。


「え?でも、最初に会ったとき関係ないって……」


 このマナリアの村に訪れてすぐを思い出す。

 たしかにその時に彼は「どうなろうと関係ない」と言っていた。


 しかし、守人は柔和な笑みを浮かべながら答えた。


「そりゃ、関係はない。それは事実。彼女はもうこの村の住人ではないからね。

 でも、彼女はマナリアの中で一番マナリアらしい性格をしている。関係はないが、心配はするよ」


 安心したように言うそこには何かを偽るような雰囲気は感じられない。

 彼は本気でデフェットのことを心配していたのだろう。


 そして、その心配していた彼女は同じような性格と意志を持った者の元にたどり着いた。

 だから、安心できたし今後の心配も少ない。


 ライトは少し面食らったが最後の質問をぶつけることにした。


「あの……名前を、教えていただけますか?」


「名前?私のか?」


 ライトと同じような表情で聞き返す守人にすぐさま頷く。


 帰ってきたその反応に少し恥ずかしそうに頬を掻き、咳払いを一つ。

 そして、息を吐くと口にしなくなって何年かもわからなくなったそれを告げた。


「私の名前はトラスト。トラスト・レーズリット」


 トラスト・レーズリット。


 それが今はもう呼ばれることがなくなった、人間たちに捨てられた人間の名前だった。

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