表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第三節 マナリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/282

夜の誘い

 ライトたちは守人の男性に案内され、雑木林の中の少し開けた場所に出た。


「ここなら木を燃やそうとしない限りは自由に使って構わん」


 そう短く言うと守人は役目を終えたと言わんばかりに立ち去り、ライトたちだけがその場に残された。


 あの後、彼らはボウガンの練習ができるいい場所はないかとケニッヒに相談していた。

 しかし、林に関しては守人の方がよく知っている。と言うことで彼にここまで案内してもらったのだ。


「相変わらず無愛想な人だな……」


「でも、ちゃんと案内されたし、ここなら練習ができそうだ」


 ライトは言いながらボウガンに杭が入っているケース(カートリッジ)を取り付ける。

 魔力を込めると杭がセットされ、弦が引かれた。


 それを確認すると左手に持ち構える。


「ん。待て、主人殿。少し脇が甘い」


「えっと……こう、か?」


「ああ、そうだ。あと、顔をもう少しこっちに––––」


 慣れた様子でライトに構え方を教えるデフェットにウィンリィは聞いた。


「あれ?デフェはボウガン使えるのか?」


「まぁ、多少はな。私には合わなかったが……

 ああ、そうだ。それで撃ってみろ」


 デフェットはある程度教えるとライトから離れる。

 その距離が充分になった時、少し息を吐いて引き金を引いた。


 反動と共にわずかに音を鳴らしながら杭は放たれる。

 それは空気を引き裂き、一本の木の皮を剥いだ。


 息を吐き、もう一度ボウガンに魔力を流す。それに反応し杭が装填、弦が引かれた。


 再び充分に狙いをつけ、今度は反動のこともきちんと念頭に置きながら引き金を引く。


 放たれた杭は先ほど皮を剥いだ木に七割ほどが木に埋まった。


 その威力に感心しながらウィンリィは声を漏らした。


「へぇ。威力はそこそこあるみたいだな」


 ライトも息を吐き構えを解くとそのボウガンを見つめる。


「ああ。でも、まだまだ。狙いをつけるのが遅すぎる。

 これじゃあまだ実戦じゃ使えないよ」


「まぁ、その辺は練習あるのみだ」


 ライトの目標は左手のみで使うようになることだ。


 理由は単純、剣を同時に使うためだ。

 装填や弦を引くことは全て魔力でできるため、それは出来なくはない。


 その時の唯一の問題はカートリッジの交換。

 それだけは手動でしなければならず、そこが心残りではあるが、それを気にするにはまだ早い。


(とにかく、これを扱いこなせるようにならないとな)


 ライトは再び構えを取ると狙いを定める。

 彼の目の前にあるのは一本の木、先ほど杭が刺さった木だ。狙いはその少し上。


 ゆっくりと深呼吸をしてライトは引き金を引いた。


◇◇◇


 それから二時間後。

 みっちりと練習したライトは地面に座り込み天を仰ぐ。


「あ〜、疲れた……」


「まさかぶっ通しで練習するとはな」


 ライトはあれから一連の動作を体に覚えこませるため、時々デフェットからの指導を受けながら、木に向けて杭を放ち続けていた。


「だが、だいぶ早くなった。

 もうしばらく練習すればまだ少し早くできるだろう」


 デフェットは言いながらライトに手を差し出し、その手を取りながら立ち上がった。


「目標は片手で使えるようになることだからな。

 基礎をしっかり抑えてできるようにならないと」


「ま、なんにせよ。飯にしようか。さすがに腹減ったろ?」


 ウィンリィのその問いにライトは自分が少しふらついているのに気がついた。


 体力、魔力を消耗しすぎた彼を支えるようにデフェットは肩を貸した。


「ありがとう。それじゃ、一回帰ろうか」


「ああ、そうだな。昼食を食べたらまたやるか?」


「いや、少し休みたいかな」


 恥ずかしそうに笑みを浮かべるライトの顔には確かに疲労が現れている。

 そんなライトにデフェットは呆れ半分で息を吐いた。


「あまり無理はするな。いいな?」


「ごめん。ウィンもこんなことに付き合わせて」


 申し訳なさそうに言うライトにウィンリィは先を歩いていた足を止め振り向いた。

 その顔は彼を責めるようなジト目だった。


「あのなぁ、剣教えてるんだぞ?

 今更なんだよ。言う言葉、間違ってるぞ」


 その言葉に数度瞬きを繰り返すと息を吐くと同時に小さく笑みを浮かべ訂正した。


「ありがとう。ウィン。デフェさんも」


 二人とも優しく微笑みながら一度頷いた。


◇◇◇


 その日の夜。

 ライトは守人の男性に呼ばれて雑木林の中を歩いていた。


 呼ばれたのは夕食を食べたあと、ケニッヒに借りている部屋でボウガンの調整をデフェットに聞きながらしている時だった。


 ただ短く「話がある」とだけ言われた。


 当然、ウィンリィとデフェットは危険だと止めたが「そんなことはない」と押し切り今に至る。


「……あの、どこに向かってるんですか?」


「もう直ぐだ」


 問いに短く答えると男性は再び黙り込んだ。


 さらに追求しようにも彼は背中で静かに「ついて来い」というだけだ。

 たしかにその雰囲気は少し怖くはあるが、危険な感じはしない。


 ならば、とライトは静かにその守人の背中をついて歩き続けた。


◇◇◇


 薄暗い雑木林の中を歩き続けて十分。

 目的の場所についたらしく守人は立ち止まった。


「これって……」


 着いた場所はツリーハウスだ。

 立ち並ぶ木々に紛れるように作られているこじんまりとした家。


「私の家のようなものだ。登れるか?」


「あ、はい。大丈夫です」


 ライトの返答を聞くと守人は静かに頷くと静かに「クラフェット」と唱えた。


 それはデフェットも使う身体強化の魔術を発動させるための言葉だ。


 それを唱えると同時、守人は八メートルほどを一息で跳び上がり、ツリーハウスの入り口に降り立つ。


 ライトはそれに続くように「マーシャルエンチャント」を唱えて同じように高く跳び、守人の隣に着地した。


 それを確認すると彼は一足先にツリーハウスの中に入った。

 ライトもそれに続くように中へと入る。


 内部はハンモックと机、二脚の椅子がポツンと置いてあるだけの質素な作りだった。


 それ以外には壁にこじんまりとしたリュック、弓や剣が立てかけられており、その近くには矢が乱雑にまとめられている。


 そんな物淋しい部屋なせいか見た目よりも広く感じた。


「急に呼び出してすまないな」


 そう言いながら目深に被っていたフードを取り素顔をライトに向けた。


 髪はグレー、それが肩上で切り揃えられている。目の色は黒に近い。

 見る限りでは歳は二十代半ばといったあたりだろう。


 彼は今までどこか無愛想に感じていた者とは同一人物とは思えないほどの柔和な表情を浮かべていた。


「……え?あ、いえ、そんな」


 あまりのギャップに少し驚き、たじろぎながら答える。

 そうなる理由を心得ているのかどこか気恥ずかしそうに笑みを浮かべた守人は椅子を勧めた。


「そこに座ってくれ」

 

 素直にそれに従い近くにある椅子に座る。


 守人は小さいバックから水筒とカップを取り出し、中身を注ぎ始めた。

 淹れたてではないため香りは弱いが紅茶のようだ。


「あの……どうしてここに?」


「なに、私も話してみたくなったんだ。

 ケニッヒが認めた人間である君とね」


 言うとカップをライトに差し出し、彼も向かい側の椅子に座った。


「話って言ったって……急に振られても」


 自信なさげに小さな声で言うと守人は小さく笑う。


 それに対し少しムッとしたが不快には感じない。

 なんとなく近所の優しいお兄さん的な雰囲気を感じたからだ。


「はははっ、そう気難しく考える必要はないよ。

 しかしそうだな……うん。私に質問をしてみてくれないか?」


「……なら、なんでそんなに雰囲気が違うんですか?」


 守人の振りに少し躊躇いながらもライトは彼の言葉に甘え疑問を素直に口にした。


「まぁ、ここが私の家だから……と言う理由があるが第一に私は君の同族だ」


「はぁ……え?そう、なんですか!!?」


 あまりにもさらっと言われてしまい危うく流しそうになったが、どうにかギリギリのところで理解できた。


 たしかによく見ればマナリア特有の髪色も耳の形もしていない。


 そして、彼の言うことが本当ならば無愛想になるのも、話を聞きたいと持ち出してきたのも理由が察せる。


「あまり人間はよく見られないからな。

 ああしてれば下手に話しかけられることはない。魔術も一般的なマナリアと同レベルには使える。

 フードさえ取らなければバレはしないよ」


 マナリアと人間の仲の悪さは理解している。

 たしかに人間が自分たちを守っているとはいえ、近くにいることに嫌悪感を多少なりとも感じてもおかしくない。


 そうさせないためにわざと無愛想を演じ、マナリアとの接触を避けていたのだ。


 そうなるとやはり一つの疑問が浮かぶ。

 ライトは新たに浮かんだ疑問を何の気なしに聞いた。


「なんでマナリアの村を守っているんですか?」


 守人はその質問に少し表情を暗くさせた。

 その反応で「しまった」と後悔してももう口に出てしまったものは取り消せはしない。


 急いで謝ろうとしたがそれを守人は手で制す。


「え?」


「いや、いいよ。元々話すつもりだったからね……」


 守人は呟くとゆっくりと昔話でもするかのように優しい口調で話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ