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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第四章 第二節 集う者たち

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本当の再会

 夕食を終えたライトは北副都の城の庭園にいた。

 外から見たイメージとしては冷たい要塞のような印象を受けたのだが、その場所だけはまるで別の場所から切り取ってきたかのような華やかさを持つ。


 満月の光が綺麗に整えられた草を照らす様はどこか幻想的であった。

 そんな中で石畳の道を歩きながら思う。


(白い景色よりも緑のある場所の方が落ち着くな)


 時期としては春先。

 北副都周辺も所々で雪が溶け始める頃ではあるが、このように綺麗な緑が顔を出すのはまだもうしばらく時間がかかることだろう。


 この辺りでは命が巡っている。


 草花は一度なくなりはするが地面には種が残り、そこからまた芽吹く。

 冬を乗り越えた草食動物がそれを食らい、冬眠から目覚めた肉食動物がそれを食う。

 人間も多少違えどそのサイクルの中にいる。


 しかし、ディザスターだけは違う。


 あれは命のサイクルの外にあり、ただ破壊するだけのものだ。


(あいつだけは絶対に)


 時間はないが着々と準備は進んでいる。

 あとはやり切るだけだ。


 そんなことを思いながら歩いていたライトがたどり着いたのは中型の噴水。

 彼はその噴水を何気なく一周、そのまま戻ろうとしたところで声がかけられる。


「すごいよな。これ全部魔術で整備してるんだってさ。ほんと流石は副都の王の家って感じだよ」


「……ウィンリィ」


 ライトにそう呼ばれたウィンリィは一瞬表情を曇らせながらも笑顔を浮かべた。


「少し探したよ。まさかこんなところにいるなんてな」


「この辺、殺風景だからな。飽きるほど見るけど改めて見たいって思ったんだ」


「ははっ、まぁわかる。私も飛竜騎士になってからは空から見ることばかりでな。

 こうして地面で見るのとじゃ、やっぱり違うって感じるよ。

 こっちの方が落ち着ける」


「ワイバーンに乗れるのか」


「当たり前だろ? 飛竜騎士だぞ?」


 自慢するような顔で胸を張りながらウィンリィは言うと彼女の中の何かを吹き飛ばすかのように笑う。


 笑っていたが、心の中の何かが大きくなってきたようでその声は次第に小さくなり、最終的に消すとポツリと呟いた。


「飛竜騎士になっちまったんだ……」


 それは不安や後悔のようなものを含んだ声音だった。


 自分で選んだことなのか、選ばされたことなのかウィンリィにはわからない。

 その疑問にかかわらず、飛竜騎士でブルートの右腕のような存在という位置にいるのが今のウィンリィだ。


 たしかにブルートが自分にした所業は許されることはない。

 しかし、彼には助けられたこともあるし、信頼されていたというのは接していてわかる。


「過去の記憶を元に戻した時って今の私はどうなる?」


「わからない。少なくとも記憶が消えるってことはないだろうけど。

 ブルートとの関係とか見方は変わるだろうな」


「まぁ、そりゃそうだよな」


 記憶が消えることはない。

 しかし、確信がある。仮初めの記憶から作り上げられた今のウィンリィは消えることだろう。

 それでも彼女が出した答えは変わらない。


「私の記憶を元に戻してくれないか?」


 ウィンリィがその答えを出すのにどれほど悩んだのかはわからない。

 どのような自問自答を繰り返したのかもわからない。


「本当にいいのか?」


「ああ、これは今の私じゃなくて本当の私が選ぶことだ。

 そのためにも、取り戻しておかないとな。本当の記憶ってやつをさ」


「……わかった」


 ライトは頷くとウィンリィの手を取り、軽く握りしめる。

 その手を握り返しながらウィンリィは目を閉じた。

 小さく「さよなら」と口が動いたが彼は気付かないふりをしてそれを唱える。


創造(クリエイション)、リブート・メモリー」


 その詠唱は静かに響いた。

 なにか光が出たり、音が出たりといったことはなくただ静かに広がる。


 彼女に説明していた通り、やることは上書きされたブルートの顔を消す、ということだけだ。


 言葉にすれば無茶苦茶なことだが、それはマナで歪んだ部分を元に戻すということであるため、創造は正常に出来た。

 それが機能したという手応えもある。


 2人の間に無言が訪れた。

 ゆっくりと目を開いたウィンリィと目が合う。


 とっさに離れようとしたライトの手を引いたウィンリィは迷うことなくその頭を抱きしめた。


「ちょっ!?」


「良かった……ライト」


 その声は先ほどまで聞いていたものと同じ喉から出ているはずだ。

 変わったのは記憶だけのはずだ。


 なのに彼女が自分を呼ぶ声は3年ぶりに聞いたような気がする。

 なんとなく感じていた距離のようなものがなくなった。


「ウィン、本当に戻った、んだな」


「ああ、全部。ちゃんと戻った。

 私はウィンリィだ。お前と旅をしていたウィンリィだ」


 答えながらウィンリィは強くライトの体を抱きしめた。


 込められた力と少し息苦しさを感じる中で彼女の言葉と行動にライトは涙をこぼし始めた。


 ようやく本当の意味で彼女と再会できたことに、言葉を交わせることに喜び、こんなことに巻き込んでしまったことを申し訳なく思いながら彼は左腕で彼女の体を抱きしめ返した。


 そんな彼の背中を撫でながらウィンリィはからかうように言う。


「んな泣くなよ。ガーンズリンドの時みたいじゃないか」


「しょうがないだろ! 俺にとってウィンはーー」


 顔を上げ、ウィンリィに言葉を返そうとしたライトはそこで気が付いた。


 ずっとこうしていたいという願い、共にいるだけで妙に胸が高鳴り、話しているだけでどこか楽しいと思えるこの感情。

 これがおそらく“恋”という感情なのであろうことが。


(いや、そんなわけない!

 ただ、ちょっと気持ちが高ぶっているだけだ。うん)


 しかし「そうかもしれない」と思ってしまったせいか唐突に彼女の顔を見ることができずに顔を赤面させたライトは目を逸らした。


「んだよ、そこで言葉切るなよ。気になるだろ?」


 しかし、ライトが胸にあるものに気が付いたことなどまるで察していないウィンリィは楽しそうにしながらからかうように言った。


「い、いいだろ! も、もう離してくれ」


「え〜、嫌だ。言うまで離さない」


「はぁ!?」


 ライトはどうにかウィンリィの胸から抜け出そうと足掻くが言葉通り離す気はないらしく一層力を込めて抱きしめている。


 周りを見ずに動いていたせいで石畳の僅かな段差にライトは躓いた。

 そんな彼を支えようとしたウィンリィも足を滑らせた。


「うおっ!?」


「ちょっ!?」


 揃って驚愕の声を上げる中ですぐに反応できたのはライトだ。


 ライトはとっさに左腕でウィンリィの体を抱き寄せると半回転して地面に倒れた。

 彼が下敷きになったためウィンリィに怪我はなく、自身も顎を引いたお陰で頭に怪我を負うことはなかった。

 せいぜい背中に痛みが走っている程度だ。


「いっつぅ……大丈夫か?」


「あ、ああ、なんとかな。

 ありがとう。お前には助けられてばかりだ」


 言いながら立ち上がったウィンリィはライトへと手を伸ばした。

 それを取りながら返す。


「それは俺もだよ。

 ありがとう。俺にはウィンが必要なんだって改めて自覚したよ」


 真正面から恥ずかしがる様子もなく言い切られ、ウィンリィも流石に照れが表に出る。

 小さく「そうか」こぼすと照れ隠しのために掴んでいた手の力を抜いた。


 だが、今度はライトが離れることを許さない。

 立場が逆転したような感覚を受けたウィンリィだったが、顔は真剣そのものだ。

 そんな彼の目を見て彼女は言葉を失い、ゴクリと生唾を飲み込む。


「なぁ、ディザスターとの戦いが終わったら、また一緒に旅をしないか?」


「良い、のか? お前に剣を向けた相手だぞ?」


「関係ない。俺はウィンと、ウィンたちとまた旅をしたい。

 いろんなところを回って、見て、話したい」


 ウィンリィは小さく笑った。

 てっきり何かしらの答えが返ってくると思っていたライトは首をかしげる。


 そんな彼へと微笑んだままウィンリィは言う。


「お前がそう言ってきたことって今までなかったなって思ってな」


「え? そうか?」


 今までのことを思い返すが、たしかに自分から旅についてきてほしいとは言った記憶がない。


 ウィンリィは最初もガーンズリンドの時も彼女から言ってきた。

 デフェットはなし崩し的でどちらかが言ったわけでない。

 ミーツェも彼女自らついていくと言い出した。


「ああ、そうだよ。なんか、うん。嬉しいな。

 なんか気恥ずかしいけどそこまで想ってくれるっていうのはさ」


「喜んでくれたなら俺もちょっと恥ずかしくても言ってよかった。

 あの、それで答えは……?」


「そんな不安がるなよ。答えはもちろん、だ。

 ここは居心地は良いけど違和感があるからな。

 お前の右腕に私がなってやるよ。今まで通りな」


 ウィンリィは満月の光を背に受けながら清々しいほどの笑顔でそう言った。

今までずっと恥ずかしい勘違いをしていました……。

もし使い方が間違っているような言葉がありましたらお知らせしていただければすぐに直しますのでご報告をお願いします。

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