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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第二節 小休止

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悪評の敵意

 旅を初めて1週間が経った。


 宿の受付にあるテーブルを感情のままに叩いたウィンリィが雑に言葉を投げる。


「はぁ!? 泊められない? 泊まれない、じゃなくてか?」


 宿屋で受付をしている女性はその剣幕に押されながらも恐る恐るで首を縦に振る。


「は、はい……」


 その目はチラチラとライトの方を見ていた。

 ライトはそれを不思議に思い聞く。


「あの? なにか?」


「い、いえ。なんでもありません」


 ライトに聞かれすぐに女性はライトから顔をそらす。


 明らかに何かを隠しているように見えるが追求しても答えてくれる様子はない。


(……なんでこの人こんなに怯えてるんだ?)


 疑問に思いながらもウィンリィを止めるように肩を軽く叩く。


「なぁ、他の宿はないのか?」


「……ないな。新しくできた様子もないし」


 ライトはしばらく唸ると申し訳なさそうに宿屋の受付嬢に聞く。


「なぁ、せめて泊められないっていう理由を教えてくれるとありがたいんだが」


 その言葉に受付嬢はさらに困ったように、というよりもかなり怯えた様子で顔を強張らせる。


 ウィンリィも違和感を覚え、ライトに続くように言葉を発しようとしたときだった。


「……あんたが、殺したからさ」


 いつの間に現れたのか彼らが気がついたときには後ろに男性が立っていた。

 彼の後ろには他にも数人が並んでいる。


 歳は違うが全員男性で皆同じような表情を浮かべている。

 それは、怒り、憎しみの表情だ。


 ライトたちに声をかけた男性がライトに詰め寄り、言葉を荒げさせた。


「あんたが、この村の、いや、それ以外の村の女性たちもすべて殺したからだ!!」


 その男性の言葉を皮切りに次々とライトに罵倒の声が飛ぶ。


「っ!!?」


「はぁ!?」


 ライトとウィンリィは目を見開き驚きを露わにさせた。


 しかし、その気迫に押されながらもライトはなんとか反論する。


「ち、違う! 俺は助けようとした!でもーー」


「助けることはできたはずだ!

 1人でオーガを倒したんだろ? 魔術も使えるんだろ?

 それなのに殺したんだ!」


 男性はライトの胸ぐらを掴むと高く掲げ、一瞬の迷いもなく拳で殴り飛ばした。


 ライトはそのまま受付台まで吹っ飛ばされ、地面に倒れる。

 受付台にいた女性が突然のことに「ひっ」と息を飲んだ。


 男性は倒れたライトに近づくと腹を膝で思いっきり蹴る。


「ぐっ!!?」


 ライトは痛みに堪えるように腹を抱えるが、その手の上を再び蹴られた。


 彼への暴力はそれだけではなかった。

 男性の後ろに控えていた者たちも次々に近づき、追撃の蹴りを加える。


 ウィンリィも止めに入ろうとするが他の者たちに捕らえられ、身動きが取れない。


「おい! 離せ!」


(くそ! こいつら……!)


 ウィンリィからはすでにライトの姿は見えない。


 だが、なにかが蹴られるような重い音は断続的に聞こえているためどんな状況かは大体わかる。


「お前ら、わかってんのか!!

 そいつがいなかったらこの村は––––」


「そんなこと関係ない!」


「なっ!!?」


 ウィンリィの腕を掴んでいた男性が言う。


「あいつと一緒に死ねたなら関係ない! あいつは、優しいやつだったんだ。

 あいつは他のやつをかばってゴブリン共に連れて行かれた!」


 ウィンリィを掴む腕に強い力が込められる。


 憎しみと悲しみがグチャグチャに混ざり合っている声色と表情だった。

 そして、そこにはその感情をどこにぶつければいいのかわからない、という思いが強く現れている。


 彼らの感情がまったくわからないほどウィンリィは怪物ではない。


 しかし、それでも反論の言葉を飛ばす。


「ふざけんな!

 お前らの勝手な都合でこの村を壊滅させる? そんな権利お前らにあるのかよ!!」


 その叫びに驚いたのか一瞬込められていた力が緩んだ。

 ウィンリィはその隙を逃さず、拘束を振り解き、人垣を掻き分けてライトに近づく。


「ライト! 大丈夫か?」


「ウィン、か……」


 ライトは弱々しいか細い声でウィンリィの声に答えた。


 すでに服はボロボロで顔には痣ができている。

 おそらくそれは服の下の体や足にも広がっていることだろう。

 そして、ボロボロだったのはおそらくそこだけではない。


 むしろ精神的なダメージの方が大きいだろう。

 その証拠に目に写る光もかなり弱々しいものになっている。


「っ!! お前らーー」


 ウィンリィが立ち上がろうとしたがライトは彼女の足首を掴み首を横に振る。


「ダメ、だ。

 ここで、ここでやり返したらそれこそ、取り返しがつかなく、なる」


「っ、でも!」


 ウィンリィは黙り込み拳を握り締める。その姿が心の中での激しい葛藤を示していた。

 それでもライトは彼女を見つめ説得する。


 少しして自分を落ち着かせるように重い息を吐いたウィンリィは頷いた。


「……わかった。ライト、立てるか?」


「ありがとう。ウィン」


「いいって。ほら」


 ウィンリィはライトに肩を貸し立たせ、2人はゆっくりと宿の出入り口に向かった。


「お前らが、こいつのことをどう思おうが勝手だ。

 だがな、こいつがそのことについて何も悩んで、迷っていないわけがないだろうが」


 最後に周りの男性たちを睨みつけながらそう言い残すと宿屋を後にした。


◇◇◇


 2人は半ば隠れるように路地裏に移動していた。

 傷はすでにライトが創造した魔術【ダメージクリア】で治している。


 ライトは壁に寄りかかりながら地面に座り、ウィンリィはその正面にしゃがみこんでいる。


「ライト、お前。なんでやりかえそうとしなかった?」


「ダメなんだよ。それじゃ。

 そんなことをしたら俺は、本当に自分のために人を殺したことになる」


「向こうからやってきたんだぞ?

 お前はそれでもーー」


 ライトはウィンリィの頬に手を伸ばし優しく触れる。


「いいんだよ。あの人たちも俺が殺した人たちのあんな姿は見たくないはずだから。

 だからあの洞窟の人たちも殺してくれって言ったんだよ……」


 家族だから、恋人だから、友人だから、理由は様々だろう。


 そんな者たちと添い遂げたい。

 そう思うことになんら不思議なことはない。人間らしい普通の感情だ。


 だが、そんな大切な者ゆえに見せたくない姿というものもある。

 それもまた人間らしい感情と言えるだろう。


 そして、ライトは後者をとった。


 たとえ前者にどれほど恨まれ憎まれようとも。彼が選んだの後者の思いだった。それだけの話だ。

 それを説明しても怒りと憎しみをまとった者は理解することなどできない。


 ウィンリィは頬にある手に自分の手を重ね、握り締める。


「お前、やっぱり優しすぎるよ」


 しかし、ライトはそう言うウィンリィに首を横に振り否定する。


「いや、俺は優しくないよ。俺は自分のしたことから逃げたくないだけだ」


(本当に優しいやつなら殺すようなことはしなかった)


 ライトも記憶を消したり、やろうと思えば処女膜などもおそらくは修復することなどもできた。


 だが、彼女たちの意思を捻じ曲げてまでそうする必要があるのかを悩み考え、そして、最終的に殺した。


(俺は結局、決められなかった。怖かったんだ。

 自分で決めるこの行動が正しいのか、間違っていることなのか)


 だから旅をしようと決意した。


 もっと色々な人と出会って、色々な場所を訪れて、自分の世界を広げることを。

 そして、自分のやることに責任を持つために。


「いや、やっぱり優しいよ。

 そしてたぶん……お前はかなり強くなる。今はまだまだだがな」


「そうかな? そうだと、良いな」


「ああ。さてギルドにでも行こう。

 野宿するにしても飯は買わなきゃならんからな」


「わかった。行こうか」


 ライトは立ち上がりながら言い、ウィンリィと共にその村のギルドへと向かった。

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